第25話

昨日は土曜日だったのだが、実行委員だからということで学園に集まっていた。


そして今日、日曜日。日曜日なのにも関わらず実行委員は今日も動くらしい。


俺だけを呼ぶなら絵を早く完成させないといけないという理由があるので呼ぶ理由としては筋が通ってるのだが、今回呼ばれたのは実行委員の全員だ。


「俺が呼ばれるのは理解できるけどさぁ……真夏さんまでというか全員呼ぶ必要はあったのだろうか……。真夏さんは連続で朝早くから動く事がきついとかない?」


「お姉ちゃんから聞いたけどいやぁ昨日、教室で私寝ちゃってたんだよね? 正直言うと昨日のようになったら持たないかなぁ?」


「昨日に関しては俺は絵を描いてたからあの時間まで残ってたけど、真夏さんはアシストするだけなんだから先に帰っても良かったのに」


絵、本体を書くのは奏介なのでアシストの真夏さんは先に帰っても問題は無いのだが、一緒にずっと居た理由聞くと恥ずかしそうに「一緒に帰りたかったから……」となんとも可愛い理由を口にしてくれた。


あの日聞かせてくれた想いが偽物ではないということが伝わってくる。真夏さんは本当に俺の事が好きなのかもしれないと一瞬考えるが、そんな考えは直ぐに振り払った。


(叶に守られてばかり俺が、真夏さんを守れるわけが無い……。それに、過去の出来事に拘って叶の……いや叶に執着している自分なんかが付き合う権利なんかあるわけが無い)


教室に着いた俺は独り、部屋の隅で昨日の続きを描いていた。


周りのことなんか目に入れず、ただひたすら目の前にある白黒モノクロの絵だけに集中していた。


そして白黒の絵に1つずつ色を足していく。赤、黄、紫と色を塗っていく、空の色は青いのだが俺はあえて空を塗らなかった。


「ねぇ、なんで空の色を塗らないの? この絵の中でも空の色が占める割合は大きいよね?」


「青は俺らの中に十分過ぎるほどあるから。ねぇ真夏さん空がなんで青いか分かる?」


俺は隣にいる真夏さんにそんな質問を投げかける。真夏さんは首を傾げて「何?」と聞いてきた。


「辛い時に呆然と空を見つめることがあるだろう? そんな時こそ進むんだ。1つ例を挙げるとするのなら、信号は青の時に進む、そして空は青い……つまり人が前に進むために空は青いんだ」


「屁理屈じゃない?」


「確かにそうかもしれないけど、俺はずっとそう信じてきた。それに青春という‪”‬青‪”‬が十分俺達にはある、だから空の色を描かない。それと人工的な進めの合図はいらない、本当の‪”‬空‪”‬こそが本当の進めの合図だから」


真夏さんは納得したように振舞ったが、実際は疑問ばかりだろう。それは仕方ない、これは俺が考えたただの屁理屈なのだから。


その後絵を半分完成させた頃に月詠さんに‪”‬俺だけ‪”‬が呼び出された。


「月詠さん……‪”‬あの時‪”‬ぶりだね、その、あの時は悪かったと思ってる」


「神楽さんが謝ることでは無いですよ。ただ母さんの才能より貴方の才能の方が優れていただけの事ですから。絵を描くことが嫌ってしまっていたかと思っていましたが、案外大丈夫そうですね?」


「真夏さんたちが支えてくれたから今こうして絵を描いてるって感じかな。それと先生の調子はどう?」


月詠さんの母親はかつて俺が通っていた教室の先生で俺が絶望の縁に落としたと‪”‬思っていた‪”‬人だ。


「母さんはもうあの時のことを気にしていませんよ、今も教室を営んでますし逆に神楽さんが辞めてしまったのを悲しく思っていましたよ」


俺はあの時から先生のことは知らなかったので、あの時のことを拘ってないことに少し安心した。


「自分勝手なことは分かってるんですけど、もう一度あの教室に来てくれませんか? 神楽さんの存在は母さんにとっても、あの教室にとっても大きいんですよ」


俺はあの時に二度と絵を描かないって決めていたし、あの教室にいても誰も俺の事を見てくれなかった。


昔だってそうだった、向こうは俺に関わろうとしなかったのに、今となっては連れ戻そうと必死になって……。


「誘いは嬉しいよ、でもやっぱり無理かな、あの教室に戻るのは。別に絵を描くだけなら言ってくれれば描くから」


月詠さんとの話を切り上げた俺は昼には帰れるように塗っていない残りの部分を急いで終わらせて、羽間さんに完成品を提出した俺はひとまず中庭のベンチに座ってカフェオレを飲んでいた。


さっきまで苦い思い出の話をしていたせいなのか、カフェオレが少し苦く感じた。


その後は真夏と二人で帰った奏介だったのだが、途中でとある人影を見つけた奏介はその影を追いかけた。


「奏介くん!?」


「ごめん、用事ができた。先に帰ってて!」


俺はその人を追いかけていって、その人が止まったのは、この前真夏さんたちと言った場所で……それに追いついた俺はその人から少し離れた場所からその人に声をかけた。


「久しぶり……」


「本当に、久しぶりですね……」

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