第10話

奏介は中学生の頃から高校の勉強をしており、今回のテスト勉強はどっちかと言うと復習という感じだった。


やってる途中で別に詰まることは無かったが、奏介の視界には頭を抱えてる者や終わったのか諦めたのかは分からないが顔を伏せている者も居た。


(高一のテストで諦めてたらこれから先のテストやばいと思うけど……大丈夫か? あいつら)


と思っても所詮は他人事ひとごとなので気にせずに奏介は自分のペースで問題を解いていた。


そして一旦昼休憩の時間になると生徒の多くが疲れた、どうだった? などテストの話題ばかり話している。奏介は雨ケ谷と真夏と一緒に弁当を食べながらテストのことを話していた。


「神楽さん、テストどうだった?」


「中学の頃から勉強してたし、別に分からないところもなかったかなぁ。そういう真夏さんも別に分からなかったところなんてなかったでしょ?」


「まぁね! お姉ちゃんと勉強したから、それに今回こそはお姉ちゃんに勝つよ! 中学の頃はずっと負けてたからねー」


「頭がいいのは羨ましいもんだ、俺はずっと平均的だったからなぁ」


さっきまでご飯をかきこんでた雨ケ谷が話の輪に入ってきた。


「別に平均的ならいいんじゃないのか? 無理に勉強する必要もないと思うけど」


「雨恵も頭いいし、お前たちも頭いいってなるとどうもプレッシャーがな。俺も次のテストにはお前たちと並べるように努力するよ」


俺はそんなに無理する必要ないとは思ったが雨ケ谷のやる気を削ぐ訳にはいかないので「がんばれ」とだけ言っておいた。


「別にまだテストは終わってないんだから、安心しちゃダメだよ? 神楽さんは大丈夫だと思うけど……とりあえず2人とも頑張ってね!」


真夏はそう言って弁当を片付けて席につき、残りの教科の勉強を始めたので奏介と雨ケ谷も勉強し始めた。


と言っても数分ぐらいの時間しかないので単語を再確認するくらいだったが、それをしたのとしないのとではだいぶ違うだろう。


先生の始まり合図で俺は一気にペンを動かし続ける。そしてペンを動かしているうちに時間はすぎていき、テストは終わった。


「やめ! 中間テストはこれで終了です。帰りの準備をしてなるべく早く帰宅してください」


「それじゃあ神楽さん、帰ろっか。雨ケ谷さんもまた明日ね!」


真夏さんは雨ケ谷に向かって手を振って車椅子を押す。廊下にはいつも通り真冬さんが立っていた。


「テストお疲れ様でした、神楽さん」


真冬さんはそう言って真夏さんと睨み合う。


「今回も負けませんよ?」


「今回こそ勝つもん!」


俺は車椅子を押されながらそんな会話を家に帰るまで永遠と聞いていた。


(やっぱり姉妹っていいな)


テストが終わったからと言って勉強をサボるわけではないが本気マジで勉強する必要が無くなったので束の間の休息を得れた。


「今日テストは終わったとはいえ1ヶ月もしたらまたテストなんだよなぁ……別に勉強は嫌いじゃないからいいけど」


「私も勉強することを苦だとは思ってないですし、神楽さんと勉強するのが楽しかったので。テストの結果、楽しみですね?」


「それ、私に言ってるの? お姉ちゃん。何回でも言うけど今回こそ負けないから!」


(姉妹仲がいいのは微笑ましいことだな)


玄関でずっと話すのもアレなので全員部屋に入って荷物を置いてリビングで話の続きをすることにした。


「テストの結果は1週間後に出るんだよね?」


「確かそうだったと思う。せめてランキング内には入りたいなぁ」


事前説明でテスト返却後廊下の掲示板に上位50名の名前と点数が張り出されると聞いていたので、俺はせめてそこには入りたいと考えていた。


「私たちって中学校からずっと天才って噂され続けてきたのでプレッシャーなんですよね……。天才と言われてるが故に高得点を取らないといけないっていう謎の使命感に駆られてしまって……」


「真冬さんたちも大変なんだね。天才って呼ばれるのも楽じゃないってことは俺も理解してるから」


「神楽さんも天才と呼ばれているんですか?」


「正確には呼ばれていた、だな。真夏さんにはこの話をしたけど真冬さんにはまだだったね」


俺は美術の授業の時、真夏さんに話したことを真冬さんにも伝えた。


「神楽さんにそんなことが……」


「もう過去のことだと割り切ってるつもりなんだけど……まぁまだ心の中に残ってるって感じかな、叶のこと同じように」


時間を気にせず話していると時刻は8時になってしまっていた。


「え、もうこんな時間ですか……仕方ないので今日は出前を取りましょうか。こんな時間からご飯を作り始めたら寝る時間が遅くなっちゃいますし。何か食べたいものとかあります?」


「俺は真冬さんが食べたいものでいいよ」


そんな感じで今日の晩御飯はピザになった。


久しぶりにジャンクフードを食べたがやっぱり美味しい、ただその代わりにカロリーとかはえげつないのだが、3人でひとつのピザを分けて食べているので今回は大丈夫だろう。


ピザを食べ終わったあと、奏介はいつも通り風呂に入ったのだが、ひとつ違うことがある。


「だいぶ久しぶりに湯船に浸かったなぁ……怪我もだいぶ治ってきたし、そろそろ家に帰れそうだ。今までお世話になった夕凪さんたちに感謝しないとな」


あと数週間したら怪我も治るだろう、奏介は最初お世話になるのを遠慮してたが、こうして生活してみると楽しいし、友達も増えた。奏介としてはこの生活を続けたいと思っているが許してくれるだろうか?


俺はそんなことを考えながら風呂をあがり、真っ先にこのことを聞きに行った。


「ねぇ真冬さん」


「なんですか?」


「もうすぐ怪我が治ると思うんだけどさ、俺って怪我のお世話って理由でここに住んでるじゃん? だから怪我が治ってしまったら真冬さんや真夏さんたちと関わりがなくなってしまっちゃうのかなぁって。クラスのやつも怪我してるからお世話されてるということで丸く納まってたと思うし。怪我が治ってるのに俺がお世話になってたらクラスのやつも黙ってないと思うんだ……それでも俺は真冬さんたちと過ごすのは楽しかったし、これからも一緒に過ごしたいと思ってるんだけどどうかな?」


「私は神楽さんと過ごした日々は真夏と2人で過ごしてた時より充実していましたし何も問題は無いですよ、もしクラスの人が何か言ってくるようであれば私たちがどうにかしますから」


「ありがとう、でも1回家に帰って父さんと母さんに伝えてくるからそこの所はよろしくね」


俺がそう言うと真冬さんは「分かりました」と言って部屋の中に入っていった。


(父さんと母さんなら別に許してくれそうだな……お世話になるってなった時も即答でOKだったし)


俺はそんなことを考えながら気持ちよく眠りについた。


真夏さんを庇ってから、奏介の何もかもが変わった、交友関係も自分の性格も。

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