第15話 初心者にやさしい言霊ラップ講座

そして、夜が明けた。


森では、夜行性の魔物の方が格段に危険なので、ヤツらの活動が落ち着くのを待って、隣国へ繋がる森を抜けなくてはならない。


しかし、ここ最近人型の魔物がこの付近に現れるという噂を、ウーダオ・クランのみんなは行商から聞いたらしい。しかも、その「人型」がまたデカいらしい。デケぇ魔物しかいねえのか…マジで………。


チョスリが言った。

「この森の主は太古の魔女なんですって。グレンデナイという巨人の息子がいて、そいつが最近人喰って暴れまわってるらしいわ。でもこっちには菊紋の戦士がいるからへっちゃらね!!!」


「あの、その呼び方なんかめちゃくちゃハズいんでやめてほしいんですけど…」


「ええ?!なんで?!こんな名誉ある称号なのに?!」



*     *     *



さて、森を抜けながらお姉さんたちと楽しく会話していて、みんながラップについて尋ねてきた。


チャラガが聞いてきた。

「さっきアストラが言ってたその“韻を踏む”っていうのがよくわからないなあ」


「ああ…そんなに難しく考えなくてもいいんだ。『文章の終わりの音を似せる』っていうだけなんだ。例えば、『チャラガ』と『バナナ』では韻を踏めているんだ。」


「他にもっと良い例えなかったん?」


「チャラガも考えてみて!」


チャラガはうむむ…と考え込んだ。


踊り子の1人ユーリが口をはさんできた。

「チャラガ、あんたいっつもゴミ寒いダジャレ言いまくってるじゃん、あれでいいんじゃないの」


僕も付け加えた。

「そうそう、ダジャレみたいな感じでいいんだよ。しかもダジャレよりチョイスは簡単なんだ」


チャラガとユーリが僕をじーっと見つめてきた。


ユーリがいぶかしげにつぶやいた。

「なんかさ~、あんたちょくちょく古代語挟んでくるよね」


「こ、古代語…?」


「ラップとかバナナとかチョイスとか…教養見せつけてる感じ??あ~!そっか~!貴族に多い横文字系か~!!!」


—————ハツ…そうだった。この世界は英語が「失われし古代言語」として存在している世界だったのだ。その名も韻繰詩語いんぐりしご。神に記憶メモリ復元リストアされてからもう英語と韻繰詩語がリミックスされて僕自身も混乱コンフュージョンしている。全く、ブッシュからスティックストーリーだ。


「あ…これは前世の地球で……」

と言いかけたところで、また脳の異常を疑われそうなので咳払いして誤魔化した。

「とにかく、母音を合わせればそれで成立するんだ」


「はい、出た~!貴族マウント~!古代語の母音とか言ってくる奴~!」


—————そ、そうか…「母音」という概念も「英語」からの発想だからそういうことになっちゃうのか…前世、日本人で当たり前だったことがここでは高い教養ハイブロー扱いになっちゃうんだねぇ…。


僕は素直に謝った。

「みんな、学がないのにごめんね。」


「「………ッ!!!」」


—————しまった。ナチュラル失礼だった。

「とにかく、細かいことを考えていてもダメなんだ。実践あるのみだ。似た音の言葉を探してみて」


チャラガが自信なさげに聞いてきた。

「例えば、『乳房』と『戦』とか?」


「そうそう、そんな感じ!」


ユーリも乗ってくる。

「『おっぱい』と『俗界ぞっかい』もそうか!」


「おっ!いいね!」


チャラガがさらに一声。

「じゃあこれは?『乳首』と『御籤みくじ』!!!」


「なんで下ネタ!なんで全部下ネタ!!学がないなぁ!!!」


「「………ッ!!!」」

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