一条舞香(2)

第7話 読書感想文

 麗奈は激怒した。

「おかしくない? なんで今の子供は読書感想文がハリー◯ッターなのよ」

 私達もまだ高校生で子供みたいなものだけど、麗奈の言う子供とは小学生を指す。

「夏目漱石や芥川……作家名は忘れたけど十五少年漂流記読んどけよ!」

「まあまあ、近代文学なんてもう古典だもん。仕方ないよ」

 森鴎外の舞姫にいたっては古典というか古文だもん。

「だったら私達の時ももっと簡単な児童文学にしときなさいよ!」

「私に言われてもなー」

 さて、どうして麗奈がこうも憤慨しているのかというと、それは7時間目の現代社会の授業に戻る。

 授業では若者の読書離れについて語られ、その時に小学生時代の夏の読書感想文で読んだ図書(小説)について教師が生徒全員にアンケートをとった。

 結果、1位が「エルマーの冒険」、2位が「シャーロックホームズ」、3位が「時を◯ける少女」、4位が「不思議の国のアリス」、5位が「そして誰もいなくなった」であった。

 そして麗奈が入れた「十五少年漂流記」は一票。つまり麗奈しか読んでいないということ。しかも教師がわざわざワーストランキングを発表した。

 ここまではギリ、麗奈は許せたらしいが、今の子供達への夏の読書感想文用推薦図書が「ハリー◯ッター」と「ナルニア国物語」だと知り、憤慨したようだ。勿論、授業中に荒れることはしていない。ただ、沸々としたものを溜め込み、そして部室でいきなり爆発させた。

「ずるくない? 読みやすいやつじゃん」

 そして今に至る。

「でもファンタジーって中世のお城や架空の動物とか出てくるからイメージしにくいかも」

「そんなの映画見ればいいじゃん。ハリー◯ッターもナルニア国物語も映画化してるじゃん」

「まあ、そうね」

「しかも中学生でも十五少年漂流記を読んでないなんて。私が小学生の頃ですら十五少年漂流記かロビンソンクルーソーの2択だったのに」

「中学の時は?」

「中1の時は芥川の杜子春、中2は夏目漱石の坊ちゃん」

「3年は?」

「受験シーズンだからなし。普段は読解力鍛えるために小説を読めとか言っておきながら、受験になると娯楽の一つとして認識され、小説なんか読むななんて言うのよね。今の教育は矛盾だらけね」

 と、麗奈は憤慨する。

「わかる。ラノベは駄目っていうもんね」

「何? ラノベって?」

 嘘! 知らないの!?

「ライトノベル。略してラノベ。漫画が表紙の小説」

「ああ! 子供が読むやつ?」

「いや、オタクが読むやつ」

「なら娯楽小説じゃん」

「でも小説だよ。ケータイ小説よりかはしっかりしてるよ」

「ケータイ小説はリアルな繊細さがあるのよ」

「ラノベもあるよ。……全部ではないけど」

「一条はラノベ読むの?」

「まあ、女性向けのね。麗奈はケータイ小説とか読むの?」

「ちゃんと読んだことはない。チラッと読んだくらい」

 会話が終わり、麗奈は部室端の机に向かった。いつもの日課を始めるらしい。

 私は中央に並べられた机で今日の読書を始める。

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