第31話

「私たちがやってることを真似して作ってみてね。そこで段々と覚えていってくれたらいいから」


「それは分かったけど、もしかしたらダークマターとか生成してしまうかもしれないけど……」


「別に奏介さんは料理下手ってわけではないですし、そもそもダークマターなんて余程の料理下手じゃないと作る方が難しいです」


そもそもダークマターとは暗黒物質のことなのでそこまでのゲテモノを作るほどの料理下手は俺も見た事がない。


「昔に1人で作ろうとして1回ダークマターを生成しかけたことがありましたけど……意外と何とかなったので大丈夫ですよ」


口ばかり動かしていても時間が過ぎるだけなので早速お菓子作りを始めた。


真夏さんたちがしていることをよく観察して見よう見まねでやっているのだが、既に2人の物と少し違いが見える。


「もう既に2人のやつと違くない?」


「手順は間違ってないし、シンプルに熟練度の差だと思うから気にせず続けていいよ」


多少不安が残るが俺は従うことしか出来ないので、引き続き見て覚えての繰り返しで作業を進めていった。


「んーここまで来たら何かおかしなことが起こることないと思うし、とりあえずお疲れ様!」


「ひとまずダークマターにはならなくてよかったよ。あとは焼くだけなんだよね?」


「確かにオーブンで焼くんだけど、調理室にあるオーブンと家のオーブンじゃいろいろと違うと思うから、調節が必要だと思うんだよね」


調理室には入ったことがないが普通に料理するのに不自由ないぐらいには色々備品が揃っているらしい。


とりあえず家のオーブンでクッキーを焼いてもらって、その間で2人は余った材料で何かを作っていた。


しばらくするとクッキーのいい匂いが香って来たので俺は席を立った。


「焼きあがったのかな?」


「そうですね、とりあえず取り出しましょうか」


真冬さんがオーブンから取りだすと、恐らく俺が作った方だと思われる方のクッキーがそぼろレベルで粉々になっていた。


「あちゃー、やっぱり初めての人には少し厳しかったかな」


「俺も無理だって薄々感じてたから大丈夫だよ。それじゃあ俺はキッチン以外の裏方……あっ、変な客が来た時に追い出す警備員的なことでもしようかな」


メイド喫茶という出し物なので少なくとも数人は身体に触れたり、変なことをしてしまうやつが出ると考えた方がいい。それに学園1の美少女という噂がある真夏がメイド姿なのだから尚更だ。


「何の話ですか?」


「あぁ、出し物の話だよ。クラスが違うから詳しくは言えないけど」


俺も正直真冬さんのクラスがどんな出し物を出すのか気になるところだが、ルールはルールだ。


警備員と言っても堂々としている方がいいのか、客に紛れていた方がいいのか分からないが堂々の方法が分からないので客に紛れることに決めた。


そして真夏さんの部屋に行って2人でボロボロのクッキー食べながら話していた。


「料理は私に任せて欲しいんだけど、警備員ってどんな感じにするの?」


「簡単だけど、客が従業員……例えば真夏さんに手を出そうとしてたら止めるってだけだよ。客として紛れておいていざとなったら駆けつけるって感じかな」


「確かにそれは必要だね、でも奏介くんが殴られたりするかもしれないんだよ?」


「まぁ別に殴られることは仕方ないと思うけど……できるだけ穏便に済ませれるように努力するよ」


少し自分の身体を確認してみるが、筋肉が付いてるわけでも無いので警備員としては少し頼りない身体付きをしていた。


相手が大男の変態だったり筋肉モリモリマッチョマンの変態だったりしたら止められないだろう。


「ねぇ真夏さん。多分今の俺じゃ止められない時があるかもしれないから雨ケ谷に頼んで文化祭までの間に筋トレしたいんだけどいいかな?」


「それは別にいいけど、晩御飯前には帰ってきてね」


「ありがとう」


俺は早速雨ケ谷に電話して、あいつの親が経営しているジムに向かった。


そこに着くと雨ケ谷が立っていてこちらに手を振っていた。


「よ、神楽。急に筋トレしたいってどうしたんだ? 守りたい人でもできたか?」


守りたい人ができたって言葉をあながち間違いではないだろう。真夏さん達を守るために筋トレをしに来たのだから。


「まぁそんな感じかな、今の俺じゃ守りきれないかもしれないから文化祭までの間に少しでも筋肉を付けておきたくてね」


「それはいいけど結構きついぞぉ?」


「大丈夫、訓練でクタクタになってたら本番の時に失敗するから、俺は耐え抜くよ」


「まぁ友達料金で少し安くして貰えるように父さんに交渉してみるけど……まぁまとりあえず中に入れよ」


雨ケ谷の後ろについて中に入り、受付をしていた人に挨拶をして早速着替えて運動を始めた。


普段からスポーツをやっていないというわけでもないのですぐに息切れしたりしんどくなることはなかった。


「父さんがお前のために特別メニューを作ってくれたし、割引もしてくれるらしいから良かったな」


「ありがとう、それじゃあ後でお礼を言いにいこうかな」


「文化祭まであと数週間だから……会費は2000円ぐらいかなぁ?」


それぐらいなら今払えるので、財布の中から2000円を取りだして雨ケ谷に渡した。


そして俺のためだけに作ってくれた特別メニューを雨ケ谷と共に開始した。

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