第20話

俺が朝起きると、いつも通り真冬さんを既に起きておりベット上にいなかったのだが、珍しく真夏さんの姿もなかった。


起きてるのかと思いとりあえず朝起きたので顔を洗いに行こうと布団から出たのだが、出たのに掛け布団が盛り上がってることに気づいた。


「俺、なんかクッションとか持ちながら寝たっけなぁ……そうだとしたら元の場所に戻しとかないとな」


俺が掛け布団を剥がすと、そこには真夏さんが寝転んでいて……。


「えぇ……なんで俺の布団に……ってなんで俺は気づかなかったんだろう」


その時、奏介の脳内に浮かんだのは最悪の可能性……だがそんなことはしていないと信じたい。


「もし、俺が何もしていなくて真夏さんから俺の布団の中に入ってきたとしたのなら悪いのはどっちになるんだろうな」


気づかなかった俺か、布団の中に入ってきた真夏さんか……でも真夏さんがそんなことをする人には思えない。


「とりあえず……顔を洗ってからこの状況を真冬さんにでも伝えにいかないと。状況が状況だからな」


俺はさっさと顔を洗ってリビングで朝ごはんを作っていた真冬さんに声を変えた。


「真冬さん! とりあえずこっちに来てもらっていい?」


「おはようございます奏介さん……。そんなに慌ててどうしたんですか? 何かあったんですか?」


「相当なことが、起きて直ぐに起きてしまったかなぁ……」


とりあえず真冬さんを寝ていた部屋に連れて行って掛け布団をめくって寝ている状態の真夏さんを見せた。


それを見た真冬さんは真夏さんを激しく揺らして無理やり起こした。


「え、なになに……お姉ちゃん」


「なに、じゃないですよ! 昨日寝る時は一緒に寝てたのになんで奏介さんの布団の中で寝ているんですか!」


「いやぁ……あのぉ」


この様子では奏介が何かした訳ではなく真夏が奏介の布団に入ってきたということだろう。


そのことに俺は少し安堵したが、真夏さんは真冬さんに説教されていてそれどころではないだろう。


「ここでは他の人が起きてしまいますね……ほら真夏、私の部屋に来なさい。それと奏介さんは先に朝ごはんを食べておいてください」


「は……はい」


真夏さんは真冬さんに引っ張られて部屋を出ていった。


俺はリビングに向かって作り終わっていた朝ごはんを食べたあと、時間も時間なのでまだ寝ている人たちを起こしに向かった。


「雨ケ谷と立花さんーそろそろ9時になるから起きてー、夏休みだからってダラダラしすぎると身体に響くぞー」


「いやあの時には起きてたんだけどさ……さっきの話って本当なのか?」


「起きてたんなら助けてくれよ!」


「あの状態で起きれるわけないだろ、気まずすぎるわ。それになんなら雨恵も起きてたって」


俺がベットの上に目を向けると小さくピースをしながら微笑んでる立花さんの姿があった。


「とりあえずご飯食べてきたら? 真夏さんと真冬さんは……もうしばらくかかるだろうしさ」


「そうしようかな。ほら雨恵、一緒にご飯食べよう」


雨ケ谷は立花さんを連れてリビングにご飯を食べに行った。


奏介は部屋の中で布団を片付けていた。



※※※



「それで真夏、言い訳はありますか?」


「イエナイデス……私が奏介くんの布団の中に入りました、本当にすいませんでした……」


「正直なのはいいですが……友人とはいえ、布団の中に入って一緒に寝るのはどうかと思いますよ……? 奏介さんじゃなかったら普通に手を出されていたかもしれなかったんですから!」


お姉ちゃんの言う通りなのでぐうの音も出ない。


「入ったのは悪かったけど、私が今回奏介くんの布団の中に入ったのには理由があるから」


「へぇなんですか?」


「お姉ちゃんと雨恵ちゃんの3人で寝てたからさすがに狭くてさぁ……だから仕方なく奏介くんの布団の中に入ったわけだよ」


「理由はわかりましたが……だからと言って正当な理由にはなっていませんよ?」


「ですよね……」


私はそれから数十分間、説教された後にお姉ちゃんと一緒にリビングに戻ると既に全員が起きていた。


「奏介さん、うちの真夏がすいませんね。ちゃんと説教しておいたので安心してください」


「別に嫌ではなかったし、そんなに怒らなくても良かったのに……俺は2人にお世話になってるんだから2人の願うことなら俺はできるだけ叶えたいと思ってるし」


「そうだとしても急に一緒の布団で寝るのは違うのでは?」


俺は真夏さんに「別に言ってくれれば一緒に寝るから」と言って頭を少し撫でて、リビングから退出した。


「もはや付き合ってるやつがやることだろ……早く付き合ってしまえよもう」


「おい雨ケ谷、地味で人気がない俺と学園1の美少女で人気もある真夏さんが付き合えるわけないから、二度とそんな事言うなよ」


俺は扉からひょこっと顔を出して、雨ケ谷に忠告したあと、今度こそリビングから退出した。


(はぁ……雨ケ谷も飛んだ冗談を言うもんだ。俺なんかが真夏さんと付き合えるわけないのに)


昼ごはんを食べた後に雨ケ谷たちは家に戻っていったのだが、俺は真夏さんから部屋に呼ばれていた。


「それでなんの用?」


「奏介くんは自分を卑下しすぎだよ……俺なんかは私に釣り合わないとか言ってるけど奏介くんは紳士的だし、私たちに優しくしてくれててとてもいい人だと思ってるよ」


「そうか……? 自分はそう思わないな。あの時、叶に守られて……向こうは許してくれていていつも通り話してくれようとしているのに俺は……叶から離れることを選んだ。なのに今は叶に会いたいと願ってしまっている未練タラタラの地味男だよ」


俺はそう思っている。叶が俺を庇って轢かれて……病院に行くと『守れてよかった』と言ってくれてはいたが、罪悪感を感じて……叶と離れて、今まで生活してきた。


真夏さんは俺の事を肯定してくれているが、それと俺は否定したいと思ってる。


「さっき、言ってくれれば一緒に寝ると、そう言ってたね?」


確かに奏介はそのようなことを口にした。


「なら今日も一緒に寝てくれないかな? 私は奏介くんのことが好き……なのかもしれないから。曖昧だけど……助けられたあの日から少し感じてたんだよ」


「曖昧の好意なんかじゃダメだよ、確信できるまでそんな事を言うな。俺に好意があるかもしれないというだけで告白なんてしようと考えてるなら俺はその告白を断ると思う。もっと確信できるようになってから好意というものを伝えてくれ。別に今日は一緒に寝てあげるよ、それと……」


俺は一呼吸おいて、その言葉を真夏さんに言う。


「いつまでも待ってるから」


俺はそう言って真夏さんの部屋のドアノブに手をかけて「真夏さんが好意を確信するまで」と言葉を続けた。


俺は真夏さんの顔が赤くなってるのを見て、すぐに部屋を出た。自分も顔は赤くなってるし、恥ずかしいことを言った自覚もある。


(もし真夏さんの好意が本物で、俺にそれをいつか伝えに来たとしたら、それに俺は……しっかりと応えないとな)



※※※



(やっぱり中途半端の好意は断られちゃったか……でも私は絶対諦めないし、私の‪”‬恋‪”‬は誰にも邪魔はさせない……でも叶さんという存在がいる、奏介くんの幼馴染という叶さんが)


私は絶対に負けないという決意を固めた。

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