第5話 宝石と都市伝説

 女の子だから宝石が好きというわけではない。

 勿論、子供の時はキラキラしたものが好きだった。

 おもちゃの宝石箱は宝物だった。

 でも小学校高学年に入った頃からキラキラ系は疎遠となった。

 子供っぽいから。

 第二次性徴期に入った私達は大人らしくコーデをし始めた。

 体は大きくなれど心は背伸びをしていた。

 だけど中学生の頃に家族で沖縄旅行に行った時、水族館に寄った。その水族館の売店でクリスタルが売られているのを私は見つけた。

 全く加工されてない、ただのクリスタル。

 綺麗でもなんでもない、ただ透明で、柱のように伸びた氷水みたいな存在。表面にはよく見ると薄い裂傷がある。

 普通ならば珍しいはあれど買いたいというほどでもないだろう。

 でもなぜかその時の私の心は掴まれた。

 それから私は宝石というものに再度興味を持ち、調べ始めた。そして隕石に突き当たったのだ。

 その後は言わずもがなだろう。


  ◯


「ねえ? 知ってる?」

 斜めに向かい合って座っている一条が話しかけてきた。

 私は雑誌から一条へと顔を上げる。

「天狗って、宇宙人かもしれないんだって!」

「へえ」

 一条が読んでいる本の背表紙を見る。

 ……都市伝説の本だった。

「なんでも古事記では天狗のことは彗星と指していたらしいんだよ」

「うん。知ってる」

「知ってたんだ……え? 知ってた?」

 一条がありえないくらい驚いた顔をする。

「都市伝説、つい最近、流行ってたじゃない」

「そうだっけ?」

「そうよ。マイチューブとかニパニパ動画で都市伝説や未確認生物の情報を配信する人もいるし」

 というか今でも時折、都市伝説の話をすることもある。

「なら天狗が宇宙人というのも知ってたの」

「それは初耳。私が知っているのは日ユ同祖論」

「それ知ってる。失われた十支族。その一つの子孫が日本人で、ユダヤ人とは祖先が同じもしくは近いってやつでしょ?」

「そうそう」

「祇園祭とか山伏装束がユダヤ人の文化に似てるんだよね。天狗もまた実はユダヤ人とも言われているとか」

「他にも……ヒッタイト人は知ってる?」

「世界史の授業で習ったよ。初めて製鉄を使った民族でしょ?」

 私は頷いた。

「実は隕石を使ってんだよ」

「隕石?」

「正確には隕鉄だけど。まあ、隕石だと認識して」

「それで隕石がなんなの?」

「当時は隕石から鉄を取ってたの。だから隕石を求めてヒッタイト人達は移動していたの。それで最後は日本に来たの」

「証拠はあるの?」

「羽衣伝説。日本の伝説だけど。これと似た伝説が世界各国にあるの」

「どういう伝説なの?」

「数羽の白鳥が湖に降り立つんだけど、実はその白鳥は天女が変身した姿で、白鳥達は天女の姿に戻り、羽衣を脱いで水浴びをするの。それを見た男が1人の天女に惚れて、どうにか妻にしたいために服を隠してしまうの。羽衣を隠された天女は羽衣が見つからないため、1人残されてしまうの。で、男が女を妻にするの。そういう話」

「なんか最低な話だね」

「まあね。で、その話がなぜか世界中のあちこちあって、調べてみると昔に隕石が降った地域と重なるわけ。最初の羽衣伝説もヒッタイト由来ではないかって言われているの」

「それ本当なのかな?」

「さあね?」

 私は肩を竦める。

 所詮は都市伝説。

「そうだ。隕石ついでに一つ面白い話もあるわよ」

「なになに?」

「関西に磐舟いわふね神社ってあるの」

 私はスマホで磐舟神社を検索し、結果を一条に見せる。

いわの舟。当時は舟って、何で出来た?」

「え? 木?」

「そう。木製。ならいわと言うと何を思い浮かべる」

「そりゃあ……金属の?」

「実は磐舟神社にはある伝説があるの」

「伝説?」

「天の磐舟」

「えっ!? それって飛行機とか!? 宇宙船とか!?」

「天の磐舟より神が降り立ったの。それがニギハヤヒという神なの。そして隕石もあるの」

「隕石? 隕石が磐舟?」

「どうかしらね。ちなみにその地域では修験道の開祖・役小角えんのおずみに関係する所があるわ」

「修験者って、天狗の服装と似ているっいうあの?」

「あと余談だけど織姫と彦星の天の川伝説に関係する神社もあるわよ」

「へえ。そんなに。何かありそうだね。ニギハヤヒか役小角、織姫と彦星のどっちかが宇宙人だったとか。わかったわ。織姫が宇宙人なのよ。事故で地球に降り立って、恋人の彦星とは会えなくなったのよ。遠く離れているからメッセージが届くのに一年がかかるのよ!」

 なんともまあ、これほど想像力が豊かなのか。

「そう熱くなること? 結局は都市伝説よ。面白半分で聞いとけばいいのよ」

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