第26話 ヒトリ
今日の放課後は独りだった。
部室に麗奈は来なかった。
別に毎日出席しないといけないわけではない。
彼女にだって、彼女の友達グループがあるのだ。
陽キャだからカラオケかゲーセン、ショップにでも行っているのだろう。
私は陰キャだから、独りむなしく部室で読書。
別に気にすることはない。
元々そういうもの。
誰かと喋るために部活動しているわけではない。
ただ、ここ最近は麗奈と喋っていたから、独りで読書することに違和感があるだけ。
今、読んでるのは図書館で借りた二葉亭四迷の小説『浮雲』。古い小説だ。
なぜこの小説を選んだのかというと、たまたま目に留まったからだ。
この小説は3日前から読んでいて、もう読み終わるところ。
ストーリーは嫌な方へと転がっている。
坂を転がる石のごとく。
可哀想で情けない主人公。
従姉妹も最初は味方だったのに、徐々にというか明らかに主人公の敵側になっている。
転がった石は自らでは坂を登れないように留まり、そして周りからの援助を必要とする。
この後、主人公はどうなるのか。
それは不明。
物語は中途半端に終わった。
「なんだこれは」
私は独りごちた。
息を口からめいいっぱいに吸い、そして音を立てて吐く。
すごくもやもやしたものがお
私は文庫本をカバンに入れて、スマホで時間を確認する。
時刻はそろそろ下校時間という頃だった。
今日はもう帰ろうかとカバンを持って、席を立つ。
部室を出る前に窓に寄り、外を見る。
人がいる街並みが見える。
あそこにはどれくらいの人がいるのか。
幸福の人は何人?
不幸な人は何人?
思い通りに生きている人は何人?
分からない。
分からないけど、そこには人がいる。
人がいる街。
私の住む家は視界に見える街から離れた住宅街にある。
当然ながら家には人が住んでいる。
ただ、いつも住人がいるわけではない。
そして帰りたいと思いたくない人もいる。
色んな人がいる。
この世の中には色んな人が。
私はその有象無象の1人。
息を吐くと、窓ガラスが曇った。
「帰ろう」
私はわざわざ言葉にして帰宅の意志を強める。
踵を返し、ドアに向かう。
明日、麗奈は来るだろうか。
もしかしたら、もう部室には来ないのかもしれない。
ここに来るという絶対的確証はない。
麗奈がここに来るのは天文に関することのため。
もしここに来る必要性がなくなれば麗奈は来ないだろう。
そうなれば部室には私が独りになる。
「なんか嫌だな」
ドアを開ける前に私は独りごちる。そしてドアを閉めて鍵をかける。
かちゃりという音が嫌に響いた。
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