第14話

奏介は2人を連れて練習所に向かった。その場所に着くと、メンバーの1人が外で待っていてくれた。


「来てくれてありがとうな神楽、それでその2人が言ってたマネージャー希望の人かな? 僕は甘雨実弥あまさめみや、よくあまみやとかあまみゃって呼ばれたりしてる。2人は1年担当のマネージャーになろうと思ってるんだよね?」


「そうですね、奏介さんもいるので。2人ともマネージャーになりたいと考えてます」


「それなら僕達は大歓迎だよ。ちょうどここにコーチもいるし申し込みしてきたら?」


「そうさせていただきますね。ほら行くよ真夏」


真冬さんは真夏さんを連れて施設の中に入っていった。


それに便乗して俺も服を脱いでユニフォーム姿になり練習する準備を整えた。


(コーチに挨拶でもしようかと思ったけど今は真夏さんたちと話しているし後でいいかな。時間を無駄にできないし早く練習始めるかな)


俺はサーブ練習をしていたメンバーのうちの一人、月代つきしろに声をかけて基礎練から試合形式の練習までの流れを決めて、練習を始めた。


「俺は怪我でブランクがあるから最初はちょっと弱めに打ってくれ、慣れてきたらいつものスピードで頼む」


「あいよ」


球を打つ音が響くこの場でコーチは真夏さんと真冬さんでマネージャーの仕事を話しているのが聞こえる。


俺は知ってる人がマネージャーになってくれて嬉しいし、見られてるからこそかっこ悪い姿を見せられないという気持ちが芽生えて、よりいっそう練習に励んでいた。


月代が球を拾ってる時や球がどっかに飛んでいって拾いに行く時などにチラチラ真夏さんたちが話している方向を確認するが話が終わった様子は無い。


(マネージャーの仕事っていっぱいあるしそれを教えこんでるのかな?)


それなら邪魔するのも野暮だし、向こうからやってくるまで練習に集中した。


「うん、だいぶ感覚も戻ってきたしいつもの感じでやっても大丈夫かな……。よし月代! いつも通りやっていいぞ」


「OK!」


そう声が聞こえた瞬間、さっきとは比べ物にならないほどたまのスピードが速くなったが、これが奏介たちのいつもの練習なので奏介は問題なく打ち返すし月代も問題なく打ち返す。


コーチに前聞いた話だが今回の1年はレベルが非常に高いらしく、この世代なら先輩たちが届かなかった全国も行けるかもしれないと言っていた。


それほど期待されてるのだ、それに応えなくてはと心を震わして練習を続けた。


「ちょっと休憩にしよう、さすがに少し休みたい」


「了解」


休憩として隅に置いてあるベンチに座ると真夏さんが「はい、これ」と言ってスポーツドリンクを手渡してくれた。


「ありがと、2人は卓球部のマネージャーになることは出来たの?」


「もちろん! 次の部活から働き続けるよ。と言っても最初のうちはドジっちゃうかもだけどね」


「いや、こうして飲み物を渡してくれるだけで助かってるよ」


それから3分間くらい真夏さんと話して、俺は相手を変えて練習を再開した。


相手は真城ましろ。メンバーの中で唯一防衛系の戦型だ。真城との練習は真城が守り続けて、俺が打ち続けるというものだ。


「それじゃあやるぞ真城」


「いつでもどうぞ」


その言葉と同時に俺は球を打つ、それを難なく返す真城。


「前から思ってたけど守り硬いねぇ、撃ち抜くのに相当な威力を要するだろうな」


「当然だ、防衛系の戦型だぞ? 撃ち抜かれたらそれで終わり……。それに今どき、攻撃も出来ないと話にならないからな!」


「おっと」


真城が守りの打ち方をやめて強打してきたので俺はそれをカウンターする。


それからすうラリーはずっと強打同士でラリーしていた。


「いやぁ凄いですね卓球って。思ってたより激しいスポーツですしなんと言ってもかっこいいですね」


「確かにそうだね、根暗なイメージがあったけど実際はとても楽しそうだね。いやぁこれをいつも見られるって考えたらマネージャーになってよかったって思えるよねぇ」


「それはそうですね。それに、自己評価が低かった奏介さんも卓球をしてる時はいつもより活き活きしてますし、楽しそうです」


「確かにそうだねぇ。怪我のせいでブランクはあると思うけど、楽しそうだよね。実際奏介くんは色んな才能があるのになぁ」


確かにそうだ。奏介には絵の才能もあったし、今見ている卓球もおそらく才能があるだろう。


それだけ才能があっても奏介の自己評価が低いのにはやっぱり叶との1件を引きずってるというのが大きくある。


「まぁでもそれは奏介さんの問題なので私たちが介入してどうにかなることでは事ではないので見守るしかないですよ」


私は「そうだね」と相槌を打ってお姉ちゃんと一緒に奏介くんを見つめる。


(やっぱり楽しそうだなぁ)


しばらく見つめているとこっちにボールを取りに来た奏介くんと目が合ってしまった。


「ん? 俺の事をずっと見つめてどうしたの?」


「いや、なんでもない。練習頑張ってね」


奏介は首を傾げながらボールを拾って、すぐに練習を再開した。


(さっき真夏さんが見つめてきたけどなんだったんだろ……? まぁいいか)


奏介は考えを振り払って、また次の相手と変えて練習を再開した。


そしてそれから30分ぐらいだった後にコーチから全員集合の合図があった。


「なんですかコーチ?」


「みんな知ってると思うが、夕凪さんたちが我が卓球部の1年担当マネージャーとなった。そして来週は1年初めての大会だ、今回の世代は才能に溢れている、優勝も有り得るだろう。とりあえず自己紹介を」


「は、はい! えぇ夕凪真夏です。精一杯皆さんを支えれるよう努力します!」


「夕凪真夏の姉の夕凪真冬です。真夏と二人で皆さんを支えますのでよろしくお願いします」


「2人ともありがとう。それじゃあ今日は解散!」


ということで奏介はいつも通り3人で帰路につきながら話していると、いつの間にか家に着いていた。


奏介は汗まみれの体なので家に入ってすぐに風呂場に向かっていった。

その間に2人は晩御飯を作っている。


(来週の大会、必ず勝たないとな……)


俺が風呂から上がると机の上にメモが置いてあった。


「ん?」


ご飯は奏介さんのスタミナが回復するような料理にしました。

そして私たちは明日早く起きて向かわないといけない場所があるのでもう寝ます、明日はそのあいだお留守番頼みますね。

それと私がもう寝てるからって夜更かしだけはしないでください。


「もはや親じゃん……とりあえずご飯食べてねるかぁ」


奏介はリビングに置いてあったご飯を食べた後、しばらく勉強してからベットに転がり込み眠りについた。

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