第54話
学園が終わったあとに奏介は真夏にデートに誘われて夕焼けの街並みを歩いていた。
学園終わりということで時々制服姿の人を見かけるし、もしかしたら知っている人もいるかもしれないのだが、そんなことより真夏とのデートを楽しみたい。
「うーん、やっぱり夕方からだと楽しめる時間が少ないね」
「少なければその少ない時間で楽しめることをすればいいだけだよ、普段行かない場所に行ったりとかさ。そうだ、いい場所を知ってるから着いてきてくれるかな?」
「真冬さんに一応遅れるかもって送っておくね」
奏介が真冬さんに連絡し終えたのを確認した真夏は奏介の手をしっかりと握って「離れないでね」と言って歩き出した。
今向かっているのは星が綺麗に見えて蛍が飛んでいるからという理由で名ずけられた星蛍の丘らしい。
真夏は離さないように奏介の手をしっかりと握りながらしばらく歩いて星蛍の丘に着いた。
「今日は星が綺麗に見えそうだね、時期の関係で蛍はいないけど……星が見えるなら十分」
「綺麗だね……それでここまで来たってことは何かしたいことがあるんでしょ?」
「やりたい事というか、一つ質問したいことがあるかな」
真夏は空に手を伸ばして星を握るような動作をして胸にその握った手を持ってきた。
そしてその手を俺の方へと差し出してきた。
「奏介くんの周りにはさ、たくさんの人がいるじゃん? 叶さんもお姉ちゃんも……付き合ってるけど本当に1番は私なのかなって」
真夏は差し出していた手を戻して後ろに振り向いた。
「言いたいことを言ってみなよ、真夏の期待してる答えは出せないかもしれないけど」
「それじゃあ、私は奏介くんの何番目?」
真夏は星空を見つめながら奏介にそう問いかける。
(私がずっと聞きたかったこと……奏介はくんはどう答えてくれるのかな?)
「真夏と付き合ってるのに言っちゃいけない言葉だと思うけど、順番なんてつけたことないよ。みんな一人一人、大切な人なんだ、そんな人達に順位なんかつけれない」
(やっぱり……そうなんだね、奏介くんは)
「俺はみんなを真夏同様に守りたいんだよ、だから俺の答えは【順位なんか付けない】だ」
俺は1歩ずつ真夏に近づいて行って、隣に立って手を握る。
「俺は真夏だけを守ることは出来ない、でも俺は真夏にしかない魅力に好きになった、それだけじゃダメかな?」
きっと他の人が聞いたら最低な答えだって、クズだと罵られるかもしれない、だけどやっぱり俺は順位をつけることなくみんなを守りたい。
(奏介くんは優劣をつけないから私も、お姉ちゃんも叶さんも幸せなのかな……)
「いや十分だよ、私はみんなを大切に思っている、奏介くんのそんなところに惹かれたのかもね」
「そう言ってもらって嬉しいよ。でもこんな男でごめんね、真夏1人を愛することが出来なくて」
2人は近くにあったベンチに座って手を絡め合いながら星空を見つめて……無言の時間が少し流れる……。
「星、綺麗だね」
「あぁ、こんな綺麗に星が見れる場所に俺たち2人しかいないのが不思議なくらいだ」
「この景色を2人占めにしてるのって特別な気分だね」
もういっそ時間を忘れてこの綺麗な星空の下で真夏と2人でずっと過ごしていたい。
俺は草むらの上に寝転がって視界を星空で埋め尽くす。
「真夏、この綺麗な星だっていつまでも輝けるわけじゃないんだ、いつかは輝きも失せる」
俺は星を手のひらの隙間から見つめながらそう語り出す。
「人の恋なんて星と比べたら一瞬で消えてしまうかもしれないんだ、それでも俺と付き合うつもりになれる?」
「そんなことは関係ないよ、私はどうしようもないほど奏介くんのことが好きだから」
「うん、俺もどうしようもないくらい真夏が好きだ。だからこれからもよろしくね、頼りきりな俺だけどよろしく」
2人は星空の下で抱き合いながらキスをした。
星空の下での出来事は一瞬であっても2人にとって大きいものになった。
「そろそろ、帰らないとお姉ちゃんに怒られちゃう」
「この時間をもう少し謳歌していたかったけど、家にいる時も外にいる時も、真夏と一緒ならいつだって幸せだ」
家に帰ると既にご飯が並んでいて真冬に2人は多少怒られてしまったがそんなことが気にならないくらいさっきの出来事が2人にとって大きかったのだ。
「こんな遅くまで何処にいたんですか……」
「いやぁ星蛍の丘で星空を眺めてたらいつの間にかこんな時間になってて……」
「次からはこんな事が無いようにお願いしますよ?」
その場はひとまず収まったのでいつも通り作ってもらったご飯を食べて自分の部屋に戻った。
部屋に入って指輪の箱が視界に入るとふと思うことがある。
(この指輪は今、渡さないし渡せない。まだ関わり初めてたった1年しかたってないんだ、もっと長い時間過ごしてからこの証を渡すべきだろう)
少なくとも高校を卒業するまでは渡す気は無いし、もしかしたらずっと渡せないままかもしれない。
でも今はそんなことを考えずに今の1年を楽しく過ごして行くべきだろう。
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