第17話

夏休みになって、しばらくした頃に、俺たちは前から3人で考えていた海水浴に行くことに決まった。一応遠くに行くので奏介の両親を連れて、海に向かっていた。


新幹線に乗っている7人のうち2人(真夏と雨恵)は2人でよりかかって寝ている。


今回は海水浴に行くという目的だが基本的には友達を連れていく旅行だろう。


「今回、楽しみですね。それと今回は着いてきてくれてありがとうございますね」


「別にいいんだよ、高校生だけで行くのにはちょっと遠いし。それにお金を払ってるのはそちらの方なんだから、困ったらなんでも頼んでね」


「なぁ雨ケ谷」


俺は耳元で小声で雨ケ谷に声をかける。


「なんだ……? もしかして海水浴のことか? 大丈夫だ泳げないのは俺もだから、恥ずかしがることはない」


「そうか、それなら良かった」


奏介は泳げない同士がいた事に安堵した。いなかったらみんなが泳いでる中、自分一人だけが浮き輪を使ってる姿なんか想像したくない。


奏介は小学生の頃から泳ぐことが出来ず、何回も泳げるようにと努力していたのだが泳ぐことは未だに出来なかった。


別にこの面子めんつなら泳げなくてバカにされることは無いと思うが自分が恥ずかしいと感じてしまうので雨ケ谷も泳げなくてよかったと思っている。


旅行先まで到着するまでまだまだかかるのでその間は雨ケ谷と雑談しながら過ごしていた。



※※※




「いやぁ着いたな!」


奏介は結局は新幹線の中で寝てしまっていた。


「新幹線の中で寝てて寝起きなのに元気なんだな神楽は。うちの雨恵はまだまだ眠てるのに」


雨恵はくぅ、くぅと寝息をたてていて、雨ケ谷の腕に抱きついて寝ている。それを雨ケ谷は雨恵が転ばないようにしっかり支えている。


「というか腕で支えるよりもはやおんぶした方が安全だし、早く移動できるんじゃないか? 一旦俺が支えておくから」


俺が一旦立花さんを支えて、雨ケ谷が腰を低くしたところに立花を持っていった。


「よいしょっと。それじゃあ行こうか」


「というかこんだけ身体が揺れても起きないんだな……」


「真夏と同じですよ」


そう言った真冬さんも真夏さんをおんぶして歩いている。俺は真冬さんの腕がぷるぷると震えてるところを見て変わろうかと言いかけたが、セクハラとかなんとか言われそうなのでその言葉を呑み込んだ。


しばらく歩いていると真冬さんが「限界です……」と真夏さんを下ろしたので俺は「代わりにおんぶするよ」と真夏さんの身体に触れた。


セクハラなど言われるかもしれないが、辛そうにしてる女の子を放っておくことは出来ないし、チェックインの時間が迫ってるので抱えていくのでは間に合わない。


奏介はできるだけ足を持たずに背中の下ら辺を持っておんぶして歩いた。それでも息は顔にかかってるし何とは言わないが柔らかいものも背中に当たってるので奏介は顔が少し赤くなってきた。


(一体真夏さんはどんだけ寝るんだよ……俺のためにも早く起きてほしんだけどなぁ)


そんな願いも虚しく真夏はホテルに着いてもまだ寝ていて、部屋に入った時に奏介の背中で目を覚ました。


「え、私おんぶされてる……? って奏介くん!?」


「最初は私がおんぶしてたけど、奏介さんが察して変わってくれたんですよー。よくあれだけ眠れますね……」


「本能には逆らえないのだ! とりあえず下ろしてくれないかな?」


「あーごめんごめん」


俺は真夏さんを背中から下ろした。


おんぶしてる時に感じた柔らかい物の感触や寝息がかかってたことは忘れたくても羞恥の出来事として頭の中に残り続けるだろう。


「今日は移動で疲れてるでしょうし、ゆっくり休みましょうか。部屋は2つとってあるので私たち学生組はこの部屋で、奏介さんの親御さんは隣の部屋を使ってください」


「ありがとう、助かるわ。それじゃあ行きましょ。学生組の青春を邪魔するのもあれだし」


母さんはそう言ってこの部屋から出ていった。


ご飯の時間になったら下の階にあるバイキングに呼ばれるらしいのでそれまで学生らしく、修学旅行らしく、トランプなどをして遊んでいた。


「うぅ……また負け……」


真夏はこれで3連敗だ。テストでも奏介と真冬に負けて、トランプでもこの2人に負ける……なんと不憫な人だろう。


しばらく遊んでいるとホテルの人が入ってきて、食事の時間ですと読んでくれた。


お腹が減ってる俺たちは早速バイキングにまで向かった。


中に入ると、カニやエビなどの海鮮が並んでるテーブルが真ん中にあった。ここから取って自分の席まで持って行って食べろということだろう。


「これはすごいわね……というか真冬ちゃん、本当にそっちが払うってことでいいのかしら?」


「いえいえ、普段から奏介さんにはお世話になってますしお金は余ってますので大丈夫です」


俺としてはお世話になっているのは俺の方だけだと思う。


「真冬さんがいいって言うなら甘えてもいいんじゃない?」


「そういうものなのかしら?」


バイキングを堪能した7人はその後に温泉に入って、そのうちの学生組は明日に備えてもう寝る準備をしていた。


「ベットが2つしかないから……よし雨ケ谷、こっちこい」


「雨恵と一緒に寝れないのは嫌だけど仕方ないか」


奏介、雨ケ谷組と真夏、真冬、雨恵組に別れてベット寝転がった。


そして部屋の証明を消して俺が「おやすみ」と言うとみんなから「おやすみ」と返事が返ってきた。


(欲を言うなら……叶もこの旅行に連れてきたかったけど……。いや、今はこのメンバーでの旅行なんだから、いない人のことを考えるのは無粋か)


俺はそんなことを考えながら目を閉じた。

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