第9話
話を終えてしばらくした頃、ピンポーンと玄関のチャイムがなり扉を開けると雨ケ谷と……おそらく彼女さんがいた。
「よっ雨ケ谷、そこの子は学園で言ってた彼女さん? 俺は神楽奏介、よろしく」
「え、えっとよろしくお願いします……わ、私は
「友達になったのは今日なんだけどな、俺か言うことじゃないけど、とりあえず上がりなよ。ずっと立ち話もなんだし」
俺は雨ケ谷達を中に入れて扉を閉めたあと、少し大きめの声でキッチンにいるであろう真夏さんに雨ケ谷たちが来たと声をかけた。
そうするとエプロン姿のままこちらにやってきた。おそらく振る舞う用のお菓子を作っていたのだろう。
「ようこそ我が家へ! 雨ケ谷さんと彼女さんだよね、今日は楽しんでいってねー。もうすぐ買い出しからお姉ちゃんが帰ってくると思うから」
噂をすればレジ袋を持った真冬さんが帰ってきた。
「あ、いらっしゃい雨ケ谷さん。それと……彼女さんですよね。買ったものを片付けてきますので、リビングでくつろいでおいてください」
「というか真夏さん、お菓子作ってたみたいだけど火、大丈夫なの?」
俺がそう言うと慌てて真夏さんはキッチンに戻って行った。
やっぱり真夏さんは真冬さんと違って少し抜けてる部分がある。でもそこが好ましいと思われるんだろう。
「一応今は俺の部屋ってことになってる部屋に行こうか、まだお菓子を作ってる途中だろうし」
「複雑なんだな」
「まぁ俺の家じゃないしな。自分の部屋があるわけないだろ」
奏介は2人を後ろに連れながら部屋の中に入った。
客人用の部屋なので車椅子でも全然スペースがあるので降りなくても大丈夫だろうと判断し雨ケ谷が座ってるソファーの向かい側に俺はいた。
「雨ケ谷、まだ学園が始まってそんな経ってないってのに彼女なんて作れるもんなんだな」
「雨恵とは高校で知り合ったわけじゃないからな、中学の頃に知り合ってだんだん仲良くなって……色々事情があって一緒に住んでて。それで高校生になった暁に付き合い始めた。だから高校生になってすぐにはもう付き合ってたし、それが最近バレたって話だ」
どうりで距離が近いと思っていた。彼女だったとしても高校で知り合ったのなら付き合いはせいぜい3ヶ月程度、でも中学の時から知り合ってたのなら納得出来る。
奏介少し前までは付き合いたいなどという恋愛感情を持っていたかもしれない、でもあの一件でそんなものは薄れてしまった。
「奏介くんは……夕凪さんたちと何かないんですか……? 一緒に生活してるなら何かあると思うんですけど」
「俺は事故から真夏さんを庇って怪我したからお世話して貰ってるだけだ。ご飯を作ってもらったりその他諸々をな。だから恋愛感情なんてないし、そんなものは昔に捨ててきた」
俺は少し失言をしてしまったと思い「忘れてくれ」とその場を
「捨ててきたってどういうことですか……?」
「もしかして学園で言ってたアレのことか?」
俺はその問いに対して頷いた。
「そうか。雨恵、このことを追求はしない方がいいと思う」
「は、はい」
「あ、話は終わったかな? それじゃあリビングに来てねー」
真夏は気を使って扉の前で話が終わるのを待っていたらしく、話が終わったので呼びに入ってきたということだ。
リビングに向かうと2人はソファーに座っていて、座っていいですよと言う感じにソファーをぽんぽんと叩いていた。
「俺もたまには車椅子以外にも座らないとな、ちょっと肩を貸してくれるか?」
奏介は真夏と真冬の2人に肩を貸してもらい、ソファーに座ったのだが……。
「あのー、俺をを間に座らせる必要ありました?」
真ん中や端にでも座らせれば良いものを、わざわざ真夏と真冬の間に座らされていた。
「何かがあってもすぐ対応できるように、必要ありますよ? それにもし神楽さんが寝落ちしてしまってどちらかに倒れても問題ないようにですから」
「いや寝落ちしないからな?」
もはや付き合ってないのがおかしいぐらい距離が近いが奏介には一切そんな気持ちは無いのだが……真冬と真夏は分からない、もしかしたらそういう感情があるのかもしれない。
「随分、仲がいいんですね……」
「そうか? 立花さんも雨ケ谷とかほかの友達の仲いいだろ、それと変わらないと思うけど」
「いやぁー俺と雨恵は中学からの付き合いだからこういうことをしてもおかしくないと思うけどさ、神楽と夕凪さんたちって出会ったばっかりだよね……?」
「確かにそうかもしれませんが、年月なんて関係ありませんよ、重要なのは相手を思う心ですから」
そんな言葉に奏介は心を動かされつつ目を閉じた、寝てしまった間に時間は過ぎていった、俺が起きた頃には18時になっていて雨ケ谷と立花さんは帰っていた。
「結局、寝ちゃってるじゃないですか。今日の夜寝られなくなりますよ?」
「寝ちゃてたか……ごめん膝、痺れてるよね……って真夏さんは?」
「真夏は今ご飯を作ってます、もうしばらくかかると思うので大丈夫ですよ」
そんな会話をしてる今も奏介は膝枕をされたままで、なんというか気持ちがずっと落ち着かない。
枕より柔らかくて油断してしまえばまた寝てしまいそうだ。
俺はとりあえず伸びをして隣に置いてあった車椅子に座り直した。
「大丈夫、多分寝れるから」
そうして晩御飯が運ばれてきたのでとりあえず食べて、俺は風呂に入っていた。
(今回は迂闊だったな……寝ないって言っておきながら寝ちゃったしそれも真冬さんの膝の上で……やっぱり昨日、叶のことを考え続けて眠れなかったからかな。今日はちゃんと寝ないとな)
俺が風呂を上がろうと扉を少し開けて部屋を見ると、掃除をしていたのか真冬さんがいた。
俺は真冬さんに気を使わせないためにバレないように扉を閉めてもう少し風呂に入ることにした。
(掃除してくれるのはありがたいけど着替える時に風呂の中じゃ着替えられないからなぁ……でもせっかくの掃除を邪魔するのあれだし)
そんなことを考えているとガチャと扉の音がしたので俺は風呂を出て着替えた。
「あ、おやすみなさい」
「おやすみ」
(ダメなのはわかってるけど……可愛いから仕方ないか、な?)
真夏は寝ている奏介にスマホを向けてパシャリと1枚写真を撮った。
「今度こそおやすみなさい」
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