第47話

いつも通り奏介は生活していたつもりだったのだが、とある一言で真夏を怒らせることになる。


時は数分前──────


「奏介くんは、私か叶さんどっちが好き?」


ものすごい難しい質問が来てしまった。


どっちも好きという曖昧な答えだと真夏さんが不服そうな顔を見せるのは目に見えているし、叶がああ言っていたとはいえ優劣はやっぱつけたくない。


数分悩んで俺が出した答えが真夏さんを怒らせた。


「それを決めることは出来ないかな、2人とも俺の大切な人だ」


「ふーん、それじゃあ奏介くんは私のことが好きじゃないってことなんだね、そうなんだね」


「えっ違……」


誤解を解こうとしたが真夏さんをとどめることは出来なかった。


そして今に至る──────


「うーん、怒らしたのは俺だしなんかお詫びの品でも買って素直に謝るか」


そう決断すれば奏介の行動は早いもので、いつものショッピングモールに駆け出していった。


ショッピングモール向かっている道中で出会ったお姉さんが困っていたので助けた。


「本当にありがとうね。そういえば急いでいたように見えたけど何かあった?」


「大切な人を怒らせてしまって……お詫びの品を買いに」


「そうなんだ、1人の女性として言わしてもらうけど。私だったら物より言葉をもらった方が嬉しいよ」


「参考にしてみます。それじゃあお気をつけて」


俺はそのお姉さんと別れてショッピングモールに向かうのをやめて家に戻った。


言葉で許してもらえるかは分からないがやってみないことには始まらない。


「真夏さん……今話、いいかな?」


「何?」


真夏さんにはまだ不機嫌の色が見える。だからこそ俺はすぐに言いたいこの言葉を伝えた。


「真夏さん、君に逢えたことを本当に良かったとそう言える、だから君の悲しい顔は見たくないし君の笑顔を守りたい」


真夏さんの様子を一目見てから1拍を開けて続きを告げる


「来年も、再来年も君と一緒居たい。それくらい君は俺のすべてで、俺にしか言えないことを君に届けたい。君が好き」


奏介は少し顔を赤らめながらも真夏に向かって微笑んだ。


奏介からの《好き》は真夏を揺るがすのには十分すぎた……ゲームで例えるのなら会心の一撃のような感じだろう。


「やっと、やっと奏介くんから《好き》って聞けた……それじゃあ私も改めて言うね、好きだよ」


「……うん、長いこと待たせてごめんね真夏さん」


そして奏介と真夏は付き合った。


「付き合ったんだからさん付け早めて欲しいかなぁ、これからは付き合ったことをアピールしていかないと」


「真夏……これでいい? アピールって……普段通り過ごしてて、噂されたらこっちから言えばいいんじゃ……」


「それもそうだね」


ただ付き合ったあとのことは分からない宿題がありすぎるだろう。ただそれも真夏さんと俺のペースでゆっくりと学んでいけばいい。


(雨ケ谷は信用ならないし立花さんに聞いてみるのもいいかもしれないな)


まずは真冬さんにこのことを伝えて、メールで伝えられるところには伝えて、伝えなくても学園で過ごしていたらいつかはバレるだろう。


だっていつもより真夏さんが積極的に甘えてきてるので学園でもこの調子ならすぐに広まってしまうだろう。


ただ1年の頃から中は良かったし弁当を作ってもらったりしていたのでそんなに驚かれることも無く「そんな感じはした」程度で終わると思っていた。


奏介は真夏たちと同棲していて頭になかったが真夏は学年1美少女であり、そんな真夏と付き合ったのなら男子から嫉妬されることを。


奏介もう気にしなくなっていたが弁当を作ってもらっていることも男子たちにものすごい嫉妬されていた。


そして翌日、速攻で付き合ったことがバレた。


嫉妬されるかと思ったが案外そんなことをなかった。


「羨ましいけど真夏さんが神楽を選んだのなら仕方ないからなぁ、まぁ俺たちは2人の恋を見守りますよ」


「そうそう、2人が甘々してる光景だけで満足だわ」


俺が真夏さんに抱きつかれている姿を見てニヤニヤしている男子たちがそう言ってどこかに行ったのだが次は女子がこちらにやってきた。


「神楽さん、付き合ったんだって? まぁ勉強もできるしかっこいいから真夏さんが選んでも不思議じゃないね」


「褒めてくれるのは嬉しいけど、あまり褒めたらその、真夏さんが……」


思った通り背後に抱きついている真夏さんに俺はジト目を向けられていた。


真夏さんの機嫌を治すためにも「大丈夫だって」と言って、頭を撫でた。


「俺が他の人に惚れたりすることは無いよ、俺が本当に好きなのは真夏さんだけだから安心して」


「それなら話すぐらいは許してあげる」


「助かる」


女子たちと話すことも出来ないのは生活に支障が出るので可愛い彼女から許可が出て安心した。


「ふぅやっと話せる。さっきまで人が多すぎて入り込む隙間がなかったからな」


「げっ……」


俺の前にやってきたのは雨ケ谷で、(もちろん後ろに立花さんもいる)めんどくなると確信したのでこのような声を上げた


「なんだよダブルデートを誘いに来ただけじゃないか」


「付き合ってまだ1日しか経ってないんだが?」


「そうですよ……さすがに和くんも、気が早すぎると……思う」


雨恵のフォローによって今日、ダブルデートに行くことにはならなかったがまたすぐに誘いに来るだろう。


まぁ嫉妬などがなく周りから応援されていたことに安心したので、学園生活が地獄になることはないようで良かった。


それからも色んな人から話しかけられて祝福された、まぁ叶からは少し嫉妬されたが《幼馴染》という《彼女》とは違った特別な関係ということを話して落ち着いてもらった。


「真夏さ……真夏、帰ろうか」


放課後になったので真夏を誘おうとしたのだがいつもの癖でさん付けが出るところだった。


「早めに慣れてねー」


付き合って関係が変わっても感性は変わらないので恥ずかしながらも2人は手を繋ぎながら帰路を歩んでいる。


「一応俺の両親には付き合ったことを伝えに行ったけど、真夏の両親には伝えれてないよね?」


「一応メールでは伝えたんだけど実際会って伝えるのには当分無理だからね」


元旦にしか帰ってこない真夏の両親に直接伝えるのはまだ先の話になりそうなのでそれまでに真夏にふさわしい男になろうと心に決めた奏介だった。

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