第23話

夏休みが終わりしばらくした頃、朝起きるといつもより身体が重く感じたが、なんとか壁にもたれながらリビングに向かったが、リビングに入ろうとした直前に身体が限界を迎えた。


俺の身体は倒れると思い目を閉じるが、いつまで経っても痛みを感じないので目を開けると、俺の身体を支えてパチパチと瞬きをしながら見つめてる真冬さんの姿があった。


「奏介さん……大丈夫ですか? 顔が赤いですし、なんだかとても辛そうです」


「だ、大丈夫だよ……」


俺が再度立ち上がって歩き出そうとすると、身体がふらつき壁に手をついてなんとか倒れずに済んだ。


「やっぱり大丈夫じゃないですよね……今日は休んだ方がいいですって、先生に奏介さんが休むってことを伝えておいてと真夏に言っておきますから。とりあえず今日は絶対安静です!」


「分かった、迷惑かけてごめんね」


「迷惑だなんてそんな、いつも真夏が迷惑をかけてる側だと思うんですけど」


俺は身体が辛かったので「そんなことないよ」とだけ言って壁にもたれながら部屋に戻り、再度ベットの上に寝転んだ。


そしてしばらくすると制服姿で鞄を持ち行く準備を終えた真冬さんが、タオルやスポーツドリンクなどを置いて、すぐに学園に行ってしまった。


風邪の日に1人になると寂しくなると聞いたことがあるが俺はそんなことはないと思い込んでいた。現在、自分がその状況に置かれているのだが……。


奏介は独りで過ごしていた期間が長くあるし、あの時以来ずっと独りだったので寂しいなんて微塵も思わなかった。


(別に独りで過ごすことは慣れてるしいいんだが……ご飯はどうしようかなぁ)


別に奏介も作れないわけではないのだが、夕凪姉妹の美味しすぎるご飯を食べ続けてきた奏介にとっては今更自分の作る物ではおそらく満足できないだろう。

何よりここは自分の家では無いので勝手に冷蔵庫の中身を使っていいわけがないのだ。


そもそもご飯を作りに行けるだけの元気が俺にはないのだが……。


「風邪だと特に何も出来ないし……とりあえずリビングの机に置いてあったおにぎりだけでも食べて寝るか」


俺はリビングに一回戻っておにぎりを食べた後、寝たら治る理論ですぐに眠りについた。



※※※




私は奏介くんのことが気になって学園に向かっている最中もずっとソワソワしていた。


お姉ちゃんも「大丈夫」と言っていたがやっぱり気になるものは気になる。


「そんなに心配しなくても奏介さんは大丈夫ですって。帰ってから看病なりなんなりすればいいじゃないですか」


「んーなら、今日の放課後色んな人を呼んでお見舞いにでも行きたいなぁ」


「だったら茅森さんや雨ケ谷さんなどに真夏から声をかけておいてくださいよ? 私は先に帰って看病しておくので」


奏介の知らないところでお見舞いに雨ケ谷などが来ることが決まっていた。


今はまだ誰が来るかは分からないが、おそらく雨ケ谷たちは絶対に来るだろう。


お見舞いとかの前に真夏たちは学園があるので、お見舞いにみんなが来るまで相当な時間があるだろう。



※※※



奏介は寝ようとしたのだが、身体が暑くてなかなか眠りにつけないでいた。


時々タオルで汗を拭いたり、スポーツドリンクを飲んだりしていると寝ずとも時間は過ぎていって、時刻は学園でいう昼休憩の時間になっていた。


「もう昼か……でも食べるご飯は無いし、それを作ってくれる人も今は居ないからなぁ」


いつも弁当を作ってくれている真夏さんと真冬さんは今学園にいて、ご飯を作ることは当たり前だができない。


俺が昼ごはんをどうしようかなぁと少し楽になった身体を動かしてリビングに向かうと、見慣れた弁当が置いてあった。


その上には『いつものお弁当です、昼に食欲があれば食べてください』というメモが貼られていた。


夕凪姉妹はやっぱり全てにおいて完璧だと再度目の当たりにしたところで、ありがたくその弁当を食べた。


「いつもの弁当より健康に気遣ってるものが多いな……俺の今の状況を考えて作ってくれたんだろうなぁ。生活させてもらってご飯も作ってもらって……俺ってやっぱり迷惑をかけてるのにこうして優しく接してくれてる2人には感謝してもしきれないよなぁ」


それから数時間はベットの上で静かに過ごしていると玄関からガチャッと聞こえた数秒後に部屋の扉が開いた。


「奏介さん、体調は良くなりましたか?」


「朝よりはだいぶ良くなったんだけどさ……」


俺は真冬さんの後ろにいる人影に目を向ける。


「なんで雨ケ谷と立花、それに加えて茅森までいるんだよ……」


真冬さんの背後には雨ケ谷やそれに加えて茅森までいた。


「いやぁお見舞いに誘われたからさ、奏介でも体調不良になるんだな。そんなイメージなかったのに」


「俺も一応人間なんだから、体調不良にくらいなるって。そもそもお見舞いって一気にこんな人数が来るものなのか?」


俺がイメージしてたのは前の時のように1人ずつ来るという感じだったのだが、今回は一気に来ている。


まぁ別に嫌って訳では無いし、暇だったので話し相手が来て嬉しかった。


「へぇー神楽っちが真夏ちゃんの家で過ごしてるのってホントだったんだ〜」


「まぁ最初は俺も慣れなかったけどもう慣れてしまっている自分がいるよ。ほんと、俺はこの生活に満足してる」


しばらく6人で雑談をしたあと、3人は学園の帰りに寄って来ただけなので帰って行った。


その後は晩御飯を作ってもらうところまではいつも通りだったのだが、「念の為」と真夏さんがご飯を食べさせてくれた。


別に身体はだいぶ楽になったし、1人で食べれるのだが……。


(明日はしっかり学園に行けそうだな……一日の遅れを取り戻すためにいつもより気合を入れないとな)


風呂の中でそのようなことを考えながら、湯船に浸かる。


扉の奥に人影が見えて俺が「何?」と尋ねると「一緒に寝ましょう」と真夏さんから言われたが一応風邪なので移ったらダメだということで今日は断っておいた。


「一人で寝るのは久しぶりだな……」


いつもより広々としたベットに寝転び、眠りについた。

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