第24話 検索

 私はスマホ操作をやめて、スマホを机に置いた。

 息を吐いて、肩を回す。そして後ろ首を揉む。

「また何か調べ物してたの? すごい顔してたよ」

 一条が文庫本を机に置いて聞いてきた。

「ああ、ごめん。邪魔しちゃった?」

「別にそんなことはないけど、どうしたの?」

「本のタイトルが思い出せなくて調べてたの?」

「本の?」

 私は調べることとなった経緯いきさつを話し始めた。

「……なるほどね。それで調べ始めたんだ。でも、それなら私に言ってよ。私、文芸部だよ」

「ホントだ!」

 失念していた。一条は文芸部だった。

「で、どういう本を調べてたの?」

「ええと、中学の時に全国テストで問題として読んだやつでね。主人公は年配の男で、毎朝洗面所で顔を洗いに行くと窓から隣の庭が見えるの。その庭には中学生の子供が書いた男の絵があるんだけど、主人公は気味悪がっているの。奥さんは『そんなに気になるなら隣に少し退けてもらうよう頼めばいいじゃない』と言うの。でも主人公は『大の大人が絵が怖いから退けてくれと頼むのも恥ずかしい』と言うの」

「それで?」

「その後、主人公が夕方の帰り道で隣の男の子に会うの。それで声をかけて、良い絵だけど少し退けてくれないかと頼むの。でも、男の子は無視して歩き始めるの。それを主人公は呼び止めるんだけど、男の子にぽつりと暴言を吐かれるの。そういう小説」

 私はストーリーを語り合えた。

 一条は目を閉じて考え込む。

「どう? この小説のタイトルわかる?」

 考え込んでいる時点で望み薄なのは明白だった。

「ごめん。わからない」

 だろうね。

 残念だ。

「でもどうして内容はほとんど覚えているのにタイトルは知らないの?」

「テストだもん。読み解くために文章をちゃんと読み込んだ。けど、タイトルは覚えてないよ」

「ううん? 中学の全国テストってことは私も読んだことあるのかな?」

「そうじゃない? 思い出せない?」

「内容聞いても全然思い出せない」

「それじゃあ、全国テストじゃないのかな? 校内の実力テストかな?」

「中学というのは合ってるの?」

「それは合ってるはず」

「検索してヒットなし」

「全然! もう違うやつばっか!」

 ネットで『小説』、『隣の庭』、『男の絵』、『中学生』のワードで検索したらストーリーが『近隣トラブル』や『絵画』に関する、違う小説ばかり。

 中には検索ワードに『小説』と入れているのに絵画教室や近隣トラブルに関する法律のサイトがヒットしたりする。

 その他にも色々なワード検索してもヒットはしなかった。

「ううん。難しい。私も本を読んでる子に聞いてみるよ」

「うん。お願い」



  ◇◇◇


 作者より読者の皆様へ、本エピソードは実際の話をベースにしており、作中内の小説のタイトルが本当に分かりません。もし知っておられましたら、ぜひお教えくださいませ。

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