第16話
奏介は練習が忙しくて、雨ケ谷にこのネックレスを手渡すことは出来なかったが、大会当日、真夏と真冬に応援されてる中で負けられないと気合いが湧いた奏介は無事にチームを勝利に導いた。
その数日後の学校で雨ケ谷にこのアクセサリーを渡した。
今日のクラス……いや学園全体はいつもより盛り上がっている。
なんと言っても明日からは夏休み、課題はあるとしてもそれを終わらせれば自由に遊んでいい期間……学生からしたら待ち望んでいた時間だろう。
と言っても奏介は勉強をサボる気はないので自分からどこかに出かけるという用事は特になかった。
でも今年は真夏と真冬に夏休みにどこかへ遊びに行く約束をしている。
「なぁ神楽ぁ、夏休みに5人でどこか行くって話だけどどこに行くかを真夏さんか真冬さんから聞いてないのか?」
「いや聞いてないけど……というか雨ケ谷も立花さんから聞いてないのか?」
「いやぁ1回聞いたんだけどさ『当日までのお楽しみなので』って言われたからさぁ。さすがにそう言われたのに追求するほど俺は性悪じゃないしさ」
雨ケ谷は性悪ではないと思ってるし逆にだいぶ性格が良い方だろう。
前にこんな俺にでさえ声をかけて救いの手を差し伸べてれてくれた雨ケ谷はだいぶ性格が良いと言える。
「確かにだいぶ性格いいもんな雨ケ谷は。自分は自覚ないかもしれないけど、他の人からの雨ケ谷の印象はそんなもんだぞ?」
「そうかー? まぁ悪いことじゃないし素直に受け止めるとしますかね」
「雨ケ谷、真夏さんから預かってるものがあるから受け取ってくれ」
俺は桜のアクセサリーを雨ケ谷に手渡す。
「お、あんがと」
そんな会話をしていると先生が入ってきたので、2人は自分の席に戻った。
真夏さんは俺の事を色々考慮してくれて、朝行く時は別々に行って学園の中ではいつも通りに接するというのが日常になっていた。
流石に怪我も治ってるし、真夏さんと一緒に学園に行ってる姿を見られるのはまずいのだ。代わりに今は雨ケ谷と一緒に学園に通っている。
俺は隣の真夏さんに2回目の「おはよう」と言うと真夏さんも2回目の「おはよう」と言って微笑んでくれた。
「もうだいぶこの俺たちを見る視線も減ってきたなぁー。とても嬉しい限りだ」
「それは関わりが無くならないと悟ったからじゃない? 奏介くんから私に関わってるわけじゃないし、もう諦めたんでしょ」
「そうだと嬉しいだが……流石に学園の中では君付けはやめてくれない? なんか聞かれてたら色々間違われそう」
俺がそう言うと真夏さんは小声で「わかった」と返事した。
間違われるというのは付き合ってるかの話だ。
前まで名字呼びでさん付けだったのに急に下の名前呼びで君付けになっていたは付き合ったと勘違いされかねないので奏介は真夏に忠告しておいた。
ホームルームが終わると雨ケ谷と立花さんがこっちにやってきて、早速夏休みのことを口にした。
「神楽ー、やっぱり夏休みにどこに遊びに行くか気になるよな?」
「何回も言ってるけどそれは当日までのお楽しみだよー。でも大丈夫、5人でも全員が楽しめるような場所にしてあるから」
「そうですよ……私と、真夏ちゃんと真冬ちゃんでしっかり相談しあって決めたので問題ないです」
「それなら問題ないな」
俺は心のなかで雨ケ谷に甘ちゃんめ……とツッコミを入れて、話を再開する。
真冬だけ違うクラスでこの話に入れないのはちょっと可哀想だが、俺たちにはどうしようも無いので仕方ない。
4人は授業が始まるギリギリまでこの話題で盛りあがっており、チャイムがなるまで時間に気づかなかった。
「あ、もう授業始まるじゃん、また昼休憩の時にな」
雨ケ谷はそう言って自分の席に戻って行った。
その後は普通に授業を受けていき、ようやく昼休憩になった時、俺は弁当を部屋に置いてきたことに気づいたので、真夏さんに事情を説明して購買にパンでも買いに行くことにした。
(にしても購買なんて初めて行くなぁ。いつも真夏さんたちが俺の弁当を作ってくれてたし。どんなパンが売ってるんだろう?)
「いらっしゃい、神楽くん」
「ん?」
俺が並べてあるパンを見ているとレジの方から聞きなれた声が聞こえてきた。
「あー彩芽先輩じゃないですか、ここの購買の担当だったんですね」
「いやぁ1年の大会も終わって、部活で1年を指導する必要もなくなったし、だいぶ余裕が出来たから久しぶりに店番してるんだ。それと大会、見てたよ! いやぁー優勝おめでとう」
先輩の言う通り奏介たちは優勝して、次の舞台に駒を進めていた。
次の舞台は県だ。
「今までの先輩たちは地方で止まっちゃってたけど、神楽くんの世代なら全国まで行けちゃうんじゃない? とにかく応援してるよ」
「ありがとう先輩、コーチからもそんなことを言われたよ。とりあえず教室で友達をまたせてるから早くパンを買いたいんだけど……おすすめのパンとかあります?」
奏介は先輩が「これかなー」と手に取ったやつを購入して教室に戻って行った。
「おまたせ……って先に食べてても良かったのに」
「いやぁみんなで食べほうがいいじゃん? というか結構買うのに時間かかってたね、人が多かったの?」
「いや、人が多いわけじゃないけどちょうど店番が卓球部の先輩でさ大会の事とかを話してただけだよ。昼休憩は有限だから早く食べようか」
奏介は買ってきた先輩おすすめのパンを口にする。
(美味いなこれ……購買に行く時は絶対にこれ買お)
昼休憩が終わり、残りの授業も終えて部活動を終えて、3人は家に向かって歩いていた。
「いやぁ今日も一日楽しかったね」
「そうだな」
この前に比べてだいぶ賑やかになったものだ。
奏介1人だったのが真夏、真冬、そして雨恵に和人と奏介の周りの人間が増えてきている。
──────あとは叶がいれば……。
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