第34話

文化祭は2日目となり、より1層忙しくなると予想される。


一応、奏介は親に文化祭のことを伝えてあるので恐らく来ると思う。


「真夏さんの親に挨拶しておきたいけど……海外にいるんだったら文化祭にも来れないか……。いつ返ってくるの?」


「帰ってくるのはいつも元旦かな」


今は10月の下旬なので、帰ってくる日はまだまだ先にということになる。


当たり前だが会ったこともないし、どんな人かも分からないので、怖い人だったらどうしようと少し気にかけていた。


「昨日はフルでシフトに入ってたから、今日私たちはシフトは無いしとりあえずお姉ちゃんのところにでも行こうか」


「ん、昨日働き続けた分、今日はリラックスしないとな」


昨日はクラスの半分(奏介たち)がシフトに当たっていて今日はもう半分のクラスメイトがシフトに入っている。


そして俺らの役割は昨日の件から常に先生が店内にいることになったのでありがたい限りだった。


(真夏さんの可愛いメイド姿を見れないのは名残惜しいけど仕方ないか)


「えっと……お姉ちゃんのクラスはここら辺で屋台をしていたはず……あ、お姉ちゃん!」


「昨日は大変だったって聞いてますよ真夏。とりあえず買いに来たんですよね?」


「昨日は私たちスタッフより警備員の奏介くんと雨ケ谷さんの方が大変だったと思うよ。それじゃあ2人分で」


既に完成品があったので時間がかかることなく、購入することができた。


真夏さんが俺の方に駆け寄ってきて、焼きそばの入ったパックを「はい、どうぞ」とこちらに差し出してきた。


「ありがとう……って当たり前のように払われてるじゃん。いくらなんでも男としてのプライドというか何かがボロボロにされてるんだが」


「まぁ私が払いたくて払ってるんだから、奏介くんが気にすることじゃないよ」


それでもこういう場面は男が払うという固定概念が俺の中でまとわりついているので、どうしても気になるのだ。


次は俺が払うと心に決めて、焼きそばを食べるためにベンチへと向かっていった。


「美味しいな……多分この焼きそばを作ったのは真冬さんかな。いつも食べている味と同じ味がするから」


「確かにこれはお姉ちゃんの味だけど、味付けは2人で考えたものだからね!」


危うく頭を撫でる手を出しかけたが、ここでそんなことをしたら引かれるのでその手をグッと押しとどめて口頭で褒めることにした。


「すごいなぁ……俺もそれくらい料理が上手くなってみたいものだよ」


「奏介くんが自分で私たちと同じぐらいの料理を作れるようになっちゃったら、私たちの役割がひとつ消えちゃうから料理に関しては任せておいて欲しいかなぁ」


「真夏さん達ほど美味しい料理を作れる人はいないと思うし、たとえ俺が2人に習っても同じ味を作ることは出来ないと思うから大丈夫だと思うけど、真夏さんがそう言うならこれからも甘えさせてもらうね」


2人は焼きそばを食べて次の場所にへと歩み始めた。


パンフレットを見て面白そうだと思ったお化け屋敷に向かって歩いていたのだが真夏さんが隣でビクビク震えている。


「もしかして怖いの嫌い?」


「っ! いやそんなことないけど……」


この様子じゃ怖いのは嫌いだけど、それが子どもっぽいと思って強がっている状態だろう。


別に無理しなくてもいいのだが、引き返そうとすると腕を引っ張ってお化け屋敷の方に向かっていった。


「真夏さん、本当に大丈夫? 怖かったら別に言ってくれていいんだよ?」


「いや……高校生にもなって怖いのが嫌いって子供らしいじゃないですか……」


「それは人の個性だし、怖いのが嫌いっていうのも可愛いと思うし、本当にキツかったらいつでも言ってね」


そう口にすると真夏さんは俺の腕にしがみついたので、その状態が安心するらしい。


周りからの視線を感じるが、真夏さんからやっていることなので俺は周りを気にせずお化け屋敷の中に入って行った。


お化け屋敷と言っても学生の出し物なので遊園地のとこ比べると怖さのレベルが違うので俺は余裕だったが真夏さんはそうでもなかった。


驚かしポイントが出る度に声を上げて驚いていた。ただ怖がってる姿も、声も何もかもが可愛かったので俺としては可愛い真夏さんが見れてラッキーと思っていた。


「ええっと……本当に大丈夫だった?」


「怖かったけど……奏介くんがいたから何とかなったかな……」


外に出たあとも真夏さんは俺の腕に抱きついていたので、店番の人に「彼女、可愛いですね」と言われてしまった。


付き合ってるわけではないのだが事情を知らない人からしたら付き合ってるように見えてもおかしくないのかもしれない。


「んー次は一旦俺たちのクラスの出し物の様子でも見に行こうか。人が足りなくて回ってないかもしれないし」


「うん、わかった」


これは俺の策略で、もし回っていなかったらシフトに2人で入って真夏さんの可愛いメイド姿をもう一度拝むためだった。仕事をすることにはなるがメイド姿を見られるならなんでもいい。


列にしばらく並んで中に入ると、先生がいるおかげか問題という問題も起きていなかった。


「おうお二人さん、昨日はお疲れ様。今日は2人でデートですかい、楽しそうだねぇ」


「デートじゃないし、そもそも俺と真夏さんは付き合ってないからな」


「お化け屋敷で抱きつかれていたくせに?」


その言葉に真夏さんが反応して顔が赤くなっていたが、そんなことよりどこからその情報を仕入れているのが気になった。


とりあえず料理を頼んで、来るまでの間で一応警備員としての務めをしていた。


「まぁ先生の前で何かしでかす奴なんていないか。平和が1番だな」


「昨日は凄かったからねぇ……」


「真夏さんだって、普通に歩いている時も警戒してないとあんな感じで触られたり写真撮られたりするかもしれないんよ? 可愛いんだから」


奏介はまたまた無意識で真夏に攻撃をしていた。


奏介としては普通に注意をしているだけだったのだが、真夏からしたら可愛い、可愛い言われて恥ずかしいだろう。


「だから前も無意識にそういうこと言うのやめてって言ったよね……褒められてるのは嬉しいけど……」


注文したものが来たので真夏さんの言葉そこで途切れてしまったが、とりあえずクッキーを口にした。


(真夏さんか叶、どちらか選べって今言われたのなら真夏さんを選んじゃいそうだなぁ……この前の事もあるし)


ちなみにこの前の事というのは真夏が寝ていると思ってた奏介に口付けをした時のことだ。


やっぱり優劣をつけるの良くない事と理解してはいるつもりなのだが、ここまで可愛い姿を見せられると奏介の心も少し動かされるというもの。


クッキーを食べ終わった2人は店を出て再度、出し物を回り始めたのだがそこでちょっとした事件に巻き込まれることになる……。

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