第3話 京子さん


 陽花と別れて自宅のマンションに帰ると、共働きである京子さんの両親はまだ帰宅しておらず、家は暗いままでした。


「……」


 電気を付けて、帰りがけにスーパーで買ってきたお弁当をレンジで温めてそれを食べて、お風呂に入って自室に戻ります。

 椅子に座って、机の上に広げた参考書に向き合っていると、玄関の方から母親の帰ってくる音が聞こえてきました。


「……おかえり」

「ただいま、京子……ご飯は食べた?」

「うん」

「そう」


 そう話す母親の声には元気がなく、なんだか疲れた顔をしています。

 最近仕事が忙しいとかで、帰ってくるのも遅く、こんな風にいつも疲れているのです。


「ちゃんと勉強しなさいね」


 そう言って、母親はリビングの方へ行ってしまいます。

 言われなくても今やってるんだけどなあ――と思いながら、京子さんも自分の部屋に戻りました。


 

★★★



「ふう……」


 やることも済ませた京子さんは、歯を磨いて電気を消して、もうベッドに入ってしまいます。

 午後十時。

 健康な中学三年生が眠ってしまうにはまだ早い時間かもしれませんが、昼間の記憶が薄れてしまわないうちにこうしておきたかったのです。


「……」


 目を閉じて、心の中の目だけを開きます。

 小さい頃から一人で過ごすことの多かった京子さんは、こうすると自分の好きな夢を見られることを知っていたのでした。


「……」


 好きな夢――現実では叶えられないこともそこでは叶ってしまう。

 言いたいことも言えるし、なんの我慢もしなくていい世界。

 もし本当にそんな場所があるんだとすれば、それはまさしく「異世界」と言えるよなあ――そんなことを思いながら、京子さんの意識はまどろみのなかに吸い込まれていきました。






 

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