第41話

ホワイトデーまでは1ヶ月、それまでに奏介はせめて渡せるぐらいまでに完成度を高めないといけないので、前と同じように真夏に教えて貰っていた。


「前の時はクッキーだったけど、今回はチョコだからバリエーションが多いんだよね、何か作りたいものでもある?」


「作れない人に作りたい物を聞かれても……とりあえず簡単なものでお願いします」


「簡単な物か……それならチョコタルトかな」


チョコタルトは難しいと俺は思っていたのだが、簡単に作れる方法があるらしいが材料がないらしいのでとりあえず買いに行くところからだ。


真夏さんはエプロンを脱いで自分の部屋に戻って行った。


ぶっちゃけ教えてもらうだけで十分なんだ。買い物について来るってことはお金を奏介が支払うことは出来ないだろう。


(もはやお世話というか、ここまで来たら親レベルじゃないか……)


ご飯を作ってもらって、奏介がお金を払うことは無いし今もこうして料理を教えて貰ってる。これを親と言わずとして何と言うのだろう。というか真夏たちの家が奏介の家と化してる。


この時期だからか、お店にはチョコとかがたくさん置いてあったのですぐにそれを(真夏さんが)購入して家に戻った。


「それじゃあ簡単なチョコタルトの作り方を教えまーす!」


「は、はーい」


真夏さんの謎のテンションに少し戸惑ったが、教え方は非常に的確でもはやそういう職業につけるレベルだった。


「じゃあクッキー120gを結構粉々にして、粉々に出来たら溶かしたバター80gとまぜておいて」


「分かった」


粉々にするだけなら失敗することは無いだろうし、バターは真夏さんによって既に溶かされていたので楽な作業だった。


隣で真夏さんはチョコと生クリームと牛乳を混ぜたやつをフライパンの中で溶かしている。


「あ、これを作るんだったらこの工程もできるようにならないとね。後で材料と作り方を書いたメモを渡すから、今は待っててね」


タルトの外側ができたのでタルトの型に詰めていって、真夏さんが作ったチョコを流し入れて170度で余熱したオーブンで20分間焼き始めた。


「焼きあがったら冷やして完成! あと作り方と材料の量を書いておいたから作る時はそれを見ながら作ってね」


「分かった、時間を奪っちゃってごめんね」


「気にしなくていいって、私も奏介くんが作った物を食べたいし」


真夏さんからもチョコを貰ってるし叶からも貰っていて、他の人にも返すとなると1人分じゃ足りないだろう。


メモをしまって、焼き上がりまでの時間は2人でお話をしていた。


「そういえば誰に屋上に呼び出されてたの?」


「先輩だよ。普段から手伝いとかしてるから、お礼にチョコをくれたんだけどそのまま生徒会にスカウトされたけど断った」


「なんで、断ったの?」


「生徒会の仕事なんかより真夏さんたちの方が大事だから、かな。知らない先輩たちより普段からお世話になってる真夏さんたちの方が大事なのは当たり前のことだから」


カランコエの花言葉『あなたを守る』、これを果たすためにも俺は常に真夏たちの側に居たいと思ってる。


俺なんかが言えた言葉じゃないかもしれない、ただこの気持ちは誰になんと言われようとも変わらない。


恥ずかしことを言っているのは自覚しているし、この言葉で真夏さんが恥ずかしがっているのも分かっている。それでもこれは本心だ、真夏さんたちを守れるなら何回だって車に轢かれてもいい。


「……」


少しの時間、沈黙が流れたがチョコタルトの焼きあがった音でその沈黙は消える。


「そ、奏介くんできたよ。とりあえず切り分けて味を確かめようか、ダメだったらもう1回教えるし、大丈夫だったらさっきのメモ通りに作ってくれれば大丈夫だと思うから」


「1口目は真夏さんが食べていいよ。何もかも手伝ってくれたし、最初に食べる権利があると思う」


俺がそう言っても真夏さんは食べようとしないので、俺は恥ずかしながらもそのタルトを真夏さんの口の方へ持っていった。


「……早く食べて欲しいかな?」


そう言えば真夏さんは顔を赤らめながらチョコタルトをパクッと食べた。


「美味しい?」


「うん……美味しいよ。このままで大丈夫だと思うからホワイトデーの時もこれでいいんじゃない?」


「よかったぁ」


しっかりチョコタルトを作れたことに安堵したが真夏さんがチョコタルトを俺の口の方に持ってきている。


俺が戸惑っていると「仕返し……」と甘い声で言われたので、そのチョコタルトを食べた。


そのチョコタルトは普通のチョコより甘い味がした。


「ふぅ、恥ずかしいこともあったけどこれで問題なしだね。残りはお姉ちゃん達とゆっくり食べようか」


「そうだね。改めてお礼を言うよありがとう」


俺はそう言って、リビングを後にした。


(やっぱり俺がこんな生活ができているのも全部2人のおかげだ。2人がいなかったら叶とも仲直りできなかったかもしれないし……本当に感謝してもしきれない)


自分が2人にできることを考える奏介だったが、真夏は今奏介に対してどういう想いを抱いているのか。


それが重要だ。前と変わらないのならそれでいいし、変わっていたとしてもそれを他人がとやかく言う筋合いは無い。


恋心は人それぞれなのだから。

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