第39話
「あ」
視界が一瞬にして暗闇に染まって、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
気圧配置の問題で今週は天候が荒れやすい聞いていたし実際今も大雨で雷の音が鳴り止まないのだが、停電するとは思わなかった。
スマホのライトを付けて電子レンジ等の家電が無事なのを確認した俺は次に2人の無事を確認しに行った。
家の中を歩いていると真冬さんは俺と同じようにスマホのライトを付けて家の中を歩いていたのだが真夏さんの姿が見当たらない。そもそも今日の朝ごはんの時以来見かけていない。
「真夏さん……?」
そう何度も声をかけるもやっぱり返事は帰ってこない。
少し申し訳ないと思いながらも仕方なく真夏さんの部屋に入ると、掛け布団が膨らんでいた。
「真夏さん?」
「ひゃっ……」
布団を捲ると真夏さんがうずくまっており、俺が来るなり飛び上がるように立ち上がった。
「もしかして雷怖い?」
「嫌いでは無い……けど」
「けど?」
「こうして突然光を奪われるのは好きじゃないし……別に暗所恐怖症ってわけじゃないし怖いとも思ってないからね」
「はいはい」
意地でも雷が怖いと認めたくないらしくいつもよりツンとすました声で否定されるがそれが可愛らしい虚勢だとわかるくらいには真夏さんと過ごしてきた。
暗闇なのをいいことに少し微笑んだ奏介だったが、真夏さんが「ただ……」と小さく付け足したので、耳を少し真夏さんの方に傾ける。
「うん?」
「奏介くんが居るから、怖くないです。 」
少しだけ、柔らかい安堵したような声で呟いた真夏の横に奏介は座った。
部屋の照明がついた瞬間、真夏はゆっくりと立ち上がる。
髪の下から覗いた耳が少し赤くなっていたのに気づいた。
自分もなにか不具合がないかブレーカーを見に行くと既に真冬さんが確認を済ませていた。
「あ、やっぱり真夏は相変わらず布団にくるまってたんですね。……昔から怖がりですから」
「……そう」
真夏さんが怖がりというのなら、俺が真夏さんを守らないといけないと強く思わされた。
真冬さんもいるのだが、やっぱりそこは男である俺が守らないといけない。
思わず奏介は真夏を凝視する。
肝心の真夏はそっぽを向いてキッチンに逃げるように向かったので、奏介は頬を掻いてそのまま自分の部屋にある家電を確認しに行く。
部屋の中にある鏡に写った自分もほんのりと頬が赤らんでいることに気づいて「らしくない」と羞恥を誤魔化すように眉を寄せて鏡から目を逸らし、パソコンなどの安否確認を始めた。
※※※
幸いにも壊れてるものはなく、ただ単にブレーカーが落ちただけなのでよかったが未だに外では大雨で雷の音は鳴り止んでいない。
それに加えて真夏は奏介の服を摘んだままである。
「今日は一日中こんな天気なはずだけど……もしかして真夏さん、一日中こうしておくの? というか俺じゃなくても真冬さんでいいんじゃないの?」
「ん、私は奏介くんじゃないと嫌だから。奏介くんの近くに居れば雷も怖くないよ……?」
本当に真夏さんは可愛いと思う、そんな真夏さんと俺が同居してるのも普通ならありえないことなのだ。
でもこの前、真夏から好きと言われた。
でもそれは曖昧だったから俺は断った。他のやつなら迷うことなくOKしていたかもしれないが今後一緒に生活していくかもしれない人を適当に決めたらダメなのだ。
「幸せだなぁ……」
荒れ狂う雷の音の中に奏介の落ち着いた声がかき消されていった。
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