第48話

奏介と真夏が付き合って数日が経過したのだが、妬まれるようなこともないしむしろクラスの奴らからものすごい応援されていた。


他のクラスの事情を知らない奴らが奏介に嫉妬の視線を向けていたら、2人の甘い時間を邪魔すんなゴラァ的な感じで睨みつけている。


「はは……ここまでされるとなんか、色々と違うって言うか……監視されてる気分」


「実際されてるだろ、神楽と真夏さんが一緒にいる時は必ず誰かがその姿を見てるからな」


「何それ怖い……」


クラスの奴らとも関わっていくようになった奏介はクラスの奴らとの距離が一気に縮まった。


ただそれはそれで良いのだ。


「結構前だけど雨ケ谷と立花さんが出会ったのは中学の頃って言ってたよな?」


「確かにそう言ったな。その時は色々大変だったなぁ」


雨ケ谷はそう言って昔のことを語りはじめた。



※※※



雨ケ谷と雨恵が出会ったのは中学1年生の時、小学校から上がってきてワクワクした気持ちも緊張している気持ちもあった時の頃だ。


その時の雨ケ谷は親から勉強を強いられていて、遊ぶ暇もなくずっと勉学に勤しんでいた。


努力しても点数は平均的だったのだが……。


そんな時に出会ったのが雨恵で、出会った当初は本当に無口で名前を聞くのにも苦労をした。


「君、こんなところで何やってるの? こんな路地裏に、女子がいたら危ないよ」


「あ……えっと……」


「なにか辛いことがあるのなら相談に乗ってあげるよ、僕は少し勉強以外のことをしたかったんだ」


僕は彼女を連れて近くの公園に行き、ベンチに座り話を聞いた。


話を聞くとめまいがするほど彼女の事前は苦難だらけだった。


まず最初に彼女が幼稚園の頃、彼女の母親は不倫をして家を出て行ってしまう。


その後、父親は新しい女性と再婚したものの彼女が小学生の頃に病気でなくなる。


残された彼女と義母だったが、義母は金遣いが荒く稼ぐ能力もなかったため借金まみれ。


更には血縁関係でもない彼女のことを大事にするわけもなく、1ヶ月ほど前に借金を苦に1人で夜逃げしてしまった。


そして1人残された彼女だったが、家賃も払えないアパートに居続けることはできなく今に至るということらしい。


「……君は、行く先ないんだよね。もし良かったら僕の家に来る?」


「……いいの?」


「家には僕しかいないから……父さんも母さんも帰ってこないから」


僕は彼女の手を引いて家まで向かって、中に迎え入れた。


よく考えたらまだ名前も聞けていないし、何も知らない女性相手を家に迎え入れるのはどうなんだろうか。


とも思うが困っている人を放っておけなかった雨ケ谷は一緒に過ごすことにした。


「君って言うのはあれだから、名前を教えてくれないかな? 僕は雨ケ谷和人」


「立花……立花雨恵」


「立花さんだね、それじゃあ今日からよろしく」


そして雨ケ谷が一緒に過ごしていくことになり、日が経つにつれ雨恵もだんだん言葉を発するようになっていった。


そして中2になった頃に雨恵の継母が見つかって雨恵は雨ケ谷と同じ学校に通うことができるようになった。


(立花さんと一緒に過ごしてきたから、少し離れるのが寂しく思う)


そう思っていたのは雨恵も同じだが、離れないというのは雨恵の現状的に無理だった。


離れたあとは家に遊びに行ったり招いたりして、すぐに時が過ぎて行って高校生になり同じ学園に通うことになった2人は付き合った。


「同じ学園で俺は嬉しいよ」


「私も……嬉しい」



※※※



「まぁこんなところかな。って神楽以外ーって顔をするな」


「いやいや雨ケ谷の一人称が《僕》だったら意外だと思うだろ……じゃなくて色々大変だったんだな2人とも」


「あの時は大変だった……でも今が幸せだから大丈夫」


壮絶な過去があっても今が楽しくて幸せだったら、問題ないのだろう。


俺だって雨ケ谷たちと同じ気持ちを味わっているのでとても共感できる。


雨ケ谷曰く、昔に勉強を強いられていたからテストが50位以内で済んでいるとのことらしい。


「今は父さんの言いなりにはなりたくないし、雨恵と付き合う時も無理矢理押し通して付き合ったからな」


2人で直談判して勢いで無理矢理付き合うのを許可させたらしい。


「雨ケ谷の父親ってジムを経営してるんだよな? 家に帰ってこないってことはジムにずっと居るってことか?」


「そうだな、ずっとジムにいる。家にはほとんど帰ってこないしもはやジムで生活している」


「ジムで生活とは……?」


あのジムのどこに衣食を置いてあるのか少し気になった。


「まぁ俺からしたら雨恵を家に呼んでも何も言われないから都合がいいんだけどな」


雨ケ谷の過去の話をしていると、真夏が扉の外で手を振っているのが見えたので、俺は鞄を持って真夏の方へと向かった。


2人は今日も手を繋ぎながら帰るのだが数日前より恥ずかしさは薄れてきていた。


恥ずかしい訳では無い、でもこれからゆっくり1歩ずつ2人のペースでこの恋の宿題を学んでいこうと思う。


真夏と奏介の関係はより深まっていく、真冬や雨ケ谷、色んな人に応援されながら。

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