第13話 ワイヴァーン、来襲

ワイヴァーンが僕らの馬車へと、一直線に突撃してくる。

前脚と翼が同化していて、滑空かっくうに適した体つき。

………速い!


『キシャァアアァァアアァァアアァアアアァァアアァアァァッ!!!』


右手は口元に、左手はかたきに向ける!

僕は韻詩ヴァースをワイヴァーンにぶつける。


〽「ワイヴァーン、お前を『抑留よくりゅう

身動き取らせねえ、ここでほふる」


天空より雷が一筋、ワイヴァーンへと直撃!

地面に叩きつけられた。


『ギッシャァ!!!』


しかし、その雷は奇妙だった。

青と赤二色を帯びて発光していたのだ。


ソフォンが驚嘆きょうたんの声を上げる。

「こ…これは…!二重呪術ダボレンタンドラ!!」


チャラガが尋ねる

「な、なにそれは!?」


ソフォンが答える。

「魔法一撃に二種類の効果を混ぜ合わせる上級スキルよ…!」


—————そ、そうなんだ!

僕自身がその“ダボなんちゃら”を知らなかったけど、今のはワイヴァーンが「翼竜」であることと「抑留」という単語を、洒落でひっかけた掛詞かけことばだったんだ。


一言でふたつ、みっつの意味をラップに持たせるの、前世で好きだったんだよなぁ!!!


〽「ワイヴァーン、

ここでお前の裁判

速攻 強制送還 あの世へガイダンス」


辺りに稲妻を帯びた暗雲が立ち込める。

雲が渦のようだ。


『ヴァァアァアァア!!!』


ワイヴァーンが鋭い炎を吹き始めた。

しかし、言霊の力でワイヴァーンにのみ強力な重力が働いているようで、移動できないため、炎はこちらに届かない。


そこでワイヴァーンは大きく息を吸い込んだ。


—————まずい!息に“助走”がついたら、遠距離からもこちらに届いてしまう!

速くトドメを刺さなくては!!!


脳裏で僕は状況把握と韻踏みの両方を同時に行なわなくてはならなかった。

しかし、それは意外と苦ではなかった。

あたかも、自分の中に2つの思考があるように頭は冴えていた。


〽「文句言わせねェ、片言折獄へんげんせつごく

煉獄れんごく と 接合

去れ 鉄格子へ


以上だぜ現場から

後は任せるぜ、閻魔様」


ここまで編んだところで、異変は起きた。

一瞬、世界から音が消えたように何も聞こえなくなり、そして視界が暗転した。


—————!??!なんだ??!


そして、目の前に巨大な炎の塊が出現したのだった。


—————やべぇ!ワイヴァーンの炎に追い付かれたか??!


しかし、次の瞬間、一同は目を疑った。


目の前の空間に時空の裂け目が現われ、ちょっと前に討伐したゴーレムとは比べ物にならないほど巨大な、真っ青な顔の巨人がこちらを見下していたのだ。


—————前世、修学旅行で見た牛久大仏よりでけぇゾ………。


踊り子勢が一斉にひれ伏した。

僕は恐怖で足がすくんだ。


何が起こったかわからなかったが、目の前にいるのは悪魔や化け物ではなく、極めて高貴な、異界の王であることは直感で悟った。


—————僕は、内心チビりそうだった。お尻の穴がヒュンッてなった。


「ひょっとしてですが、え…閻魔様でしょうか………」


—————僕が呼んじゃった感じですかね…??


真っ青な顔の巨大な王は何も答えず、絶叫するワイヴァーンを片手で握りしめると、空間のひずみを閉じ、やがて漆黒の闇はその空間の裂け目の中に吸い込まれ、閉じた。


そして気づくと、何もなかったかのように、青空が広がっていた。


僕は、立ったまま数分気絶していたらしい。

やっと我に返ると踊り子一行もまた皆、茫然自失ぼうぜんじしつとしていた。


チョスリがやっとのことで口を開いた。

「あんたやっぱやべーやつじゃん」

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