第14話 魔王と勇者の伝承

踊り子一行の言うことには、さっきの青い顔の巨人は閻魔羅闍ヤマラージャという名の冥界の王だそうだ。

そう簡単に召喚できるような神ではないとのことだ。


「あんた一体何者なの!?怖いんだけど!!!本当に国家転覆狙ってたんじゃないの?!」

チョスリに詰問きつもんされる。


僕は慌てて答えた。

「ちょっと待ってください!!僕がそんなことするように見えますか!?」


「見えないから逆に怖いのよ!!!!!実際できそうだしね!??!」


そこにおっとりソフォンが割って入ってきた。

「お姉さま、でもこの子、先ほど菊紋が光っていましたから、聖なる者であることは間違いないわ!」


「き…菊紋ですって?!」


また踊り子たちがズボンを引きずり降ろしにかかる。


「ワ…!ワ……!」


僕は咄嗟とっさに、さすがに前の方はキープした。


「こ、これは…!」


お姉さんたちがまじまじと僕のケツを眺める。


「あ…あの…恥ずかしいんですが」


チョスリがチャラガをひっつかまえ、こちらに引きずってくる。


「アーッ!チョスリぃぃぃやめてぇぇぇ」


チャラガの必死の訴えむなしく、チョスリは尻をひんいた。


「お、同じ紋章が…!!!」


どうやら、僕とチャラガの尻には“菊紋”と呼ばれる聖痕が刻まれているようだ。


「ついに…ついにこの日が来たようね!!!」



*     *     *



隣国へ向かっていた踊り子一行だったが、さっきの一戦で馬も疲弊して、夜も更けてきたので、今日は森の片隅で野宿ということになった。


護身の魔術を習得したメンバーが代わりばんこで見張りをしつつ夜を過ごすとのことだ。


焚き木の前でチョスリとソフォンは踊り子の一族に伝わる伝承と、世の中で蠢動しゅんどうし始めた魔王軍について語り始めた。


「私たちは、吟遊四神ぎんゆうしじん一柱ひとはしら、ソラソバ帝を代々崇め讃えてきた舞踏一族なの。初代舞踏師が授かった預言に、彼女の死後数百年後に、魔王が現われ、平和を脅かすとあるわ。」


「ま、魔王…」


僕は生唾を飲んだ。


「そう!魔王。初代舞踏師は伝説の勇者や仲間とともに魔王国を破り、その魂を地底奥深くに幽閉した。そして、その配下も、地上に残るものは平和協定を人間と結んだのよ。」


チョスリは深刻そうに続けた。


「でも、今の世の中に流れている噂が本当だとすると、魔王側が何らかの形で幽閉を解除し、また、その配下たちも協定を一方的に破ったようだわ。そして、世の中が混沌に陥った時…」


—————聞きたくない!なんかすごい嫌なこと言う予感がする!


「菊紋を持つ選ばれし者たちが現われると預言にあるの!!!」


「ほらぁぁぁぁぁぁ!!!」

僕は思わず嘆きの声を上げてしまった。

「アッ…すみません、なんでもないです…」


「それがあなたたち2人なの!!」


「でしょおぉぉぉぉ!!!」

僕は思わず二度目の嘆きの声を上げてしまった。


—————絶対嫌なんだけど!ジェア神、だましてくれたなアアアアア!!

魔王討伐とか死ぬかもしれないじゃん!!!


「あなたたちは、これから伝説の勇者と合流し、魔王軍を討ち破らねばならないのよ…!!」


—————あああ!早く地球帰りてぇ!!!俺のメジャーデビューぅあああああ!!!!


チャラガが僕の手を握ってきた。

「アストラ、頑張ろうね…!」


何でちょっとやる気なんだよ!

そんで可愛いなぁ!!無駄に!!!


こうして、僕の自由気ままなサキワフの世界旅は、魔王討伐の冒険へと変貌してしまったのであった。

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