第25話 実践!かんたん作業!

夜も更けた。正直眠い。

『かんたん作業』の集合時間は、謎に深夜だった。


富豪相手の仕事ということだったが、こんな深夜に富豪は起きているのだろうか。それとも本人は姿を現さず、お手伝いさんとやりとりするだけなのだろうか。


僕とリブロとチャラガの3人は、チルドコリンの町へと到着すると、ツンフトのスパイみたいな奴によって裏口から合言葉一つでいとも簡単に町へ入ることができた。


「リブロ、そういや『かんたん作業』って具体的に何するの?」


リブロが今更かいという感じで答えた。

「『かんたん』っつったら『かんたん』だろ。宿屋の富豪から金品パクるんだよ」


僕とチャラガは驚愕した。

「「いっっっっっ?!!?」」


なんと、かんたん作業こと邯鄲師かんたんしの仕事とは、宿屋に宿泊した旅人などから金品を窃盗することだったのだ。


僕は慌てた。何がツンフトじゃい、闇バイト市場がよぉ!!

「でぇっ?!それってもろに犯罪じゃないか!!」


するとリブロはクールに答えた。

「アストラ、確かにこの世には法律がある。でも法律が正しいとは限らない。例えばこの国では『奴隷』が合法だ。おかしくないか?人の意思を無視して売買ができるなんて誰がどう考えてもおかしいハズなのに、この帝国ではそれがまかり通っているんだ」


「………それはそうだけど………今回の宿屋泥棒とは関係ないじゃないか」


「それが大有りのこんこんちきなんでぃ」


—————なんでいきなり江戸っ子口調—————

こういう口調ってサキワフこの世界のどこで生まれるんだろうか?


リブロは続けた。

「これから俺らがカンタンするのはその奴隷商人なのさ。しかも俺の同胞—————アフタマズデリア人たちを奴隷として扱っている。だから俺はなんの罪悪感もないね」


「そうなんだ。確かリブロはこの町のギルドも利用できないんだったね」


「そうさ、人種差別でな。いつかこんな世界のルールは変えてやるんだ。俺がルールになってやる」


—————なんかリブロもどこか一言、変なんだよな…。


そんなこんな話して、奴隷商人の富豪が泊まる高級宿に辿り着いた。

さすがに高級宿というだけあって、外の小屋で寝ずの門番が目を光らせている。

正面突破なんてもっての外だ。


チャラガが不安そうに聞いてきた。

「ね~ね~、どうするの?アタシこれで犯罪者になったら踊り子愛取あいどるから一気に泥棒猫に転落劇なんですけど」


リブロが答えた。

「なぁに、俺らは強盗するんじゃねえ。さっと忍び込んで頂戴するだけさ。穏便に済ますんだ。その根拠がコレさ」


リブロが何やら道具を鞄から出した。


チャラガが口を押さえながらもギョッとしている。

「ぎえっ?!」


「リブロ、なんだいそれは…」


リブロの右手には左手が握られていた。

—————おっと失礼、分かりにくかったかな。リブロの右手には、切断された誰かの左手が握られていたのだ。


リブロは悪びれもせずにこの道具(?)の説明を始めた。

「これはな、『栄光の手』という道具だ。死刑囚の手を切断して蝋燭にしたものだ」


チャラガ、めっちゃ嫌な顔をする・

「うへぇ~ん…キモい~」


僕もついでに涙目だ。

「なんでそんなことするん…?」


「コイツを灯すとな、屋敷の人間たちが爆睡するんだ。その隙に金目のモンを頂戴しようってワケよ」


「ほーん。魔道具なのね」


「そやねんそやねん、では点火」


—————僕はリブロのキャラが一向に掴めない。なんだ「そやねん」って。


栄光の手に火が灯された!


チャラガが鼻をつまむ。

「アッ、くっさ!」


—————確かに臭い。腐った魚みたいな臭いがキツい。


灯してから5分ほどで、門番が倒れた。

眠気に襲われ、そのまま寝入ってしまったのだ。


「すっげえ!すぐ効果出たじゃん」


「だろ~?じゃ、さっさとカンタンしてクエストを完結させようぜ」

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