星海麗奈

第4話 私の名は星海麗奈

 自分で言うのもなんだが、私、星海麗奈は名前の通り、美しく成長した。クラスでもカースト上位の陽キャ組。

 そして星も好きになった。

 けれど星が好きなことと天体観測が趣味なことは友人には話していない。

 私はカースト上位だが、クラスのトップではない。そして発言力や求心力があるわけでもない。一度レッテルが貼られるとカーストは落ちてしまう。

 だから星が好きとは言えない。

 ……好きなのに。

 一年の頃、三年生の男性に言い寄られて困っていた。

 それを天文部三年生の女性先輩に私は助けられた。

 その縁あってか、私は入部した。

 友人達には助けてもらったから、時折手伝いをするということで天文部へ在籍したことを告げた。実際に私は手伝いのみで顔を出していた。

 少し物足りないが、あの頃は本当に幸せであった。


 けれど三年生が卒業して私一人になった。

 天文部は私の代で終わるのだ。

 これからの学校生活は友人達と興味のないことで盛り上がり、楽しんだふりをするのだ。

 本性を殺し、無個性を個性に。

 虚無を実感に。

 偽って、偽る。


 そしてゴールデンウィーク間近で私は星になろうとした。

 今、思うと気が触れていたとしか言いようがないだろう。

 心という箱はボロボロで中身もすかすか。


  ◯


 そして私は助けられた。

 翌日は心臓バクバクだった。何か余計なことを吹聴されているのではないかとビビっていた。

 もし皆に知らされたらどうなるのか?

 説明を求められるのか?

 そんなの嫌だ。

 答えたくない。

 別になんでもないがベストな答えか。

 いや、それならどうしてあんなことをと聞かれる。

 私は教室のドアを開いた。何人かの視線がこちらに向く。その中に一条がいた。

 すでに教室にいる何人かの友人に普通に挨拶する。

 まだ知らないようだ。

 まだ言っていないなか?

 そしてぞろぞろとクラスメート達が登校してくる。

 ホームルームが始まり、いつもの授業が始まる。

 1日が経ち、どうやら一条は何も言っていないと理解した。

 その後、一条の所属する文学部が部員不足で廃部寸前と知り、私は合併を持ちかけた。

 お礼か口止め代わりか。それとも両方か。

 考えるよりも先に行動していた。

 合併案を持ちかけた後で私は謎に思った。

 そして天文部と文学部は合併し存続。

 合併設立当初は部に顔を出す事はなかった。

 でも、天文部のパソコンに用があって私は顔を出した。

 一条は嫌な顔をしなかった。何事もなく本に目を向けて読書をする。

 私も本も読むのは嫌いではないが、あの部室で一人で読むのは嫌ではないだろうか。

 小さい部室。物置部屋代わりに使われてそうな部室。

 もし誰かにあの部室で一人で本を読んでるなんて知られたらたまったものではないだろう。

 それからいつの間にかに暗黙のルールみたいなのが生まれた。

 話しかけるのは頬杖をついた時というもの。

 私は中央に集められた席へと移動し、鞄から雑誌を読み始める。

 別にここで読む必要もない。

 特に読みたいわけでもない。

 ただ何もせずにいるには息苦しい。

 なら帰ればと思われるだろうが、家に帰ったところでやることなんてないし。

 ならスマホでも出してソシャゲでもすればいいと思うだろう。もしくは動画でも見ればいいと。

 でも、私のスマホは一月のギガが少ないのでゲームや動画なんて見ればすぐにギガが減り、低速化してしまう。

 だから雑誌。

 しばらく捲っていると飽きてしまい頬杖をつく。

 すると一条から話しかけられる。

「ねえ、椿姫ってどんな話?」

「椿姫?」

「そう。この前、話していたやつ」

 椿姫。

 フランス文学で恋愛小説。

 でも内容は古く、そして少女漫画のような恋愛ストーリーではない。

 もし私のクラスでの友人にバレると笑われるだろう。

 この話はここでだけ言えること。

 一条には部活での話は全て他言無用と約束している。

 だから大丈夫。

「気になるなら読んでみたら?」

「でも、合わなかったら嫌だしさ」

「古典の恋愛ものなんてどれも合わないよ」

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