第3話

俺は学園にやってきたのだが……。


(周りの視線が痛い……)


今朝、夕凪さん姉妹が病室にやってきて俺は半強制的に車椅子に乗せられた。

そして今車椅子を押してるのは真夏さんだ。

ちなみにこの車椅子は電動なので人が押す必要などないのだが……夕凪さん姉妹の圧に押し切られてこうなった。


「それじゃあ神楽さん、また帰りに」


「お、おう」


姉の真冬さんはクラスが違うので別れることになったのだが、妹の真夏さんはクラスが一緒で極めつけには隣の席……。


今までは話すことはなかったから羨ましそうに見られるだけだったが、こんな感じに喋ってたりお世話してもらったりしてるところを見られたら、嫉妬の視線だけではすまないだろう。


そんなことをなげいたって、今の状況は変わらないので他の男子からの嫉妬を受け止めるしかない。


「真夏ちゃん! なんで神楽っちと一緒にいるの? 前まで話したこともなかったでしょ?」


「あのなぁ茅森、これには色々と深いわけがあるんだ」


茅森彩かやもりあや。元気があって人付き合いがよく、色んな人から好かれている。

そして俺が初めてこの学園で作った女の友達だ。


というかどちらかと言うと奏介は男の友達より女の子の友達の方が多い。まあ奏介は落ち着いてるからテンションが高い人な好みな男子たちより落ち着きのある人が好みな女子たちと関わるのは必然だろう。


「ええっとですね茅森さん。神楽さんの言う通り理由がありまして……私が車に轢かれそうになっていたところを神楽さんが守ってくれたんです。それで今お世話してるという訳です」


「なるほどね〜、神楽っち大丈夫?」


「身体がまだ痛むかなぁ、まぁ生活できない程ではないから大丈夫だ。ひとつ問題を挙げるとしたらさっきから殺気を出して見てくる男子たちが気になるくらいかな」


そんな会話をしながら3人で教室に入るが、やっぱり視線が痛い。

真夏さんに車椅子を押してもらい1番後ろの席まで連れていってもらった。そして真夏さんは車椅子から手を離して自分の席に着く。


「それで神楽さん、書くこととか食べることは出来ますか? できないのなら……」


俺は真夏さんが言葉を言い切る前に「大丈夫だ」と真夏さんの言葉を遮った。

食べさせてもらうなんてことをされたら俺の理性が持たないのもあるし、何より他の男子からの当たりが強くなるだろう。


なんであんなやつなんがが……など嫉妬されまくるのは目に見えてる。


「右腕を骨折してるが俺は左利きなんだ、書くこともできるし食べることも出来る! 手伝ってもらわなくても、こうして話してくれてるだけで十分だよ」


「そうですか? 困ったことがあれば遠慮なく言ってくださいね?」


陰キャの俺が学園1の美少女と言われている真夏さんと話せてるだけで奇跡に等しいのだにそれに加えてお世話をしてもらっている。


結果論としてあの時、身をていして良かったなと思っている。


授業は問題ないなく受けることができたのでよかったのだが……。


「そういや、家に帰ってないから弁当ないじゃん……財布も家にあるし。はぁ……今日は昼飯なしかな」


昼休憩の時間、1人そのようなことを呟いていると、隣にいた真夏さんに肩をポンポンと叩かれた。


「どうぞ」


「え?」


「昼ごはん、ないんですよね? 家に帰れてなくて親御さんから渡されてないから、ないんですよね? だから私たちが作ってきました」


「あ、ありがとう」


その瞬間、男子たちの視線がこちらに向いたのがわかった。睨む者もいれば悔しそうにしてる奴もいる。


(そんなに真夏さんの弁当が食べたいのかよ……)


周りの視線が気になるものの、隣で真夏さんがいかにも感想を待ってるような感じで微笑んでいたので、とりあえず弁当の蓋を開けた。


中には手作り感溢れるおかずが隙間なく入っていた。こんなものを俺が食べてもいいのかと考えるが真夏さんの好意を無駄にする訳にもいかないので集まる視線の中弁当を食べた。


「どうですか? 神楽さん」


「美味しいよ、本当に俺にはもったいないぐらい……」


「神楽さんって自己評価低いですよね……いい所いっぱいあるのに……」


弁当を食べ終わり、真夏さんに弁当箱を返したのだが……。


ひとつ気になってることがある。それは真夏さんが呟いた言葉だ。


(俺のいい所か……)


そんなことを考えていると真夏さんに車椅子が押されていた。


「どこに行くんですか?」


「前言ってた通り私たちの家です。そこで私たちが神楽さんをお世話しますから、大丈夫です、許可は取りましたので」


「え、誰に?」


「両親と神楽さんの両親です!」


いつの間に繋がってたんだと思ったが、思い当たるとしたら昨日父さんが病院に来た時ぐらいである。


もう両方に許可があるのなら俺は真夏さんに甘えるのがいいだろう。


「早く行くよ真夏ー!」


「お姉ちゃんが来たので早く行きましょう、神楽さん」


夕凪姉妹に車椅子を押してもらっていると、奏介は寝てしまっていた。


「神楽さん寝ちゃったね、どうする? お姉ちゃん」


「まぁ車椅子に座ってる状態だし、このまま家に入って私たちの部屋で寝かせておこうか」


私たちは神楽さんを部屋の中に入れて、そのまま寝かせておいた。

そして神楽さんが寝ている間に私たちは着替えて、神楽さんの両親から受け取った荷物を部屋に運んでいた。


「神楽さんの親御さんが優しい人で良かったな〜少なくとも神楽さんの怪我が治るまでは私たちがお世話するよ」


「もちろんっ!」


そんな感じで奏介の知らない間にしばらく夕凪姉妹の家で過ごすことが決まった。


陰キャの奏介と学園1の美少女双子の真夏と真冬。事故から庇ったことから始まるこの生活、一体どうなることだろう。

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