第4話

俺が目を覚ますと双子から見つめられている状態で、俺はその状態に気が動転してしまった。


落ち着くまでにしばらく時間がかかってしまった。


「おはようございます神楽さん。晩御飯をこちらに持ってきますのでしばらく待っていてください」


「どうも……」


(2人でご飯を作ってるらしいけど昼の弁当もむっちゃ美味しかったな……これは晩御飯もさぞかし美味しいんだろうなぁ)


「お待たせしました! ご飯はみんなで食べた方が美味しいので3人で食べましょう、神楽さんって車椅子から降りることは出来ますか?」


「大丈夫ですよ、それじゃあいただきます」


「改めて言いますけど妹を助けてくださってありがとうございます。私たちにできるのはお世話することだけですけど……」


「いやいや、お世話してくれるだけで十分だよ! ご飯も作ってくれてるし、俺なんかと話してくれてるし。俺はそれだけで満足だよ」


陰キャの俺が学園1の美少女双子にお世話してもらえるなんて思ってなかったし、それに仲良くなれるのなら仲良くなりたい。


「それにしても神楽さんってあまり人と関わってるところを見た事がないんですけどなにか理由があるんですか?」


「…………」


「す、すみません、失礼でしたよね」


「いや大丈夫。ひとつ理由があるとしたら幼馴染との1件から人と関わるのが怖くなったんですよ。今あいつが何をしてるのかも、もう俺には分からないんです」


奏介はあの時の一件から完全に幼馴染から離れてしまった。


謝りに家に行ったこともあるが、もうその時には別の人の家になってしまっていた。奏介は謝ることもあの後話すこともできてないままだ。


「そうなんですか……ちなみにその幼馴染さんの名前ってなんて言うんですか?」


結城叶ゆうきかなえ。俺より身長が高くて、あの一件の時は中学生だったけど高校生に見えるくらい大きかった。そしてひとつ言うとしたら俺のお姉ちゃんって感じだった」


「叶……どこかで聞いたことある名前のような……でも思い出せないですね」


奏介からしたらまた会えるという可能性がどれだけ小さな光だったとしてもあるというのなら嬉しい限りだった。


(また叶と話したい……)


「ひとつ思うんですけど、私たちは同学年ですし敬語を使うのも堅苦しいだけなので自由に喋りませんか? そう言ってる私は敬語が抜けないんですけど」


「了解〜! そういうことらしいから神楽さんもよろしくね」


「あぁよろしく真夏さん、真冬さん」


叶と過ごしていた時はこうやって敬語を使わずに喋っていた奏介は数年ぶりに軽い口調で喋ったのでどこか懐かしい気持ちになった。


真夏さんにさん付けを外して欲しいと言われたがこれは昔からの俺の癖なので簡単に治すことはできない。


「そういえば晩御飯を食べている途中でしたね、話はここまでにしてそろそろ食べましょうか」


真夏と真冬は見た目はまったく同じだが性格は真逆だ。真夏は初対面の人には礼儀がいいが仲良くなったら一気に距離が近くなる。それに対して真冬はどんなに仲が良くても敬語で接している。


それに加えて利き手も違っていて似ているのは見た目だけで内面は双子でも変わってくるんだなと感じた。


「そういや真夏さんたちの両親に挨拶しておきたいんだけど今家に居るかな?」


「両親は2人とも一緒に海外に仕事に行っているんですよ。1年に1回帰ってくるんですけど……だからほとんど2人で生活しています。ご飯も私たちが作ってますし」


2人の服装や家のデカさを見れば裕福なのはわかったのだが、両親共々海外に仕事に行っているとは予想外だった。


俺の家も比較的裕福な方だと昔の友達から言われていたのだが、真夏さんたちの家と俺の家とでは裕福のレベルが違っていた。


「真夏さんたちがお世話してくれるのはわかったんだけどさ、俺ってどこで寝ればいいの? 怪我人とはいえさすがに同じ部屋で寝る訳にもいかないしさ」


「それなら客人用の部屋が空いているからそこを使えばいいよ!」


「客人用ってことは客人が来る可能性があるんじゃないのか?」


「大丈夫ですよ、一応客人用の部屋というものを作っただけで使ったことなど数回しかありませんから」


真冬さんはそう言うと車椅子を押してその部屋を案内するついでに風呂に入ってもらうとのことらしい。


部屋の中に入ると一般人が思い浮かべるような部屋があった。ひとつ違うところがあるとしたら部屋の中にさらに扉があってその中に小さめの風呂がついていたことだ。


「私は部屋の外に出ておくので風呂から出て着替え終わったら呼んでください。それと神楽さんの服とか私物は親御さんが送ってくださったそのダンボールの中に入っていますので」


「わかった。とりあえず服だけ出してっと。というか外で待ってるだけって暇じゃないか? 風呂から出る直前に声をかけるからその時に部屋を出てくれたらいいよ」


「わかりました」


俺は風呂の中に入ったが浴槽の中に入るにはまだ怪我が痛むので壁にもたれながらシャワーを浴びていた。


(こんなに良くしてもらっていいのか……? ご飯も用意してくれるし部屋も用意してくれている……ほかの男子からすれば天国のような生活をしているんだよなぁ)


学園1の美少女双子の家でお世話してもらって、真冬と真夏が作ったご飯を食べる。そんな生活、全男子の欲望と言っても過言ではないだろう。


「真冬さん〜そろそろあがるから部屋を出ててもらえるかな?」


「わかりましたー」


そんな返事が聞こえた後にどたばたと物音がした後に扉が開いて閉まる音が聞こえたので俺は一旦風呂場から顔だけを覗かせて真冬さんが居ないことを確認した後に風呂場から出て服を着た。


「もういいぞ〜」


「それじゃあおやすみなさい」


「え? いくらなんでも早すぎじゃない?」


今の時刻は9時30分。俺が普段寝てる時間は11時30分なので俺からしたら早すぎる時間だ。


「早く怪我を治すには食事面のバランスと早寝早起きとかを気遣わないと、治るのが遅くなりますよ」


「ん、それじゃあおやすみ」


真冬が部屋を出たあとこっそり起きてスマホをいじっていたら忘れ物を取りに来た真冬にバレて叱られてしまった。


「今度こそ寝てくださいね?」


「わかったって」


今度こそ奏介は瞳を閉じて眠りについた。

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