一条舞香(3)

第13話 大切なこと

「社会にとって大切なことは学力ではなく、他人ひとに好かれることよ」

 中間テストの勉強中に麗奈がシャーペンを置いて突如そんなことを言った。

「そんなこと言ってないで勉強」

「でも実際はそうじゃない?」

「そうであっても勉強」

「はいはい」

 麗奈は不服そうに勉強を再開する。

 今日はどちらが言ったわけでもないけど、中間テストの勉強をすることにした。

 しかし、麗奈はつまらなさそうだった。

 友人関係なら「ここが分からない。教えて」とかそういうのがあるのだが、私達の間にはない。

 いつか麗奈が根を上げて聞いてくると考えているが、今のところ文句は言うけど、勉強を教えてとは言ってこない。

 勉強は嫌いだけど、馬鹿ではないのかな?

 ノートはきちんと纏められているし。

 そういえばお互い成績について知らない。

 頭が良いのか。馬鹿なのか。

 得意科目、苦手科目。

 そういうのが全く。

(いけない)

 私の方が集中を欠いてしまったようだ。

 そして古文の出題範囲の勉強を一通り終え、

「やはり学力だけが大切ではないのよ」

「はいはい。それでも学生は勉強がお仕事だから」

「そもそも古文なんて社会の何の役に立つというのかしら?」

「価値無価値の話をしたらキリがないよ」

「でもさー」

 そう言って麗奈は頬杖をつく。

「ねえ? 麗奈って、成績はどうなの?」

「どうって、普通。中の上。一条は?」

「私は普通。席次も真ん中前後」

 まさかそこそこできるとは。

 見た目から遊んでばっかで馬鹿っぽいのに。

「意外?」

「……まあ、意外かな。勉強嫌とか言ってたし」

「すごいでしょ? 嫌いだけど頑張ってんのよ」

 麗奈は得意げに言う。だけどすぐに暗い影を顔に落とす。

「どうしたの?」

「……今のご時世って、成績良かったら自慢になるもんね」

「そうかな?」

 麗奈は溜め息をつき、「この話はやめよう」と切った。

 成績の件で何かあるのだろうか。

「麗奈のグループでは皆、成績悪いの?」

 言葉にして麗奈の話をむしり返したと気づいた。

 けれど麗奈は怒るわけでもなく、「ま、悪い方ね」と、明後日の方を見て言う。

「一条のグループは?」

「普通。同じくらいの点数かな」

「成績って大事だから勉強しないといけないのよね」

「うん。そうだね」

「その代わり人間関係に亀裂が生まれるのよね」

「そっちのグループは大変だね」

「……大変。……大変だよ。私は成績のことは口にしないの。ただ皆が大変なのを傍観するだけ。時折、『私達は大変』みたいな変な壁を見せつけてくるのよ。マジ疎外感」

 そして私達は次の科目の勉強を始める。

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