第28話

スタートが切られて真っ先に前に出たのはやっぱり陸上部やサッカー部の奴らだった。


卓球部の第1走者は甘雨あまさめ、もといあまみゃで。前から4番目の位置を走っていた。


「いやぁ陸上部たちは早いなぁ……ほら次頑張れよ!」


あまみゃがバトンを渡して次の走者が走り出す。それでも順位は変わらず卓球部は4位で陸上部たちが独走していた。


周りからものすごい声出しが聞こえてくるが、卓球部と部員の量が倍以上いるので対抗しようにも対抗できない。


1人100mの400mリレーなので抜かそうにも抜かせない、そして卓球部の第2走者が3位になったところで第3走者にバトンが渡った。


「ワンチャン行けるかもな……神楽の足の速さは普通に陸上部に匹敵どころか上位レベルだし。ひとまずは神楽に渡すまでに、できるだけこの差を縮めて置かないとな」


そして2位のサッカー部との距離をぐんぐん詰めていき、アンカーの神楽にバトンが渡った。


「神楽ぁ、頑張れよ!」


「あぁ!」


俺は目先にいる陸上部とサッカー部の奴を全力で追いかける。


俺はこのリレーに負けたくない理由があった。みんなが聞いたら笑われるかもしれないが、その理由は……。


(真夏さんに見られてるしカッコつけたいってのがあるけど……もし1位を取れなかったらなんかかっこ悪いよなぁ)


そんなことを思っていても現実は変わらない、相手との距離は縮まらない。そして縮まらないまま、俺はゴールテープを切る。


「はぁ……はぁ……やっぱり無理だったか」


それから部員みんなが集まってきて「惜しかったなぁ」や「よく頑張った」などの労いの言葉をかけてもらった。


それからしばらくして体育祭の終わりが告げられた。なにかを競っていたわけではないので賞状などは貰えないが、とても楽しい体育祭だった。


「惜しかったね、部活対抗リレー。もう少しで抜かせそうだったじゃん!」


「確かに惜しかったさ。それ故により悔しいんだ、もう少しで抜かせたギリギリのところで負ける……やっぱり勝負事はボロボロに負けるより、ギリギリの接戦で負けた時がどんな時より悔しいと、俺は思っている」


隣で3人が納得してそうな感じでこちらを見つめてきたが、俺はそれより気になることがある。


借り物競争のことが周りに広まってないかどうかだ。


別にクラスのやつにならもうバレてるし別にいいのだが、この噂が他のクラスにまで回るとぶっちゃけ相当やばい。


そう思っていても噂は止めようにも止められないので、どうなってもいいや精神で何があっても対応することに決めた。


家に戻ったあとはご飯を食べて今回の体育祭のことについて話していた。


「ねぇ奏介くん……」


「ん?」


「借り物競争の時のお題にさ、『大切な人』って書いてなかった? いや、間違ってたらごめん」


「あぁ確かに書いていたし、しかも女性限定だった」


あの時に俺を悩ませた理由でもある。


「なんで私を選んでくれたの? お姉ちゃんでも、雨恵ちゃんでも良かったんじゃ……」


「真夏さん、俺にとってはみんな大切な人だし、本当なら選ぶなんてことしたくなかった」


今から話すのは俺の本心だ。真夏さんをどう思っているかを、ここで全て打ち明けることにした。


「さっきも言ったけど俺からしたら真夏さんも、真冬さんだってみんな大切な人だ。その中で1人選ぶとなって相当悩んださ、でも……」


俺は真夏さんの瞳をじっと見つめて言葉を続ける。


「1人だけ最も大切な人を選ぶってなったら真夏さんだった」


俺がそう言うと、真夏さんから「なんで?」と質問が飛んでくるが元々言うつもりだったので問題ない。


「俺に良くしてくれたし、なんと言ってもこんな俺なんかに好意を持ってくれているってことかな。俺はまだそれに応えることは出来ないけど、いつかは応えられると思う」


それが1週間か、1ヶ月か、1年か、それは分からないけど俺は必ずいつかは応えようと思っている。


(でも、叶と真夏さんのどっちかを選んで付き合ってしまったら、どっちかが下になってしまう。そんなことになるならどっちの想いにも応えず平等に接した方が……)


なんて考えてる俺はやっぱりこの想いに応えることは出来ないのかもしれない、それにこの‪”‬いつか‪”‬はいつ来るのか分からないのだから……。


なんとも世界は残酷なものだ。だって誰かの幸せは誰かの不幸となるのだから。


今だってそうだ、奏介が真夏と付き合ったのなら真夏は幸せだろうが叶は不幸だろう。それは逆になっても同じ話だ。


つまり2人ともが幸せで入れる道はどっちも付き合わずに友達以上、恋人未満として接していくしかない。


「それならいつまでも想いを伝え続けるから、いつか……応えてね」


俺はその言葉に返答することなく、自分の部屋に戻った。


「クソ野郎じゃないか……こんなにも良くしてもらってるのに、応えれないのに応えるなんて嘘を言って希望を持たせて……そして最終的には希望を絶望に変えてしまう、そんなの……」


俺はまた自分自身を嫌悪けんおしてしまった。叶の時も自分がいなかったらなど、叶の前で口にしてしまって怒られたのに……。


「はぁ……こんなところを叶に見られたらまた怒られてしまうな。真夏さんにもいい所あるって言ってもらったのに、こんなに自分を卑下してばかりではダメだ」


もっとポジティブに考えれるようにならなければ、そもそも2人に相応しい男になれないだろう。


俺は心身ともに変わるという決意を固めて眠りについた。


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