第35話
文化祭で回りきらないというのは少し損なので一通りの店を回っていた。
「1クラスが複数お店をだしてることもあるんだねぇ。私たちのクラスはメイド喫茶だけだったけど、7組とかはたこ焼きと、わたあめをやってたね」
「まぁメイド喫茶って大きい出し物だから他と同時にすることってなかなか厳しいと思うから」
今2人は端から順々に回って行って、回りきったら自分の店に戻って働くつもりだった。
回ると言っても全てのものを買えるというわけではないので気になるものだけを(真夏さんが)2人分買っていた。
何回か俺が払おうとしたのだが押し負けていつも払ってもらっている。
(男としてのプライドが、ボロボロに……)
幾ら嘆いても払えないものは払えないので真夏さんについていって払われることしか出来なかった。
「奏介くんってたこ焼きとかしょっぱいものばかり食べてるけどわたあめとかの甘いものって嫌いなの?」
「バレた? 嫌いってわけではないけど少し苦手というか……砂糖のザラザラが残るのが嫌かな」
「アイスとかは食べてたし、砂糖のザラザラが残ってないやつなら食べれるってことだよね?」
「ん? まぁそうだね」
なんで聞いたのか分からないが、とりあえず返答して歩くのを再開した。
次の店を見ては次の店へと移動していき、とうとう全ての店を見尽くしたので、2人は来た道を戻っていた。
「店は全部見終わったし、に戻ってお手伝いでもしようか。回り始めた時に並んでいた客の数、とんでもなかったし」
「先生もいるけど、俺の役目は警備員だけだから引き続き見守っておこうかなぁ」
(よっし、また可愛い真夏さんがみれる!)
奏介は少しご機嫌になって内心喜びながら来た道を戻っていたのだが、その途中で声をかけられた。
ただ声をかけられたのは俺ではなく真夏さんの方で、声が低いのに加え呼び捨てで真夏さんのことを呼んでいた。
真夏さんが振り向くのと同時に俺も振り向いたのだが、知らない人がそこには立っていた。
「何か用ですか……ってお父さん!?」
「お父さん!?」
「あぁ、少し2人を驚かせようと思ってね、結構早めに帰ってきたんだよ。さっき真冬のところに行ってきたけど結構驚いていたよ」
真夏さんから帰ってくるのは1月と聞いていたので、俺も驚いたがとりあえずは挨拶だと思い口を開いた。
「ええっと真夏さんの父親ですよね。真夏さんにはいつもお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ娘の命を救ってくれてありがとうございます。仕事の都合でお礼が遅れてしまいましたね、申し訳ない」
「いえいえ、仕事の都合なら仕方ないですよ。普段から二人にお世話になってるので逆にこっちがお礼を言いたいくらいです」
俺は真夏さんの父親が怖い人では無いことに安堵したのだが、親と娘の間に入ってるので少し気まずかった。
とりあえず店の前に着いた時に、真夏さんの父親と別れた。
「いやぁびっくりした……こんなに早くお父さんが帰ってきてるなんて」
「俺にはほとんど関係ないかもしれないけど、挨拶が出来て良かったかな。とりあえず真夏さんは頑張ってきなよ、今日が終われば……あ」
俺は文化祭のが終わったあとにすぐテストが待ち受けていることを思い出してしまった。
つまりこの安らぎは今だけのもので今日が終わると勉強というものを行わないといけない。
ちなみに俺たちは今まで上位だったので次も上位になるだろうと周りに思われているので、プレッシャーがある。
「文化祭後はテストだけど、それはそれ、これはこれ。今は全力で楽しんで今が終わったら全力で勉強すればいい、そうでしょ?」
「それもそうか。ここで立ち話している間にも客は増えてるからここまでにしようか」
キッチンの中に入っていく真夏さんに手を振ったあと、カモフラージュとしてパソコンを開いておいた。
カモフラージュというかパソコンでやる課題が出ていたのでそれをやっているだけだ。
(今は先生いないけど……まぁずっとここを見ていられるほど先生も暇じゃないか。雨ケ谷は立花さんと回ってるだろうし、ここを守れるのは俺だけか)
文化祭が終わるまであと数時間あるのだが、先生がいつ戻ってくるのかも分からないのでさっさと課題を終わらせて監視に集中した。
(うーん、昨日のが嘘みたいだな……何も無いことに越したことはないんだけど、こうも暇だとなぁ)
警備員は何も無くても見ることをやめてはいけないので、まだ遊びたい年頃の学生には少しきつい役割だった。
といってもやっぱり何も起こらないことが1番で、スタッフ達の無事が最優先だ。
そんなことを思っていると、入口の方で少し荒らげた声が聞こえてきたので、すぐさま向かうと客同士で喧嘩していた。
喧嘩と言っても幸い殴り合いとかではなく口喧嘩なので、割って入れば治まるだろうと思い早速行動を起こした。
「店の前で声を荒らげてどうしたんです? 何か喧嘩している様子でしたけど」
「こいつが順番抜かしてきたからよぉ」
(えぇ……喧嘩理由しょうもなくない?)
「いやいや抜かしてきたのはそっちだろ?」
こうなるといつまで経っても喧嘩し続けると思うので俺は「喧嘩するならお帰りください」と言ったら、すぐに大人しくなった。
やっぱりメイド喫茶にわざわざ来ているので帰るのは嫌なのだろう。
そしてしばらくして文化祭の終了を伝えるチャイムがなったので3人は帰路に着いていた。
「文化祭楽しかったなぁ……帰ったらすぐに勉強しないと」
「そうですねぇ、私たちは常に学年のトップ層なので今回も10以内には入っているという認識が広がっちゃってますからね」
「まぁ最初にトップ3以内に入っちゃったから頭良いっていう認識がつくのも仕方ないんじゃない?」
「普通にプレッシャーだからやめて欲しいんだけどな……まぁこれがトップの
どれだけ文句を言っても勉強しないといけないということには変わりないので早く家に戻ろうと歩くスピードを少し上げたその時だった。
信号を渡ってる途中、当然車側の道路は赤信号で、普通なら止まらないといけないのだがスピードの速すぎる車が来ていた。
俺は前の経験から少し感覚が鋭くなって、あのスピードで止まることは出来ないと感じ取っていた。
「ちょっと2人とも止まって、なんか嫌な予感がする。あの車おそらく止まらないよ」
「「え?」」
2人がそんな呆気に取られた声を上げたが、俺は手を出して2人を守る体制をとる。
そして俺の予想通り、車は止まることはなくガードレールに突っ込んで行った。
「やっぱり止まれないと思った……いや、元から止まる気がなかったのかもしれないな。とりあえず2人が無事でよかった」
「あ、ありがとう。あのまま奏介くんに止められてなかったら轢かれてたかもしれなかった……」
「そうですね……本当にありがとうございます」
「2人を守ることが俺ができる恩返しだから。とりあえず早く帰ろう、また事故に巻き込まれても困るから」
ただ事故の目撃者として警察から事情聴取を求められたので、簡単に答えて少し急ぎめに家に向かった。
(今回みたいなことは2回目か……次起こったとしても2人には怪我をさせないようにしないと。怪我をするのは男の俺だけでいい)
いつだって俺は誰かを守る立場でありたい、それに相手が大切な人なら尚更守りたいと思える。
それは叶だって真夏さんだって、真冬のさんの誰だとしても守りたいと思う心は変わらない。
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