第40話

クリスマスがすぎたら何があるのかと言うとそれはバレンタインだ。


元々奏介はチョコが欲しいっていう気持ちなんて微塵もなかったし貰えたら「ありがとう」とだけ言って来月に返していただけだったのだが真夏から貰えたのなら話は別だろう。


奏介は叶と真夏だけから友チョコを貰えると思っていたのだが、朝学校に行って下駄箱を開けるとチョコと1枚のメッセージカードが入っていた。


その内容を見てみると放課後に屋上でというなんともテンプレな展開だった。


「一応チョコを渡してくれてるわけだし、行かない訳には行かないよな」


誰からの物か分からないが貰っておいて行かないというのさすがに失礼だろう。


とりあえずそのチョコを鞄にしまって教室へと向かった。このチョコは昼のデザートにでも食べるとしよう。


教室の中に入って自分の席につくと引き出しの中がパンパンになっていた。


(俺、なんかしたかな……)


引き出しの中がパンパンになるくらいチョコの箱が入っており、とりあえず俺はそれを机の上に出した。


「……」


「いやぁ……すごいねこの量。何か女子たちにしたりした?」


「いや俺が聞きたいよ……この量をどうやって持ち帰ればいいんだ」


机の上に積んで見てみると少なくとも一日で食べ切れる量……いや1週間以上かけないと食べきれないだろう。


まだ先の話だが、奏介が今考えているのはお返しの事だ。渡してくれた人全員に返すとなると相当なお金が飛んでいくと思うが、何個かにはお返しはいらないと書いてあるメッセージカードが挟まっていたのが救いだ。


「ねぇ真夏さん、この量のチョコってどうすればいいと思う?」


「私に聞かれても……。食べることは手伝うけど、それより奏介くんはお返しを考えることの方が先じゃない?」


「……そうだな」


奏介はなんで自分がこんなに貰えるか理解していないが実は物を運ぶのを手伝ったりしているのでその些細な手伝いのお礼として渡す女子が多く居るのだ。


俺は机の上に積んでいるチョコを一旦鞄にしまって授業の準備をした。


(気が早いかもだけど、お返しって何をあげればいいんだ……?)


授業終わりにチョコのことに関して雨ケ谷に茶化されたが、それも多少仕方ないとは思う。


「おい神楽、お前はいつからこんなモテ男になったんだ?」


「いや、知らないよ? 少し心当たりがあるとするならただ普段から困っている人を手伝ってた……でもそのくらいだぞ?」


「絶対それが理由だろ、普段から何回も手伝ってるなら感謝の印にチョコを渡されても不思議じゃないって」


「ホントかぁー?」


「それしか考えられないって」


それから昼休憩になって真夏さんの弁当を食べたあと、少しでも早く食べようとみんなでチョコを食べていた。


どのチョコも美味しいのだが、チョコだけを食べ続けるのはぶっちゃけきつい。


「きっつい……口の中がチョコまみれだぁ、甘すぎるぅぅ……」


「半分食べたから残りは分けて食べようか、今これ以上食べると奏介くんが死んじゃうから」


「なんで真夏さんは、平気なんだよぉぉぉ……」


真夏さんも俺と同じぐらい食べているはずなのに、平然としている。


「それは普段から甘い物を食べてるからね、奏介はそんなに食べてないんだから急にこんな量の甘い物を食べたらこうなるのも仕方ないんじゃない?」


「まぁ男子に比べたら女子の方が甘い物を食べれると思うし……」


「平然としてるお前が言えることか? 雨ケ谷……」


俺は水筒の中身を飲み尽くす勢いで飲んで少しでも口の中をスッキリさせた。


───そして放課後


「とりあえず屋上に来てみたけど……」


周りを見渡すが人の姿が見えない、中に戻ろうと後ろを向くと1人の生徒がそこに立っていた。


その生徒は同学年の人には見えなく、歳上という感じだった。


「先輩……ですよね? わざわざ屋上にまで呼び出して何か用ですか?」


「歳上だからってそんなに畏まらなくていいよ。今回呼び出したのは私の方で、私が神楽くんに伝えたいことがあるってだけだから」


「告白とかなら受け付けてないですよー」


「違うって、神楽くんって普段から手伝いとかしてくれてるじゃん? だからチョコはそのお礼で、今から言うのはスカウトの話かな?」


予想してなかった言葉が飛んできたので、俺は少し首を傾げたが先輩の腕を見てみると生徒会所属の印であるペンダントが付いていた。


「俺を生徒会にスカウトしたいってことですか?」


「そうそう、話が早くて助かるよ。それでどうかな?」


生徒会に興味はないし、生徒会なんかに入ったら仕事ばっかで真夏さん達と一緒にいる時間減ってしまうとなるとやっぱり生徒会には入ろうとは思わない。


「ごめんなさい先輩、俺は生徒会に入るつもりは無いです。ただお手伝いとしてならいつでも呼んでください、チョコ美味しかったですよ」


後ろから「まって」と呼び止める声が聞こえたが、振り返らずに俺は階段をゆっくりと降りていった。


(先輩には悪い事をしたな……せめて手作りの物を返すか)


そんなことを考えてはいるものの前作った時の有様があれだ、また先生を呼ばないといけないだろう。


俺は残りのチョコを抱えながら家に帰り急いでチョコを冷蔵庫の中に入れさせてもらった。


「奏介さん、相当な数貰ってたんですね……色んな意味で大丈夫ですか?」


「やばいかな、チョコが好きってわけでもないし。これでも昼休憩の時にだいぶ減らした方なんだけど……」


それでも減ったように見えないぐらい貰っているので食べ切るのにはまだまだ時間がかかりそうだ。


そして奏介は真夏に頼んで今からお返しを作るために料理の先生になってもらい、チョコ作りを始めた。

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