第18話
朝起きると、隣のベットにいるはずの3人はベットにはいなかった。
洗面所などの他のところを探してもどこにもいないのでどこに行ったのかなぁと奏介が考えていると、部屋の扉がガチャっと開いた。
「あ、神楽さんは起きたんですね……和くんは、まだ起きてないんですか。ちょっと失礼します」
立花さんは俺の横にいる雨ケ谷に馬乗りになって、雨ケ谷の首や鎖骨をすーっと指でなぞった。
そうすると雨ケ谷は飛び跳ねるように起き上がった。
「ギブ! ギブ!、起きるから、雨恵ちょっ! 鎖骨とか首触るのやめて!」
「ふぅ……このくらいでいいでしょう。おはよう和くん」
雨ケ谷は「おはよう」と返事をして顔を洗いに行った。
今日は海に遊びに行く日だ。母さんたちは別に行きたい場所があるのと学生の青春を邪魔したくないからって海には来ないらしい。
奏介たちが向かう海はここの旅館からさほど遠くはなく、別に歩いて行けるような距離にある。
「それじゃあまずは朝ごはんでも買いに行こうか、旅館のコースはディナーだけだし。もう海に行く準備も持っていくよ!」
「ん、わかった。テントとか浮き輪が入ってる鞄は俺が持つよ重いだろうし」
と言った後に俺は真夏さんと真冬さんに忠告をしておく。
「2人とも絶対に水着の上からなんか着ろよ、あと1人に絶対になるな俺が雨ケ谷と一緒にいといた方がいい、絶対ナンパされるから」
「わかった」
奏介がそう言った理由は真夏たちに伝えたのともう1つ、上から何かを着るように言ったのは自分自身の理性のためだ。
普段着でさえ理性が壊れそうなのに、水着姿を見てしまえば100%奏介の理性は壊れるだろう。
「それじゃあ行こうか、時間は有限!」
俺たちは旅館から荷物を持って海に向かって歩き出した。
海までの道は言った通り遠くはなく、10分くらい歩いたら、海水浴場の看板が見えてきた。
俺たちは着替えるために一旦別れて、おそらく先に男の方が着替え終わるので、持ってきていたテントの設置を任された。
「やっぱり男の方が着替えるのは早いか、雨ケ谷! 女子達が来るまでにこのテントを完成させておくぞ」
「俺は絶対無理だろう思うけど頑張りまーす」
雨ケ谷の言った通り女子全員が出てきた時にテントは完成しなかった……というか2人で作れるようなでかさのテントじゃなかった。
真夏と真冬は奏介に言われた通りラッシュガードを着ているのだが、それでも可愛すぎて奏介の理性を破壊するのには十分な破壊力だった。
「奏介さん……どうしました? もしかして水着、似合ってないですか?」
「い、いやそんなことないよ。とても似合ってると思う」
奏介はずっと真冬や真夏と視線を合わせられないでいた。
「まぁとりあえずせっかく海に来たんだから、パーッとは遊ぼうよ! まずはみんなで水の中に入ってみよう!」
「そうですね! 私もこんな風にみんなで海に行くのは久しぶりなのでワクワクしています、ほら雨恵ちゃんも入りましょう!」
雨恵も真冬に手を引かれて海の中に入っていったので雨ケ谷と奏介は1度顔を見合せて「入るしかないか」「そうだな」という会話を挟んで諦めて海の中に入った。
と言ってもまだギリギリ足がつくような場所で奏介と雨ケ谷は止まっていた。
「他のみんなだんだん奥に行ってるし、もう浮き輪使うしかないな」
「あぁ」
2人は担いでいた浮き輪を使って女子たちがいる場所まで何とかたどり着いた。
「あれぇ2人とも浮き輪なんだね、泳げないってことでいいのかな?」
「その通りなんで反論できません……」
「いやぁ2人にも案外可愛いところあるんだねぇ。クール系だと思ってたけど、泳げないっていう可愛さがねぇ……」
「はいはい、なんとでも言うといいさ。とりあえず浮き輪を使ってでも全力で楽しむから」
それからまぁ水をかけあったり、ビーチバレーなどの海でのテンプレートなどをして、俺たちは少し疲れたのでテントで休んでいた。
「ちょっと飲み物買ってくる」
真夏さんがそう言ってテントから出ていく。
飲み物を買うだけの少しの時間なら1人にしてもいいかなという考えが甘かった。
なかなか戻ってこない真夏さんをテントから出て確認すると見知らぬ男に声をかけられていた。
その姿を見た俺は「俺も飲み物買ってくる」と言ってテントを出た。
「……えぇっと友達と遊んでいるので」
「そんなことはいいからさ、俺と遊ばない? 絶対友達と遊んでるより楽しいよ?」
(失敗するナンパの王道みたいなことを……とりあえず助けるか)
「そこのお兄さん、何してるのかな?」
俺は真夏さんをナンパしていた男の肩を掴んでそう尋ねる。
「遊びに誘ってただけだよ、部外者はどっか行けや!」
俺はこの場を安全に素早く切り抜けるにはこれしかないと思い恥ずかしながらもその行動に出る。
「その子は俺の彼女だ、手を出すな」
俺の言葉に真夏さんは一瞬驚いた表情を浮かべるが、意図をくみ取ってくれたのか奏介の腕に抱きつく。
「っち……それならキスでもしてみろよ! 恋人同士ならできるはずだよなぁ!」
こいつがここまで諦めが悪いと思ってなかったが、ここでキスをしなければ悪い方向に向かうのは明確だろう。俺はの小声で真夏さんに「ごめん……少し我慢して」と言ってキスをした。
「これで文句ないか?」
俺がそう言うと男は去っていった。
そして俺が真夏さんの方に振り返ると顔を赤くして俯いていた。
「急にごめん……でもあの場を切り抜けるにはああするしかなかったから……嫌だった?」
「嫌とは言ってないけど……びっくりしたというか、とにかく恥ずかしいかな……」
当然だ、彼氏でもなんでもない人から急にキスされるんだ、驚かないわけないし恥ずかしくないわけもない。当然自分だって恥ずかしいさ。
「本当にごめん……とりあえず戻ろっか」
「そうだね……」
とりあえず飲み物を買って、テントに向かって歩いていた。戻るまでの間、しばらく沈黙が流れた。
「あ、2人とも戻ってきました……って2人ともなんか顔が赤くないですか? 何かありましたか?」
「「いえ、何も!」」
「そうですか……それなら別にいいんですけど」
俺は熱くなった身体を冷やすためにも、買ったキンキンに冷えた飲み物を飲んだ。
しばらくテントで休憩してだいぶ落ち着いてきた奏介と真夏は2人だけで会話を振るために海の中へ入っていった。
「ねぇ奏介くん」
「はい……」
「助けてくれたのは嬉しいんだけどさ……もっとほかに助ける方法、あったよね?」
確かにあそこで彼氏と偽らなくても、係員を呼んだりなど他の方法は色々あっただろう。
「い、いや早く真夏さんを助けたかったから仕方なく……」
「言い訳は聞いてないよ?」
「すみませんでした……」
俺は真夏さんにしばらく説教されてからテントに戻った。
(恥ずかしいかったけど悪い気はしなかったかな……それは奏介くんが特別な人だから。私の、命の恩人だから……かな?)
そして奏介たちはテントを片付けて、更衣室に向かった。
そして着替えたあと、新幹線の時間が迫ってることに気づいた奏介たちは急いで駅に向かった。
駅には奏介の両親が待っていた。
「だいぶ遊んでたね、今日は楽しめたかい?」
「はい、とても楽しかったですよ。いい思い出が作れました!」
「それなら良かった。それじゃあ帰ろうか」
新幹線に乗り、数時間外の景色を眺めているとようやく着いたようだ。
雨ケ谷たちとは駅で別れて、母さんたちとは家の前で別れた。
「今日はとても楽しかったな」
「そうですね……とりあえず新幹線に乗ってから数時間経ってもう晩御飯の時間なので私たちは家に帰ったらすぐに作りますね」
奏介の中ではこんな幸せな日々がもう当たり前になってきていて、そこに望むもの何も無かった。
───ただひとつの願いを除いて。
(叶ともう一度……話してみたい)
この願いだけはどれだけ幸せな日々を過ごしても叶えられなかった。
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