第20話 旅行

 放課後、私が部室中央に並べられた席につくと、先に部室に着いていた一条がカバンから小さなおみやげのお菓子を机に置いた。

「連休で旅行に行ってきたの」

 そう言って一条はラッピングされた紙を解こうとする。が、途中から面倒臭くなったのか紙を破いて、中の白箱を取り出す。

 そして箱の蓋を開ける。中身はラッピングのイラストに描かれていたのと同じクッキーで個包装されていた。

「どうぞ」

「ありがと」

 私は透明の個包装からクッキーを取り出す。平べったいクッキーには観光名所の名前が焼き印されていた。

 味は……まあ、美味しいかな?

「楽しかった?」

 私は味を聞かれる前に旅行について聞いた。

「疲れた」

 思わぬ感想に私は驚く。

「え? 疲れた?」

「うん。車での旅行でね。しんどかった」

「楽しくはないの?」

「そりゃあ、景色は良かったよ」

 一条はスマホで撮った写真を私に見せる。

「温泉とか入らなかったの?」

「入ったよ。まあ、気持ち良かったよ」

「美味しいご飯食べなかったの?」

「ビュフェだった。味というか量」

 一条は肩を竦めて答える。

「あとは……何かあった?」

「特に。観光名所まわって終わり」

「観光名所って、パワースポット巡り?」

「ううん。ただの寺社仏閣」

「なんか面白いことあった?」

「えーとね、神社だと思ったら寺でさ。参拝の仕方間違えたよ」

「参拝の仕方?」

「神社は二礼二拍手一礼なんだよ。お寺は……なんだっけ? ごめん、忘れた」

「まあ、いいよ。というか神社と寺の違いってなんだ? 神様が神社で、大仏様が寺だっけ?」

「そうだよ。それであってる」

「でも、どうして寺社仏閣? テーマパークとかにすればいいのに。その方が楽しめない?」

「それがうちの妹が寺社仏閣にハマっててさ。勝手に旅行プラン決めちゃったの」

 と言って一条は溜め息をつく。

「妹が?」

 親ではなく妹だった。寺社仏閣にハマる若い子とは珍しい。

「そうなの。妹が勝手に決めてさ。しかも具体的にどこへ行くとか当日まで言わないしさ。宿泊地は言ってるんだけど、観光地は何も言わないの。そのため現地であっちへこっちへうろうろ」

 一条はくうに人差し指で指揮棒のように振るう。

「しまいには参拝時間過ぎててさ。16時30分までだったの。びっくりよ。妹、いわく1番行きたかったとこらしいの。なら、早めに行けよって感じ。メインを後にしたからプランがパーよ」

「ご愁傷様ね」

「本当、疲れた。家でゴロゴロしてる方が楽だったわ。麗奈は連休にどこか出かけた?」

「いいえ。家にいたわ」

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