星海麗奈(3)
第19話 異常
ここ最近、喋り過ぎたと思う。
私と一条の関係はあくまで同じ部室を使う仲であったはず。
それが今や放課後はお互いに愚痴を語り合ったりしている。
別に仲が良いに越したことはない。
けど教室では私達は会話をしない。友達グループも違う。趣味や嗜好、スタイルも違う。
それが今や放課後の部室ではこうしてあれこれと語り合う仲となっている。
そのため少し歪な関係に戸惑う時がある。
ここは軌道修正でもすべきだろうか。
もしするとしたらそれはどういうことか。
以前のような関係。それは会話のない関係で無口を貫くのか。
話しかけられても知らんぷりを通すとか。
けどそれだと嫌われるのではないだろうか。
もちろん、結果としてはそれが正しいだろう。
でも、私は嫌われることを好まない。
だから無口を貫くのはなしだ。
ならばどうすべきか?
(困った)
「最近、パソコン使ってないけどいいの?」
考え込んでいると一条から声をかけられた。
「え? ああ、うん。今はいいの。もしかして天文に興味ある?」
「ううん。ない」
そう言って一条は文庫本に目を下ろす。
今、一条が読んでいるのは江戸川乱歩傑作選というタイトルの本だった。
私でも知っている作家。けれど名前だけで作品は読んだことがない。
「それ面白い?」
「全然」
意外な解答を言われて私は驚いた。有名な作家なのだから面白いと答えが返ってくると想定していたから。
「なんていうか気持ち悪い」
一条は眉根を寄せて言う。
その表情から本当に気持ちが悪いことが察せられる。
「どうして? 猟奇殺人とか? かわいそうな事件とか? 胸糞悪い結末とか?」
「ええとね、なんて言うんだろ。普通ではないみたいな……性癖というか、歪な人間性みたいな」
一条が悩みながら答える。
「例えば『D坂』だけど……」
「だけど?」
「作中では2人が推理するの。片一方が読者側で普通の推理なの。読んでる側も納得するような。で、もう1人が人の証言は当てにならないとかで、証言を無視して推理するの。最後は人の証言を無視した方が正解という話」
「何それ。証言無視って、人が嘘ついているってこと?」
「作中では人の記憶なんて曖昧で当てにはならないって」
「えー!?」
「あと『人間椅子』とか『二銭銅貨』、『芋虫』も後味がね」
人間椅子は知っている。有名な話。椅子の中に人が隠れるという変態の話だ。
「芋虫って、どんな話?」
「戦争で両手両足を無くした夫が──」
一条が語ってくれた内容は衝撃ではあったが、好むような話ではなかった。
「発想がやばいよね。よくもまあ、そんな話が作れたものだよ」
「うん。だから人にはあまりおすすめできないかも」
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