君と過ごした最後の夏

ニガムシ

最後の夏

8月30日 夜

そろそろ寝ようと布団に入った。だが、今日はいつもよりも暑く、なかなか寝付けないそんな夜だった。俺はどうにか寝ようと試行錯誤している時、スマホが鳴った。

(誰だ?こんな時間に)

スマホには11時と言う文字とメッセージが表示されていた。

[明日楽しみだね]

あぁ、そうか。だから、眠れないのか。俺は楽しみにしているんだな。彼女と…。

と俺の意識はそこで途切れた。


8月31日 朝

「ヒ…お…さい‼︎」

…なんだ?

「ヒロ起きなさい‼︎」

意識が一気に覚醒し驚いた俺はベットから転げ落ちた。

「チアキちゃんが来てるから早く準備しなさいよ」

「…わかった」

俺は目を擦りながら外を見た。雲一つない空だ。体を起こしクローゼットから服を取る。

下に降りるとソファに座っている母親と…。

「おはよ、お寝坊さん」

白いワンピースに身を包んだ幼馴染チアキの姿があった。そして、チアキは

「さて、もうそろそろバス来ちゃうから早く行こっか」

と言い俺の腕を掴み外に出た。

これが俺の騒がしい1日の始まりだった。

「まだまだ暑いよね」

と外に出てすぐ何気ない会話を開始するチアキ。

「そうだな」

といつも通りのんびり歩く。…あれ?

「バス大丈夫なのか?」

とさっき急いでいるように見えていたチアキに聞いてみた。彼女は、

「大丈夫だよ。本当は後1時間くらいあるから」

と言う。何かの嫌がらせかと思ったが彼女は続けて

「君と2人きりでゆっくり話したかったんだ許してくれよ」

と恥ずかしがる様子もなく堂々と笑顔で言う。そんな姿を見せられると俺は下手に文句を言えなくなる。

家を出て15分くらいでバス停に着いた。そして、彼女は予約していたチケットを購入してきた。今回どこに行くのか俺は全く知らない。彼女曰く最高の思い出にしてくれるとのこと。

「あと30分くらいでバス来るって」

つまり、あと30分彼女と何気ない日常会話をするわけだ。そして、予想通り会話がスタートした。

さて、ここで軽く俺と彼女チアキとの関係を教えておこうと思う。チアキは恋人ではなく唯の幼馴染だ。生まれた病院から高校まで一緒で、家も目と鼻の先。そして、大体一緒に行動している、と言うだけの唯の幼馴染。

異性として意識した事はないと言えば嘘になるが最近薄れつつある。おっと、話はこれまでのようだ。何故なら、

「あっ、バスが来たね」

と俺とチアキの話も途切れたからである。バスに乗り込み指定された席に座った。席に座るなり彼女は小さな声で

「これなら席の予約しなくても良かったね」

と言う。確かに周りには誰もおらずガラガラである。そして、何故小声になっているかは不明である。

少ししてバスが動き出した。そこでようやく俺は彼女に聞くことにした。何をかって?そりゃあ。

「今日は何処に行くんだ?」

行き先についてに決まっている。まぁ、どうせ彼女の事だから素直に教えて…。

「水族館だよ」

教えてくれました。

「何故に水族館?」

「それはね。涼しいからだよ」

と無邪気な子供のように笑う彼女。それにしても…。

「お前と2人で水族館に行くのは何年振りだ?」

「7年振りかな?…というか、君からそんな言葉が聞けるなんて驚いたよ」

「そうか?」

「うん、いつも私が思い出話すると、そんなことあったか?て言うじゃん」

あぁ、確かに言われればそんな事があったような、なかったような。

「ちなみに言うと今日行く水族館は7年前と同じ場所だよ」

「そうか」

そう言い外を見ると少し大きな白い建物が遠くに見えてきた。

「あれがね。今回の目的地『大空水族館』だよ。そこまで覚えてるかな?」

「…薄らとだけある」

「なんか曖昧だね」

確かに曖昧だ。それに俺はそう思い込み到着まで彼女との会話を続けた。

5分後

[次は大空水族館前、大空水族館前です。ご利用の方は横のボタンでお知らせください]

とアナウンスが入る。

俺がボタンを押そう手を伸ばすとチアキに止められる。そして、

「私が押したい」

と目をキラキラさせながら言う。俺が手を引くと

「ありがと」

と言いボタンを押した。

[次停まります]

とアナウンスが入る。少しそわそわしているチアキ、余程楽しみなのだろう。

バスを降りると直ぐにチアキは俺の手を掴み

「早く行こ」

と笑顔で走り出した。

チケット売り場に来てみて薄らとした記憶と比べてみても昔と殆ど変わりがない。まぁ、でも俺の記憶なんて本当に曖昧なものなんだが。ちなみにチアキは、

「懐かしい、本当に今日は来て良かった」

と思い出に浸っていた。

「早くないか。その言葉、帰りに言うやつだろ」

「確かに言われてみればそうだね」

と俺からチケットを受け取り入場ゲートに歩き出した。

入場ゲートの前まで来た時チアキが

「ちょっと、お手洗いに行ってもいいかな?」

「いいぞ。そこで待ってるからな」

「ありがと」

と駆け足でトイレへ向かった。

そして、3分後

「ごめんね。じゃあ、早速行こうか」

と戻って来たチアキと入場ゲートを通った。

中に入って直ぐ

「わぁ〜。ペンギンだ」

と速攻でチアキはペンギンの方へ向かった。じーっと観察しているチアキ。何かを感じとり動かなくなるペンギン。そして、飼育員が全く動かないペンギンに驚いていた。

「馬鹿野郎、少し近すぎだ」

と俺はずっと観察してるチアキを少しペンギンから離した。すると、ペンギンはまた歩き出し、それと一緒に飼育員も何処かへ行った。

「可愛かったね。ペンギン」

「そうだが、近すぎだぞ」

「ごめんごめん。気をつけるよ」

えへへ。と笑うチアキ。しかし、歩き始めて直ぐ。

「あっ、あれは…‼︎」

とまた何処かへ走って行くチアキ。今度は…ジンベエザメか。あぁ、またもう少し離れてても見えるだろ。また俺はチアキの引き剥がし作業に向かった。

さて、結果として言おう。水族館は結構楽しんだ。魚鑑賞を楽しんだ、というよりはチアキの反応を楽しんだ感じだが。ある程度回ったところでチアキが

「ねえ、そろそろお昼にしない?」

と提案して来た。携帯を見ると12時を過ぎている。さらに、俺は朝から何も食べていない為お腹も減っている。という事でチアキの案内のもと水族館内のフードコートへ向かった。

「ここはね、超美味しい卵サンドで有名なんだよね」

と携帯片手にドヤ顔で説明しているチアキ。

そして、1分もせずにフードコートに到着した。

「並んでるね」

「そうだな」

昼時だから仕方がないとは思う。とここで、チアキが

「ちょっとお手洗い行って来ていいかな?」

と少し顔を赤らめながら言ってくる。

「了解」

「私が遅かったらカレーライス注文しといて」

「卵サンドじゃないんかい」

あれだけお勧めしてたのに…。チアキはそそくさとトイレへ向かった。

そして、

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「味噌ラーメンとカレーライスで」

「お会計1300円になります。…丁度、頂戴します。レシートと番号札でございます。3番でお呼びいたします。少々お待ちください」

レジを離れた所でチアキが帰って来た。

「ごめんね〜。あとでお金返すよ」

「いいよ。あれくらい払わせてくれ」

そうしないと男として情けない、今更だが。

「そっか」

と言うチアキの顔が何故か少し寂しそうに見えた。しかし、それも一瞬のこと、すぐに明るさを取り戻し

「あっ、その番号札イルカの形してる。可愛いな」

といつも通り本当に楽しそうなチアキだった。

5分後

「3番でお待ちのお客様ー」

「チアキ、取ってくるから番号札をくれ」

「…はい」

番号札との別れを悲しんだチアキだったが俺がカレーライスをおくと

「待ってました」

とチアキが喜んでいるのがわかる。

「情緒どうなってんだ。ほんと」

「えっ?何か言った?」

「なんでもない。早く食おうぜ」

「そうだね」

「じゃあ、「いただきます‼︎」」

と食事を開始した。俺が味噌ラーメンを食べ始めてすぐチアキがクスクスと笑い出した。「どうして笑ってるんだ?」

と聞くと。

「いやぁ、君は昔もここで味噌ラーメン食べてたなと思って」

「そうだったか?」

と一口食べて考える。…駄目だ思い出せん。

「でも、お前が昔そのカレーを食べてたのは覚えてるぞ?」

ご飯がイルカの形をしているカレーライス、この海苔にイルカのイラストが印刷されている味噌ラーメンよりは印象に残っている。何より

「へー、そっちは覚えているんだ。ん、おいし」

カレーを美味しそうに食べるチアキの姿が何よりも印象づいている。

二人とも食べ終わった頃

「さぁ、ヒロに質問です」

と元気になったチアキが問う。

「なんだ?」

「ABCのどれか好きなのを選んで?」

凄いめんどくさそうなイベントが始まった。まぁ、でもチアキが考えてくれたイベントだし乗らない訳にはいかないんだが。

「じゃあ。Cで」

と渋々答えると

「ふっふーん。流石ヒロ、良い選択肢を選ぶね」

そして、俺の手を掴んだ。

「さぁ、行こ」

グイっと引っ張られて連れていかれた場所。そこは、

[皆さーん、こんにちはー。今日はキューちゃんのショーに来てくれてありがとう]

イルカのキューちゃんのショーである。

キューちゃんは跳ねまくり前の方に座っているお客を濡らしまくっていた。チアキも濡れに行こうとしたので全力で止めた。理由?それは、チアキ白のワンピースを着ているからとだけ言っておこう。

濡れに行けなかった事だけ少し不満そうだったが。それ以外は終始楽しそうであった。その笑顔はあの時見たものと何ら変わりない、とても…。

「綺麗だ」

「えっ?」

そう心の声に出てしまっていた。やばい、ばっちり聞かれてしまった。めっちゃ恥ずかしい。しかし、チアキは

「…もしかして、あの時の事思い出して再現しようとしてるの?」

と謎な事を言い出した。でも、勘違いしてくれているならこのチャンスに乗るしかない。

「…あぁ、そうだ」

と言うとチアキは頬を赤らめながら

「じゃあ、続けてくれる?」

「勿論ッ‼」

とは言ったが何の事だろう。俺は頭をフル回転させる。再現という事はおそらく昔の俺がこの場所で言ったこと。そして、チアキの反応を見る限り彼女がとても喜ぶ事…告白とか…いや、流石に…。

「そんな…チアキと…つ、付き合えたら…良いのにな」

思い出した。そう、この告白としては何か不十分で出来の悪い言葉おそらく幼かったから何も思わずに言ったのだろう。それにしてもめっちゃ恥ずかしい奴じゃないか俺。痛すぎるだろ俺。

「ふふ」

そんな俺に対しチアキは本当に嬉しそうだった。

「…」

顔の温度が急激に上がるのを感じる。

「ありがと」

とチアキは言う。これも昔言っていたかな?

「…これで満足化?」

「うん」

まぁ、チアキが楽しければそれでいいか。と俺に諦めの心と黒歴史が刻み込まれた。

さて、切り替えよう。

「さて、見るものは大体見たが、他にどこか行くのか?」

と水族館の中を歩きながらチアキに聞く。

「えっとね。…ここ以外でもう一つだけ行きたいところがあるんだけどいいかな?」

「いいぞ、お前に任せる」

という訳で俺たちは水族館を出た。そして、バスに乗り朝の場所まで大体25分から30分、チアキは疲れたのか口数が減っている。そして、バスを降り家とは真逆の方へ歩き出した。この道は…。

「さ、着いたよ」

「やっぱりここか」

いつも遊んでいた公園だ。しかし、昔に比べて…。

「遊具減ってるね」

「あぁ、そうだな」

昔はジャングルジムとか球形のグルグル回るやつとかあったんだがな。

「あっ、でもシーソーはまだある」

「お前ずっと乗ってたよな」

本当にずっと…。

「?なんで泣いてるの」

俺の頬をいつの間にか、つたっている涙。

「思い出の場所が無くなりつつあるからかな?」

「それだけで泣かないでよ、もう」

と笑いながら俺の背中をさするチアキ。

「それよりさ、久しぶりにシーソーで遊ぼうよ」

と俺の腕をグイッと引っ張る。俺は涙を拭い。

「おいおい、俺たちの身長じゃ遊べないだろ」

と笑いながらシーソーに乗って遊んだ。


8月31日 14時頃

何故シーソーで20分ほど遊べたのだろう。俺たちはシーソー遊びを終えベンチに座っていた。

「いやー、疲れたね」

「そうだな」

シーソーってこんなにも汗をかくものなんだな…。

「ちょっと飲み物を買ってくる」

と俺はベンチから立ち上がった。流石に喉が渇いた。

「お前は何がいい?」

「お茶で」

俺以上に汗だくで疲れているチアキを置いて俺は自販機に向かった。

3分後

スポーツドリンクとお茶を買いチアキの元へ戻る。チアキはベンチの上で寝そべっている。何とも無防備な…。

「おーい、買ってきたぞ」

とチアキを揺らすが起きない。

「おーい、おーい」

更に揺らすが全く起きない。もしかして…。チアキの呼吸が荒い。間違いない。俺はチアキの持っているカバンの中から注射器を取り出す。そして、腕に打ち込んだ。すると、チアキの呼吸は落ち着いた。そして、俺は電話をかけた。

「もしもし、はいヒロです。シマダ先生に繋いでください」

シマダ先生と話した3分後救急車が来た。

病院に連れていかれ応急処置をし、チアキは病院のベッドに寝かされた。呼吸も安定している。とりあえず俺はチアキが目覚めるのを待つとしよう。

さて、この間に俺からチアキについて説明をさせていただこう。

忘れもしない幼稚園年中…つまり4歳ごろだ。チアキはいきなり倒れた。呼吸が荒くなり、とても辛そうにしていた。だから俺はすぐに先生を呼び、そして先生が病院に連絡、幼稚園に救急車が来た。それから、チアキは3日ぐらい入院して幼稚園に戻ってきた。そして俺は気がついた先生達のチアキへの態度が変わったことに。人によっては優しくされていると言うのだろうが、俺からすればあれは、哀れんでいるようにしか感じられなかった。可哀想な子を見るような目で優しそうにチアキに接する。俺はそれが許せなかった。俺は先生達からチアキをなるべく離すように努力した。

それから、幼稚園の卒業間近の頃に俺はチアキから

「私ね。この先短いんだって」

と聞かされた。俺は驚いた。彼女が死ぬ事にではなく、こんな残酷な事をこの歳で聞かされてることに。だけど彼女は笑顔だった。そして、

「だからね。ヒロくんといーっぱい思い出を作りたいの」

と告白まがいのものを受けたのだった。それから、俺は彼女と色んなところに行き遊んだ。彼女は本当に楽しそうだった。

ガラガラガラ

おっと、一旦この話はここで止めさせてもらう。チアキの専属医のシマダ先生が来たからだ。

「やあ、ヒロくん。彼女はどうだい?」

「まぁ、今はいいでしょうね」

正直な話幼稚園の頃よりもどんどん悪化しており。薬もだいぶ増えてきた、今日彼女のカバンに入っているのは財布とスマホ、あとは全て薬でパンパンである。

「毎度の事なんだが、チアキくんの生命力には驚かされるね」

シマダ先生が何故こう言うのかと言うとチアキは本当は小学校低学年で死ぬはずだったからである。しかし今は高校2年生、延命治療を受けているとしても異様な長さなのである。

「まるで、この世で未練を残しているゆうれ」

「それ以上言ったら殺しますよ」

医者として最低である。しかし、未練か…。まぁ、彼女に未練があろうが無かろうが生きていてくれていればそれでいい。

「おっと、そろそろ時間だ。僕は違う患者を見て来ることにするよ」

「えぇ、そうしてください」

チアキが目を覚ます前にさっさと消えてくれ。

シマダ先生は病室から出て行った。

…気を取り直してチアキの話に戻ろう。では、簡単に中学校の時の話でも…。

「ん。ん~」

あぁ、駄目だ。チアキが起きたのでまた今度になる。

「よお、大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫さ」

嘘つきめ。

「先生は何か言っていたかい?」

「明日、体が大丈夫なら学校に行ってよし。だとよ」

「そうか。それは良かった。他に何か言っていたかい?」

「特には」

「そうか」

少しの沈黙…。そして、

「いつも君には助けてもらってばかりだね」

と外を見ながら呟く。

「これで何度目なんだろうね。君は覚えてる?」

「少し前の事も覚えてられない俺がそんな事覚えているとでも?」

「だろうね」

チアキは少し呆れているようだ。だが、

「まぁ、でもそれが君らしいと言えば君らしいね」

こっちに笑顔を向ける。

「さて、君はもう帰るといい」

と急にそんな話をチアキは振ってくる。

「そうか?まだ16時だぞ」

外もまだ少し明るい。

「こう言わないと君寝ずに私を見守る気だろう?」

「…帰ります」

流石にこれ以上何か言うと怒られるのおとなしく帰る事にした。

「うん。それでよろしい」

「じゃあな」

「ばいばい」

その言葉を最後に俺は病院を出て15分かけて家に帰った。


8月31日 19時

俺は家に帰った後すぐに風呂に入った。そして、晩御飯を食べ俺は自分の部屋に行く。ベットに寝転がりスマホを見るとメッセージが届いていることに気が付いた。もちろんチアキからだ。

[楽しかったよ」

そりゃあ、良かった。

[俺も楽しかったぜ]

と送り返しスマホを枕元に置き、天井を見上げる今日は満足できる1日だったと感じる。そして、今日は結構疲労が溜まっていたのかすぐに眠気が来た。そこから、一気に夢の世界に…。


9月1日 6時半

今日は母に起こされる事なく自然と目が覚めた。まぁ、昨日あれだけ早く寝たから早く起きれるのは当たり前なんだが…。二度寝に向かうのも悪くはないが今日は学校だし、用事があるから体を起こす。

「今日は早いのね」

制服に着替えて階段を下りると母親が朝ご飯を作り終わっていた。

「朝ご飯作るの早くないか?」

「ふふ、母親の予知能力ってやつよ」

相変わらず母親というものは理解不能である。さっさとご飯を食べ鞄を持ち家を出た。向かう場所はチアキの家である。何故か?それは、チアキの服を取りに行くためである。何故俺が届ける必要があるのかって?それは、チアキからの頼みだからである。

チアキの家に着きベルを鳴らすと紙袋を持ったチアキ母が出てきた。

「今回もよろしくね。ヒロ君」

「はい」

と軽い会話をし紙袋を受け取った。あとは、チアキに届けるだけである。

病院までチアキの家から歩いて15分かかる、俺は時間を見て軽く走って向かうことにした。


9月1日 7時

病院に着いた訳だが。実はここで隠していたことがある、それはこのチアキに服を届けるというイベントにおいて、チアキがまだ起きてないという事がたまに隠しイベントとして発生する。つまりチアキの寝顔が見れるという事なのだ。寝顔にはその人の素の表情が出ると言われている。ちなみに彼女の寝顔は赤ちゃんのようだった。

さて、彼女の病室に着いた。俺は扉を少し開け…。その瞬間、血の匂いがした。俺は

嫌な予感がし一気に扉を開ける。そこには、ベットの上で血塗れのチアキの姿があっ

た。

「チアキ‼チアキ‼」

声を掛けてみるが動く気配もない。更に言うと呼吸もしてない。とそこに、

「大丈夫ですか⁉」

俺の声を聞き駆けつけてきた看護婦がすぐにベットについているナースコールを押した。ナースコールには血が付いておりチアキが押そうとしていたことが分かった。

看護婦さんが何か言っているようだが声が段々遠くなって聞こえない。俺は俺は俺は俺は俺は………。

医者の判断によりチアキの死亡が分かった。死因は血を大量に吐き出血多量との事だ。

葬式が開かれた。参加した。






今日は何日だろうか?

チアキが死んで以来俺は自分の部屋に引きこもった。もしかしたら、チアキから連絡が来るかもしれないと何度も現実から目を背けた。

そんなある時。

「ヒロ、チアキちゃんのお母さんが貴方に会いに来ているんだけど…」

久しぶりに聞いた母の声…俺は無視をするか悩んだが何かを感じたので、そっとドアを開け、下に降りた。

「こんにちは。ヒロ君」

「…はい。こんにちは」

軽く会釈をし、俺はソファに腰を下ろす。そして、チアキの母親は紙袋を取り出し話始めた。

「これね、チアキが貴方に残したものなの」

と紙袋からノートを取り出した。ノートにはチアキの字で大きく[ヒロへ」と書かれていた。とても…チアキらしい。

ノートを受け取り開ける。そこには俺とチアキが出会ってからの事が細かく書き記されていた。

「その日記ね。チアキが人との思い出を忘れないようにって書いていた物なの」

チアキが俺に書いていた日記の数は5冊それともう1冊、題名は『死ぬまでにやりたいこと』である。開けてみると大量の斜線が引かれている。そして、よく見て見るとNo.50水族館に行くというのを見つけた。20ページ以降、空白なこのノートだが最後のページを見て俺は涙が溢れた。

最後のページに書かれている言葉、俺がチアキから一緒にいて一度も聞くことが無かった言葉

『死にたくない』

チアキがそう思わない訳がないんだ。死んでもいい死んでも仕方がないなんて思う人間なんていない。だけど、あいつはそれをずっと声に出さず心の中に押し殺して、誰にも甘えずにいたんだろう。

涙がある程度止まった頃、チアキの母親が

「あと、これも」

と封筒をを取り出した。

「…遺書ですか?」

「そう、ヒロ君宛のね」

俺は封筒を開け中の手紙を取り出し、読み始めた。

【ヒロ君へ 多分これが読まれてらいるって事は私はもう死んでいるんだね。と私の思う遺書を書いてみたんだけど、どうかな?まぁ、手紙の私は君の返事を受け取ることは出来ないんだけどね。さて、早速色々話を始めよう。まず初めに、私は何処まで君との思い出を作れたのかな?一番いいのは最後の水族館まで終わっていること何だけど、まぁ贅沢は言えないよね。とりあえず先の事は分からないから君に質問しよう。何が一番思い出に残ったのかな?聞けたらいいな。さて、次の話題に移ろう。君は私が死んでどう思ったかな?いや、まぁ正直言うと1週間ぐらい泣き喚いてほしいところだけど私の中にある君のイメージが崩れるからやめてね。だからさ、泣き喚きたくなったら我慢して天国にいる私に格好いい姿を見せてください。さもないと嫌いになっちゃうぞ。さて、最後にあのノートには恥ずかしくて書けなかった事を書いとくね。私がずっと生きていられたら、きっと】

手紙が2枚目に入った。ここで俺は紙が少しシワになっている事に気が付いた。何故、シワになっているかは直ぐに理解が出来た。

【君と一緒になれたんだろうな。ごめんね。最後なんて言ったけど嘘になる。やっぱりね、君と一緒に生きたかった。もっといっぱい遊びたかった。君と一緒に最期を過ごしたかった。君に見守られながら老衰するっていう普通の人生を送りたかった。

ここまで書いて思ったけど、私は君に出会えなかったらここまで幸せな事は考えられなかったんだろうな。死ぬのは怖いけどそれ以上に幸せだった。さて、本当に最後の言葉になるけどさ。楽しかったよ】

彼女らしい、本当に彼女らしい言葉選び、止まったはずの涙がまた出てきた。格好いいとこを見せるために我慢しようと頑張ったが無理だった。止まらないものは仕方がない。ここまで泣くのはこれで最後にしようと。思いっきり泣いた。


9月8日 7時

朝起きてすぐ俺は制服に着替え下に降りた。リビングでは母がいつもの様に朝ご飯を作り終わっていた。

「朝ご飯できてるからね」

「ありがとう」

そして、朝ご飯を食べ、家を出る。

家を出てチアキの家の方へ向かおうとしてしまった足を無理やり変え学校へと向かう。大丈夫、俺はあいつに格好いいところを見せなきゃならないんだ。いつまでも悲しんでいる場合じゃない。見てろよ、チアキ。お前の何倍も生きて、お前の何倍も人生を楽しんで、そっちに行ってから自慢話のように思い出話を聞かせてやるからな。

俺は初恋の人を想いこれからを生きていく、これが俺の生きていく意味であり生きがいとなるように。

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