第21話

奏介は真夏の想いを聞いたあと、部屋に戻ってそのことについてずっと悩んでいた。


俺からしても、真夏さんが俺に好意を持ってくれていたことを嬉しく思ってるのだが……それでも簡単に受け入れられないのは幼馴染の……いや幼馴染だった叶の存在のせいだろう。


「叶がこの街にいて……この近くに住んでいることは現状わかってる……だから会えるかもしれないと思ってしまってるから、真夏さんからの思いを受け入れられないんだろうな……」


ほかの男子からしたら真夏から自分に好意があるってわかってしまったらすぐにOKをしてしまうほど嬉しいことだろう。


でも奏介は叶という存在と真夏という存在をはかりにかけてトントンの状態、つまり結論が出せていない。


「真夏さんがどれだけ俺に好意を伝えてきても……もう一度叶に会えるまで俺はずっとこうやって悩み続けるんだろうな」


そんなことを考えてると、ふと自嘲の笑みが零れる。あれだけ彼女にやめた方がいいと言われていたのに。


「はぁ……やっぱりおかしな話だ。離れることを望んだのは他でもない自分なのに、時間が経てばまた会いたいと望んでいる。どうも世界というものは矛盾ばっかりなんだな」


奏介にとっては叶も真夏も、2人とも大切な人なのだが……どちらかを優先したり選んだりすることは少なくとも今の状態ではできないと思う。


そもそもこの決断ができていれば真夏さんのことで悩むことなんてなかった。


「ずっと部屋にこもって考えても結論が出ないもんは出ないんだ、少し外にでも出ようかな」


「それなら私もついて行きますよ。考え事は1人で悩み続けても解決しないことが多いですから、私に相談してみてはどうですか?」


部屋の扉を見ると真冬さんが掃除道具を持って顔をのぞかせていた。


「うん、頼めるかな……。ひとつ聞きたいんだけど、いつから聞いてた?」


「申し訳ないとは思ってるんですけど、真夏の部屋で話してる時のことも、奏介さんが1人で悩んでたことも聞いてました」


「そっか、それなら俺がなんで悩んでいたかもわかってるよね。笑うといいよこんな俺を、決別しきれずに未練が残ったままの俺を」


「笑いませんよ、人間誰だって悩む時なんて幾らでもあるんですから。それだけ叶さんが、奏介さんの中で大きな存在だということです」


確かに叶とは長い年月一緒に過ごしてきたし、奏介が女性で初めて呼び捨てするほどまでの仲になった人だ。


奏介の中の大きな存在になっているということは間違いないだろう……だから今、悩んでいるのだから。


「叶さんがこの街に居るというのは奏介さんも理解してますよね? だったら生活していればいずれすれ違えますよ」


奏介は昨日、叶とすれ違ったのにも関わらず、会話出来るかもしれなかった瞬間だったのにそのチャンスを逃してしまった。


「確かにそうかもしれない。だったら今から2人に来て欲しい場所があるんだけど、いいかな?」


「もちろんです。真夏から私から声をかけておくので」


「うん、ありがとう」


真冬さんは部屋を掃除して部屋から出ていった。


俺が来て欲しい場所とは……昔よく叶と見に来ていた思い出の場所。


もしかしたら今も、そこに来ているかもしれないなんていう小さな期待を胸の奥に仕舞い込んだ。


俺はさっさと準備を終えて、玄関の前で2人を待っていた。


「おまたせ! それじゃあ行こうか。楽しみだなぁ奏介くんの来て欲しい場所」


真夏さんは何事も無かったかのようにいつも通り元気に健気に接してきてくれている。


「ここから少し遠いと思うから、水分とか忘れないでね今日は特に暑いから」


「言われなくてもちゃんと水分は持っていきますよ。夏ですし、熱中症予防はちゃんとしているつもりです」


「それじゃあ行こうか叶と俺が一緒に過ごしていた思い出の場所に」


外に出た奏介たちは30分くらい歩き続け、その場所に着いた。


「今はもう散っちゃってるけど、ここは桜並木の道だ……叶とは4月になったら必ず2人でここに桜を見に来ていた」


俺はそう言って地面に落ちていた1枚の花弁を広い手のひらに乗せる。

花弁は風に揺られどこかに飛んでしまったが、それを俺は目で追いかけた。


「やっぱり季節外れだし、もうここには叶はいないか……まぁそうだとは思っていたよ、ここにいるわけないって」


「ねぇ奏介くん、もし来年の春までこの幸せな日々が続いてたのならさ、もう一度私たちと一緒にこの場所に来ない?」


「あぁもちろんいいよ。その時は雨ケ谷たちも連れてこようか」


1度堕落してしまった俺が事故から彼女を庇って、生活が180°変わった。


この幸せな日々がこれからも続くのならそれは本望だ。


「桜の無いここにずっと居ても仕方ないからそろそろ戻ろうか。少しでも昔のような気分に戻れたから良かったよ」


俺たちは家に戻り、晩御飯を食べ終わったあと俺は真夏と二人きりで話していた。


「ねぇひとつ聞きたいんだけどさ……」


真夏さんは一呼吸おいて言葉を続ける。


「私は貴方の何番目……?」


何番目……そんな質問に俺は、悩むことなくすぐ答えた。


「俺は順位なんかつけないよ。優劣なんてつけたらその人との関係にヒビが入ってしまう……だから俺は誰かに優劣なんか付けない。だから真夏さんも叶も、その他のみんなも俺は同等に大切な人だよ」


「それなら……叶さんか、私を選んでってなったらどっちを選ぶの?」


「難しい質問だな……人を選ぶなんてことは嫌いだからな……。俺はどっちも選ばずにどっちとも友達として同等に大切にしていくかな?」


自分がもし実際にその状況におかれたら今みたいにすぐ答えることは出来なかっただろう。


でも今は2人きりだから、素直に自分の思っていることを伝えられる。


「そう……なの」


「うん、だから今は真夏さんの気持ちに応えることは出来ないかな。別に辛くなったら頼っていいし、度が過ぎなければスキンシップもしていいから」


「昨日も言ったけど、ずっと待ってるから」


俺はそう言い残して部屋を去った。


最後に俺の視界に入ったのは少し涙ぐんだ真夏さんの姿だった。

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