第26話 まさかの先客

…というわけで、悪辣あくらつな奴隷商人から金品をごっそりいただくため、宿屋へと侵入。みな寝静まっているらしく、物音ひとつしない。


「『栄光の手』ってすごいんだなぁ…」

僕は思わず感心してしまった。


「さて…と。アストラ、これを見ろ。この館の見取り図だ。富豪商人のいるところはここだ」


チャラガが訝しげに口をはさんだ。

「こわっ!なんでアンタそんな情報持ってんのよ!」


やはりリブロは警戒の目を全く意にも介さずに軽快に返答した。

「下準備は重要だ。特に命運を左右するときはな。それが極意でぃ」


—————だからなんの江戸っ子口調


僕たちは富豪の宿泊部屋に直行した。

みな眠りこけているとはいえ、扉もそっと開けなくてはならない。

取っ手に手をやると…


「んっ、閉まってる」


「そりゃそうか…」


「何を残念がっている?俺に任せろ」


リブロは鞄から鍵を取り出した。

僕はまた新しい道具かと思い、尋ねた。


「お次はなんだい」


「ん~?これは合鍵」


「へぇっ?!」


「言っただろ、下準備は重要って」


扉が開いた。


「リブロのこと絶対敵に回したくないわ~」

チャラガは辟易へきえきしていた。


ベッドには、巨大な類人猿みたいなやつが鎮座していたので、見つからないようにそっと金庫へと近づく。


……………ちょっと待て


「あがっ!やべぇ!なんだあの化け物は!」

リブロが狼狽ろうばいし出した。


キョトン顔のチャラガ

「商人のおっさんじゃないの?」


「なわけあるか!あんな馬鹿でけぇの!」


「リブロ、ありゃなんだ?」


「俺の嫌な勘が正しければ、ありゃ噂のグレンデナイだ!」


—————あれが噂のグレンデナイ!!!


「あいつはムジャデフ帝国でも歯が立たないくらい厄介な敵なんだ。クエストは中止だ、ずらかるぞ!」


「厄介って?!どう厄介なの?!」


リブロは早口で答えた。

オツムはそう賢くないが、人をビリビリとちぎるくらいの腕力の強さと俊敏さを兼ね備えているんだ」


「ふ~ん。じゃ、なんとかなりそうかもね」


「おいっ、倒そうとかするなよ」


「もちろんんだけど、目の前に来られちゃあねぇ」


なんとグレンデナイはとっくに目の前にまで近づき、口からヨダレを垂らして牙を剥き出して笑っていた。

全身毛むくじゃらでチンパンジーのようだが、ツラは極めて人間に近く、それがさらにおぞましさの増強に一役買っている。


「どぅわぁぁぁぁぁぁ!!!逃げろ!!!!」


廊下への道はグレンデナイに塞がれているので、あてもなく部屋の通路を走る。いくら広いといっても、グレンデナイを振り切るほどの広さや複雑さはない。


「おい、3階だが窓から飛び降りるぞ!」


「ふええええ~っ!死んじゃうよぉ~!アタシ高所恐怖症!」


—————恐怖症多いな!


グレンデナイは何かをこちらに向かって投げつけてきた!


その何かは近くの棚に勢いよく突き刺さった。

僕らは全員身軽なので難なく避けたものの、投げられたものに恐れおののいた。


太った人間の腕だったのだ。


「あ~なるほどね…あのでっけェサル、富豪食っちゃった感じだ…」


「ひいいいぃぃぃぃ!!!死ぬる!!!!!!!!!」


いよいよ窓際まで追い詰められた。

窓から脱出ってのも高所恐怖症のチャラガに強いるのも可哀想だ。


ってことは!

ここでグレンデナイこいつをやっちまうしかないな!

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