第2話
朝起きると、机の上にお見舞い品だと思われる袋とがあったのでその中を開けるとどら焼きが入っていた。
「奏介、起きたか。体の調子はどう?」
「父さん……ええと身体の痛みは引かないけど、日常生活に支障は出ないと思う。自分でご飯を食べることもできるし」
「そういえばさっきこの部屋から双子が出てきたけど何か知ってる?」
双子と言えば真夏さんと真冬さんの二人しかいないだろう。
出てきたということは俺の病室まで来てお見舞してから学園に向かったということになる。
「俺が庇った人とその子の姉だと思う。それだったらここの部屋にいてもおかしくないでしょ?」
「まぁそうだね」
「それと、その子たちが俺の事をお世話したいっていってて、恐らく退院後はその子の家に行くことになると思うんだけど、どう思う?」
「どう思うって、それは奏介次第だね。奏介が行きたいのなら止めはしないよ」
2人の好意を無下にするわけにもいかないので、親が行っていいと言うのなら俺は迷いなく「行く」と言った。
「そうか。くれぐれも迷惑をかけないようにな」
「絶対かけないし、そもそもこの身体で迷惑なんてかけれないって」
父さんは少し笑みを浮かべた後にこの病室を去っていった。
ひとつ気になるとしたら、夕凪さんたちの家でお世話されるということは当たり前だが、この病院から出るということなので許可はあるのかと気になったので担当医師の濱田さんを呼んだ。
「神楽さん、何か用事でも?」
「そんなに重要じゃないんですけど、夕凪さん達が俺をお世話するために家に連れていくってことは知っていますか?」
「もちろん知っていますよ。あの二方は私たちと
元々そこの心配はしていないのだが、濱田さんの言葉を聞いてより安心できた。
「明日は車椅子の状態で学園に行くんですよね? その車椅子は一応電動なのですが恐らくあの御二方が押すために明日の朝ここに来ると思いますね」
「えっ……わかりました」
濱田さんは他の医師の人に呼ばれたので病室を出ていった。
俺の車椅子を押すのが2人のどっちかになるというのは非常にまずい状況だ。
必ずほかの男子からの視線が痛いし、なんなら学園に行く途中でも視線をずっと向けられるだろう。なぜなら押しているのは学園1の美少女なのだから。
「いやぁそうなったらちょっと誤解を解くのが面倒くさそうだけど、一人で行こうとしても必ず拒否されるんだろうなぁ」
俺は一人しかいないこの病室でそのようなことを呟いていた。
とりあえず父さんが持ってきてくれたどら焼きを食べながら考えを整理することにした。
明日いろんな人から視線を向けられないためにできることは何かあるだろうか?
フードを被って顔を隠したりしても、クラスに入って席に着くとバレてしまうので意味が無い。
その他にも色々思いついたが結局いつかはバレてしまう結果の考えしかなかったので俺はもう諦めて視線を受け止めることしかできない。
「真夏さんが一応隣の席だから色々フォローしてくれたら嬉しいけど……まぁ俺の問題だし俺だけで解決しなきゃな」
しばらくして昼食が運ばれてきたので、俺はそれを直ぐに食べて個人的に勉強をしていた。
「前も勉強しかしなかった時があるのにこんなんじゃあの時の二の舞になりそうだなぁ……」
それから黙々と自習をしていると、病室の扉が開いて何枚かの紙を持って真夏さんの姿が見えた。
「神楽さん、これ今日の宿題です。担当の人から既に聞いているかもしれませんが、明日は私が車椅子を押すことになっているので」
「それじゃあ明日はよろしくね。あと宿題を届けてくれてありがとう」
「感謝されるほどのことでは無いですよ。私たちの方がもっと感謝したぐらいです」
「真夏さんが無事だったってだけで十分だよ。俺なんかが誰かの役に立てたってだけで満足だから」
地味な男の俺が怪我するだけで学園1の美少女を守れたのならそれでいいのだ。
俺がそう言うと真夏さんがプクーと頬をふくらませていて、少し怒っているようにも見える。
「なんかじゃありません! 自分の身を
「俺が居なくなるのと真夏さんが居なくなるので比べたらクラスの奴らは真夏さんが居なくなった方が悲しむ。そういうことだよ」
真夏さんは理解していなさそうだったが、そういうことはそういうことなのだ。それ以下でもそれ以上でもない。
俺が持ってきてくれた宿題を始めると同時に2人は病室から出ていった。
「はぁ……俺はなんでいつも他人の言葉を突き飛ばして、自分を
それは自分考えても分からなかったので、とりあえず宿題を終わらせた。
それからしばらくすると夕食が運ばれてきたので、それをさっさと食べて今日は早めに眠りについた。
(本当にどうなるんだろうなぁ……明日。男子からの視線は必ずあるだろうし、いろんな人から話しかけられそうだ……)
正直俺はそれを望んでいなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます