第43話
猫を拾って、このままずっと猫猫呼ぶわけにもいかないので奏介は双子を呼んで名前を決めるために話し合いを始めた。
「俺はなんでもいいから2人で決めなよ」
軽くそう言ったのが間違いだったのか、双子がこの名前がいい、こっちの名前の方がいいと言い争っている。
奏介は本当になんでもいいと思っているので双子の争いを眺めることしか出来なかった。
ちなみに猫は相変わらず奏介の膝の上でゆっくりしている。
「2人とも落ち着いて……」
「いやいや、私は落ち着いてますよ。ただ猫の名前のことだけは譲れなくてですね」
「いやいや、奏介くんもアズっていう名前の方がいいと思うよね?」
「いやいや、レオって言う名前の方がいいと思いますよね?」
奏介は2人に詰め寄られたので猫を抱えて少しずつ身を引いていった。
猫はどっかのピ○チュウみたいに俺の肩に移動していたので少し肩が重かった。
「そんなに譲れないって言うのなら、2人が考えた、アズとレオだっけ? その2つを混ぜた名前にすればいいじゃん」
「「じゃあそれで」」
双子は奏介の案を待つかのように奏介を見つめているが、奏介はそれに困っていた。
(えぇ……2人の期待の目が痛すぎる。なにかいい案を出さないと)
そして俺は数分間、考えて一つの案を出した。
「レオとアズを合わせて、『レア』なんてどうかな?」
「「それで決定!」」
奏介の提案はさっきの争いと一変してすぐにOKされた。
奏介はダメ元で言って見たので正直すぐにOKされたことに驚いていた。
「いやいや、さっきまであんなに揉めてたのに俺が即興で考えた名前の案を即決していいの?」
「奏介くんがなんでもいいって言うからあれだったけど。この猫は奏介くんに1番懐いてるし元から奏介くんの提案なら即OKするつもりだったから」
やっぱり言い争ってたのは最初に俺が軽くあんなことを言ったせいらしい。
「無事に名前が決まって良かったよ。これからよろしくね、レア」
肩に乗っているレアを奏介は少し撫でて、さっきから触りたそうに見ている真夏にレアを抱えさせた。
「昨日はずっと俺がレアと触れ合ってたし、今日は2人が触れ合っておきなよ」
「え、いいの!」
俺はダメなんて言う気は無いので、最後に少し撫でてからリビングを去った。
正直に言うと俺はレアをものすごい触りたかったが、昨日に十分触ったし真夏さんが触れ合ってて嬉しそうだったのでレアより真夏さんの嬉しそうな姿の方が見たい。
「この布団……買ってきてくれたはいいものの昨日は使ってないんだよな。レア、俺の布団で寝たし……そうだ」
俺はレアの布団を自分の布団の上に移動させた。
レアがもし奏介と寝たいのなら布団を奏介の近くに置けばレアの欲求も満たせるしこの布団が無駄になることもないだろう。
そもそも奏介自身もなんでこんなにレアに懐かれているのか分からなかった。
「……で、なんで叶は平然と俺の布団で寝てるんだ」
──────時は数分前まで遡る。
ピンポーンとチャイムが鳴ったので扉を開けると叶がいて俺の部屋にすぐさま入ってきた、終わり!
※※※
「別に真夏さんたちも家に入ることは許してるからいいんだけどさ、俺の布団にダイブするのは違くない?」
「元々真夏さんたちが使っていたかもしれないこの布団で寝ているそーくんも人のこと言えないのでは?」
「うぐっ……」
確かにこの布団は真夏たちが使ったかもしれないのだ。その布団に奏介が寝ているので今の叶とは現在進行形かだけの違いだった。
「というかなんで急に来たんだよ」
「昨日の猫ちゃん飼うことになったって真冬ちゃんから聞いたからさ〜触ってみたくてね」
「レアにか、それならリビングにいるし行ってきたら?」
「今行ってもお二人さん……特に真夏ちゃんが譲ってくれなさそうだから」
まぁ真夏のあの猫への愛情を考えれば譲るとは奏介も思えなかった。
「それでも俺のところに来る必要はなくないか?」
「いやいや、1年ちょっと離れ離れになってたんだら別にいいじゃーん。幼馴染とそれだけ離れてて私は寂しかったぞー?」
叶は手を頭に手をぴょこっとしてうさぎの真似をした。
まぁその姿が可愛かったので、あとうさぎということは構わなければ死んでしまうだろうということで昔のように頭でも撫でておいた。
「懐かしいなぁ……小学生ぐらいの頃は私の方が小さくてよく撫でてもらってた。まぁ今は私の方がでかいけど」
奏介は案外気にしていたことを指摘されて少し傷を負った。
(確かに叶は色んなところが大きいしな)
「そーくんー今変なこと考えてるよね〜。確かに私は色んなところが大きいけどさ……まぁそーくんだけだからね許してあげるのは」
その言葉と笑みに少しドキッとしてしまったがそれじゃあダメだ。
奏介は優劣をつけずに2人とも平等に接すると決めたのだから、叶にドキッとして片方に気持ちが傾くことは自分の中で許せなかった。
ただこの会話内容を真夏さんに聞かれてないのだけが小さな救いだ。
「別に甘えるなとは言わないけど、控えてね〜真夏さんに見られたら少し面倒くさ……あ」
扉の方から覗き込んでる真夏さんの姿が見えて俺は「あ、死んだ」と口に出してしまった。
「なんで死ぬの? え、病んでる?」
(良かった……)
「いやなんでもないよ」
叶を撫でている姿は見られてなかったようでものすごい安心した。ただ会話は多少聞かれてるかもしれないが。
真夏の足元にはレアがいて、部屋に入るなりやっぱり俺に飛びついて来た。
「叶〜レアを触りたかったんだろ、今俺の近くにいるから触るなら今のうちだぞ」
俺がそう言うと叶は寝転がった体制から変わってレアを抱きかかえた。
猫を好きな女子は多いと聞くが叶も例外ではなかったらしい。
「いやあのぉ……ここに俺いります?」
「さ、さぁ……?」
今の構図は2人の美少女が1匹の猫に夢中になっているのを美少女と一緒に眺めているただの男が1人……。
まぁ他の人からしたら場違いだと思われるかもしれないが、それを口に出すと真夏さんに怒られてしまうので口には出さない。
俺はなんかいたたまれないのでその場を後にした。
(2)に続く──────
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