第26話
とある人影を見つけた俺は走り出して……ようやくその影に追いついた。「久しぶり……」と声をかけると向こうから「本当に、久しぶりですね……」と帰ってきたので、人違いでないことを確信した俺は、その人の隣に立つ。
「あの時はそーくんに負い目を感じさせる形になってしまって申し訳ないと思っています」
「いや、あの時は勝手に俺が負い目を感じて叶から離れていってしまっただけだ。でも今こうして再会できたのなら、結果オーライって事じゃないか?」
「まぁ失礼を承知で言うんですけど、私に頼りっきりのそーくんを支えてくれた人は誰ですか? 少なくとも私が知っているそーくんは1人で乗り越えれるような人ではなかったと思います」
叶の言う通り俺は1人で乗り越えれるような人間じゃない。まずは学園に入って茅森と出会って、それから真夏さん、真冬さん、雨ケ谷にもたくさんの人と出会って支えてもらったからこそ今の俺がある。
「確かに、色んな人に支えてもらった。主に真夏さんたちに」
「それじゃあ、その人たちにお礼と宣戦布告をしに行かないとですね」
「お礼まではいいけど、なんで宣戦布告……」
「だってそーくんは私の弟的な存在ですから。前に言ってくれましたよね、私のことを『お姉ちゃん』って!」
過去の黒歴史が掘り返されたことに精神が壊れそうだ……。
その前に久しぶりに会うから叶が独占欲が強めってことを忘れていた。こうなってしまったら意地でも目的は達成したがるし、俺の話も耳に入らない。
「とりあえず、転校して……」
なにやら隣で色々呟いている。考えたくもないが、俺を自分のモノにするためのことだろう。
お礼をしに行くという表面上の理由があるので、一応叶を真夏さん達のところまで連れていった。家の前には真夏さんが立っていた。
「あ、おかえり奏介く……んって隣の人は誰?」
「前から話してた幼馴染の叶。今回は叶が2人に言っておきたいことがあるってことらしいから連れてきた」
「貴方が私の
突然のことに真夏さんは叶を呆然と暫く見つめたあと叶に詰め寄った。
「幼馴染だかどうだか知らないけど、奏介君は私のだから!」
「でも過ごした年数は私の方が長いですよ? 貴方が高校でそーくんと出会ったのなら日数も経ってないですし、たった数ヶ月の恋ならそれは偽物ですよ」
一応外なのだが……と口出しをしようとしたが、2人は白熱していて聞く耳を持たなかった。あとは2人が俺を争ってるということに俺がどれだけ理性を保っていられるかってところだ。
「恋は過ごした日数じゃないもん! どれだけ相手を好きかだから。私だって奏介くんと色々(意味深)したから」
「たかが、一緒に寝たりキスしたりぐらいでしょう? 私は○○○から○○○なことまでそーくんと……」
「おい待て待て! 勝手に捏造するな! ○○○なことは絶対にやってないし、お前とは一緒に寝た覚えもないしキスした覚えもない! というかここ外だぞバカなのか」
さすがに外で会話する内容では無いので家の中に入って俺の部屋に2人を入れた。
部屋の中に入ってからも相変わらず2人はバチバチの状態だったが、俺を争ってるということになってるので俺が口出しして止まる問題では無い。
俺は叶と寝たり、キスした覚えもないので叶に聞いてみたら、過去にお泊まりした時があったのだが俺が寝ている時にキスして、一緒の布団に入って、俺が起きる前に布団から出ていたそうだ。
「なぁとりあえず……俺を挟んで言い争いする必要は無いだろ、まだ普通に暑い時期だから」
俺がそう言っても無視するかのように言い争いをしている。俺は考えるのをやめて、ただ言い争いを無心で聞いていた。
しばらく話を聞いていると、真冬さんが部屋に入ってきて真夏さんと叶に1発デコピンをかました。
「客人の前で失礼な……って言いたいところですが、叶さんもここは人の家ですよ? 限度を考えて欲しいですね」
「「アッハイスミマセン」」
真冬の圧に押された2人は少し静かになった上に、奏介を挟んで言い争いをすることはなくなった。
落ち着いた叶は真夏さんに再度宣戦布告をして、今日のところは帰って行った。
「あぁ……実行委員のことでもう大変なのに、さらにこのことで俺の休みが無くなりそう……」
「負けられない……絶対に!」
真夏さんは叶に対抗する気満々のようだ。
真夏と奏介は学園が同じで過ごしている家も同じなのでどっちかと言えば叶より真夏の方が優勢と言えるだろう。
(大変なことになってるが、叶と再会出来て良かった。これで苦い思い出はひとつ消えたし、少しは気持ちが楽になるのかな)
問題が1つ解決したら問題は1つ出てくるというのがこの世界というもので……。
昔の叶のことは解決したが……こうして今、奏介が叶と真夏のどっちの物かと言うことで争っている。
俺は思い出の場所に出向き、様々のことを考えていた。
(俺の生活も随分変わった物だ。1度最底辺まで下がって、今はずっと上がり続けてる)
やっぱり諦めずに生き続ければいつかは報われるということだ。奏介がそうなったように。
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