第14話 遅刻

 放課後、今日の麗奈はいつもより遅く部室にやって来た。

 そしていつもと違い、部室隅のパソコンに向かわず、中央に並べられた席にドカリと座る。

 機嫌が悪いことが目に見えて分かる。

「ちょっと聞いてよ!」

 座るや否や私に話しかけてきた。

「何?」

 私は文庫本を閉じて、麗奈に視線を合わせる。

「電車側のせいで遅刻したのにものすごく怒られたんだけど」

「そういえば今朝、そんなこと言ってたね」

 麗奈は朝のホームルームには参加せず1時間目の授業中に入室した。

 そして休み時間にグループの子や周りに電車のせいで遅刻したと愚痴っていた。

「仕方ないことなのに。本当、最悪」

 そう言って麗奈は溜め息をつく。

「向こうの言い分もおかしいのよ。事故を想定してもっと早めに家を出ろって。無理よ。そんなの」

 麗奈は苛立ちげに言う。

 その気持ちは分からなくもない。事故を想定してと言われても難しい話だ。

「でも、麗奈だけだったよ。遅刻したの」

 そう。遅刻したのは麗奈だけだった。

「今日に限ってギリだったの。こういう時に限ってどうして……。教師は『お前がいつもギリギリに登校しているからだ』なんて言うのよ」

 なるほど。もしこれが大勢だったならば、致し方ないで済むが、少数だったため叱られてしまったのか。

「それは不幸だったね。部室に来るのも遅かったのは放課後に呼び出しくらったから?」

「そう。学年主任が今日の遅刻の件で話があるって」

「説教?」

「そんなとこ。途中から素行についてもあれこれ言われた」

「素行……ね」

 麗奈達はメイクをしているし、制服も着崩している。言動もやばいのもある。麗奈というより麗奈のグループが教師側から要注意扱いされているのだろう。

「でも成績は良いからそんなに怒られなかったでしょ?」

「そう。成績。お前は成績が良いからもっと真面目に人付き合いして、勉学に取り組みなさいだって。笑っちゃうわ。何様よ」

 それはいわゆる今の友達関係を見直せと言われているものだ。

 麗奈は両手で頬杖をつき、顔を挟む。

「めちゃくちゃ。もうめんどくさい。リセットボタン欲しい」

 リセットという言葉に私はドキリとする。

「リセットって、人生の?」

「違う。今日一日の」

 よかった。

 もし人生だったら重い話だったはず。

 前に麗奈は自殺をしようとしていた。そのことが頭をよぎる。

 もしかしたらその原因はやはり人間関係なのだろうか。

 麗奈は頬杖から机の上に腕を枕代わりに置き、額をのせる。

「遅刻さえなければ」

 呪いのように麗奈は呟く。

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