第37話

俺が過去にいじめられたという話はこの前にしただろう。

そのことは今になっても忘れられないし、心の傷は永遠に癒えない。


あの日からアイツらと出会うことなどなかった、いや出会わないようにしていたのだが真夏さんと一緒に出かけた先でアイツらを見かけてしまった。


「真夏さん、悪いんだけど少し道を外れてもいいかな、アイツらがいる」


「アイツらって? 何か奏介くんとその人達に何かあったの?」


「詳しくは家で言うね、外で口にするのには生々しすぎる内容だから……。ただ俺にとってアイツらが良い存在じゃないことは確かだよ」


俺は真夏さんの手を引いてその場から逃げるように離れて目的の場所に別に道から向かうことにした。


本能的にアイツらから逃げたのかもしれない、俺はアイツらのことを気にしてないつもりだが過去に植え付けられた物は消えないということを再認識させられた。


(アイツらに出会うなんてついてないな……せっかく真夏さんがお出かけに誘ってくれたのに)


俺は昔と比べて何もかもが変わっているのでたとえ近くを通ったとしてもバレないことを願いたい。


少し遠回りして目的の店に着いたのだが……店の中にアイツらの姿があった。


「最悪だ……」


ここで立ちつくしていても時間が無駄なのでとりあえず中に入ったのだが、運が悪いことに目と目が合ってしまった。


「お前、神楽だな」


「後ろにいて」


真夏さんにだけ聞こえるような声でそう言って1歩前に踏み出した。


「言っとくが宝城、俺はもうお前らの言いなりにはならないし二度とお前らと関わるつもりは無い。出来れば今も出会いたくなんてなかった」


「悲しいことを言うなよ、あれはもう過ぎたことだろう」


あの出来事はもう終わったことだ、でもその出来事で負った傷は永遠に治らないということをこいつらは理解していない。


そんな奴ら何かと話している時間が勿体ないので、俺はこいつらと早く決別することにした。


(真夏さんには少し恥ずかしい思いをさせるかもしれないけど仕方ない)


「宝城、見ての通り俺は守るべき大切な人がいる。お前が俺にしたことを決して許すわけじゃないが、過去に拘ってるより今は今やるべき事に時間を使いたい……だからこれでさよならだ」


俺は真夏さんの手を握って店の奥、宝城が見えなくなる所まで歩いていった。


奏介は今、宝城達の事を考えていたので真夏さんと手を繋ぎながら歩いている事を認識していなかった。


「これで問題ないかな。それじゃあ真夏さん、本来の目的を果たしに行こうか」


「う、うん……」


(奏介くんって私と手を繋いでることに気づいてないのかな……嫌、ではないけどもし学園の人と出会ったら勘違いされると思うけど……)


それからしばらく歩いていたのだが奏介は真夏といつも通り話していて、自分が手を繋いでいることに気づく様子は見られない。


そもそも真夏は奏介に対して好意を持っているので手を繋がれること自体は嬉しい事だったが、付き合ってると勘違いされるのは避けたいことだった。


「ねぇ……奏介くん、本当に気づいてないの?」


「気づく……? あぁさっきから手を繋いでることか、あの場から抜け出すには手を繋いで大切な人アピールをするしか無かったし、普通に離すタイミングを逃してただけ。嫌だった?」


「嫌とは言ってないよ、ただ手を繋がれてるところを学園の人に見られて付き合ってるなんて噂が流れたら面倒だなぁって」


「確かにそれは面倒だなぁ……でも」


「でも?」


クラスメイトには奏介と真夏の仲は広まってるし、もしかすると体育祭の時、借り物競争のゴールにいたあの女子生徒が周りに言いふらしているかもしれない。


もう手遅れの可能性も高いので、2人の仲がどうのこうの噂されるよりもはや付き合ってると勘違いさせて噂を消した方がいいだろう。


その後のことはその時に考えればいい。


「というかクリスマスの日に男女が一生に出かけてるだけで恋人に間違われるのでは……?」


「それは……まぁ赤の他人にそう思われても問題ないでしょ。知ってる人とかだったら一緒に出かけてる理由も察してくれるだろうし」


雨ケ谷とかなら別にバレても何も問題は無い、なぜなら事情をいちばん知っているから。


クリスマスなのだから雨ケ谷も立花さんと一緒に出かけてそうだなぁと少し周りを見渡してみると、思った通り2人がいた。


俺は真夏さんの手を握って、雨ケ谷と立花さんがいるところまで向かっていった。


「よ、雨ケ谷。クリスマスだからお互い出かけてるみたいだな」


「神楽はいつから手を繋ぐほどまで仲良くなったんだ? もしかしてもう付き合ってるのか?」


「いやいや、別に付き合ってなくても手を繋ぐぐらいはいいだろ」


奏介と真夏はキスしたりされたりしているので手を繋ぐぐらいは付き合ってなくても大丈夫だ。


せっかく2人と合流できたので今からは4人でこの大型のお店を回って買いたいものを買うことになった。


ちなみに相変わらず真夏さんは俺に払わせる気は無いらしい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る