第32話 私と悠人㉜

「わぁ、綺麗……!」

到着したのは、有名な観光地だった。

広大な敷地には様々な施設があり、中でも一番印象に残ったのは、大きな池に浮かぶ白鳥の形をしたボートだった。

早速乗ってみると、水面に映る景色がとても美しくて感動した。

その後も園内を散策した後、お土産屋さんで買い物をしてから帰路につくことになったのだが、

途中で渋滞に巻き込まれてしまったため、予定よりも時間が遅くなってしまった。

それでも何とか無事に帰宅することができたので一安心だ。

翌日からも仕事が続いたが、週末になる頃には疲れも取れてきてリフレッシュすることができたと思う。

そして迎えた休日、私は友人と一緒に出かけることにしたのだが、

「ねぇ、最近夫とはどうなのよ?」

「うーん、特に何も変わらないかなぁ」

と答えることしかできなかった。

というのも、ここ最近は仕事が忙しくてそれどころではなかったからだ。

そんな私の様子を見かねたのか、友人が気を利かせてくれたようで、

「じゃあさ、今日は私と一緒に遊ぼうよ!」

と言われてしまったので断るわけにもいかず、渋々承諾することにしたのだった。

そしてその後、友人に連れられてやってきた場所はカラオケボックスだった。

最初は乗り気じゃなかったのだが、歌っているうちに楽しくなってきたのか、

いつの間にか夢中になってしまっていたようだ。

結局2時間ほど滞在した後、店を出た後はショッピングをしたり食事を楽しんだりして時間を過ごした。

「今日は楽しかったね、ありがとう」

お礼を言うと、友人は笑顔で答えてくれた。

「どういたしまして! また遊ぼうね!」

それから数日後、私は自宅でのんびりと過ごしていたのだが、突然インターホンが鳴ったので出てみると、

そこには宅配便のお兄さんが立っていた。

何か荷物でも届いたのだろうかと思っていると、彼はこう言ったのだ。

「美咲さん宛てにお届けものです。ここにサインをお願いします」

と言われたのでペンを手に取り、指定された場所に名前を書いた後、荷物を手渡してもらうことになったのだが、

その際に少し気になることがあった。

それは、送り主の名前が書かれていなかったことだ。

不思議に思ったものの特に気にすることなく受け取った後、中身を確認してみることにした。

すると、そこには一冊の本が入っていたのだが、表紙には何も書かれていなかった。

不思議に思ったものの、とりあえず読んでみることにした。

しかし、その内容を読んでいるうちに私は言葉を失った。

なぜなら、その本の中には私の写真が大量に収められていたからだ。

しかも、どの写真にも目線が入っておらず、明らかに隠し撮りされたものであることが窺えるものだったのだ。

怖くなった私はすぐに警察に通報したが、その後の調査で犯人は不明のままであった……。

それから数日が経過したある日のこと、私は仕事を終えて帰宅しようとしていたのだが、

途中で忘れ物をしていることに気づいたので急いで引き返したところ、途中で誰かとぶつかってしまったようだ。

慌てて謝ろうとしたところ、その人物の顔を見て驚いた。

なんと、それは先日の宅配便のお兄さんだったのだ!

彼はニヤリと笑うと、私の腕を掴んできた。

そして、そのまま路地裏へと連れ込まれてしまった。

恐怖で動けずにいると、今度は背後から別の人物が現れた。

その人物は、以前にも私を襲おうとしたことのある男だった。

しかし、そこへ悠人が助けに来てくれた。

「美咲、大丈夫か?」

悠人のおかげで、私は何とか助かった。

その後、2人は警察に通報し、男を逮捕させることに成功したのだった。

「美咲、怪我はないか?」

悠人が心配そうに尋ねてきた。

私は、大丈夫だよと答えると、ほっと胸を撫で下ろした様子だった。

そして、そのまま家まで送ってもらうことになったのだが、道中で彼はこんなことを言い出した。

「なあ、今度一緒に旅行に行かないか? ほら、最近仕事が忙しいって言ってただろ?」

突然の提案に驚いたものの、断る理由もなかったので了承することにした。

すると、悠人は嬉しそうな表情を浮かべていたのだった。

その日の夜、私は眠りにつく前に今日の出来事を思い出していた。

(まさか、あんなことになるなんて思わなかったなぁ……)

そう思いながらも、不思議と嫌な気分ではなかった。

むしろ楽しかったくらいだし、また機会があれば一緒に行きたいと思っている自分がいた。

翌日、私はいつも通り出社すると、同僚たちから声をかけられた。

どうやら昨日のニュースを見たらしいのだが、その内容というのが、私が襲われたというもので、

しかも犯人は未だに捕まっていないということだったのだ。

それを聞いた瞬間、背筋が凍るような思いだったが、何とか平静を装って対応することに成功した。

その後は何事もなく一日の仕事を終えた後、帰宅した私は夕食の準備をしていた。

(今日は何にしようかな……?)

メニューを考えながらキッチンに向かっていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。

誰だろうと思いながら扉を開けると、そこには見知った顔があった。

その人は悠人だったが、何故か険しい表情をしているように見えたため、何かあったのだろうかと思っていると、

いきなり抱きしめられた上にキスされてしまった。

突然のことに驚いていると、彼が口を開いた。

その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。

何故なら、彼によって突きつけられた現実を受け入れることができなかったからだ。

そんな私に追い打ちをかけるように、彼はさらにこう告げたのである。

「お前はもう俺のものだ」

その言葉に私は絶望するしかなかった。

何故なら、それが事実であることを理解していたからだ。

そう、私は彼に屈服してしまったのだ。

こうして私は彼のものになってしまった。

「はい、わかりました……」

そう言って頷くことしかできなかった。

それからというもの、毎日のように呼び出されるようになった。

「美咲、キスしてくれ」

「はい、悠人さん……」

命令されるがままに唇を重ねる。

「もっと強く、激しく」

「はい、悠人さん……」

言われるままに舌を絡ませる。

「んっ、ちゅぱっ、れろっ、じゅぷっ、んふっ、んんっ、はぁ、ふぅ、

んんむっ、ちゅっ、ぷはっ、ああっ、だめぇっ、そんなにされたらおかしくなるぅっ!」

頭が真っ白になり何も考えられなくなるほどの快感に襲われる。

そして、同時に自分が壊れていく感覚があった。

もう戻れないところまで来てしまったことを自覚しながらも、私は彼に従うことしかできなかった。

そんなある日のこと、私は仕事帰りに買い物をするため街を歩いていたのだが、そこで偶然にも悠人さんを見つけてしまったのだ。

(こんなところで会うなんて……)

驚きつつも声をかけようとしたが、彼が一緒にいる女性の存在に気づいてしまったことで思い留まることになってしまった。

(誰だろう……?)

気になったので近づいてみると、その女性は彼の腕に自分の腕を絡ませていることがわかった。

しかも、その距離感はかなり近いものであり、明らかに恋人同士であることが窺えるものだったのだ。

(もしかして浮気してるのかな……?)

そんなことを考えているうちに、2人はそのままホテルへと入っていってしまった。

(どうしよう……)

不安な気持ちを抱えたまま、私は帰宅することにしたのだった。

それからというもの、悠人さんは毎日のように彼女と会っていたようだった。

そして、ある日のこと、ついに決定的な場面を目撃してしまったのである。

それは、彼が女性と手を繋いで歩いているところだった。

しかも、その女性は私と同じ会社の後輩だったのだ。

(まさかあの子と浮気してたなんて……!)

ショックのあまりその場に立ち尽くしていると、不意に後ろから声をかけられたのだ。

振り返るとそこには悠人さんの姿があったのだが、その表情はとても冷たいものだった。

「おい、お前何してんだよ?」

低い声で問い詰められ、思わずビクッとしてしまう。

「いや、別に何も……」

と答えると、彼は舌打ちをして立ち去ってしまったのだった。

それからというもの、私は悠人さんを避けるようになったのだが、ある日のこと、

会社で仕事をしている最中に突然呼び出されたのである。

恐る恐る行ってみると、そこには悠人さんと女性の姿があった。

どうやら彼女は私に用があるらしく、話があると言われたのでついて行ったのだが、

そこで衝撃的な事実を聞かされることになったのだ。

それは、悠人さんが浮気をしていたということだった。

しかも相手は私の後輩だったのだから驚きを隠せなかった。

(どうしてあの子が……?)

疑問に思っていると、彼女の方から説明してくれたのだ。

「実は、私が悠人さんのことが好きになってしまったんです。

それで、思い切って告白したらOKしてくれて、付き合うことになったんですよ」

彼女は嬉しそうに語った後、さらにこう続けた。

「でも、最近になって彼の態度が変わってきたというか、冷たくなった気がするんですよね……」

そこで私はハッとした。

(まさか、私が原因なんじゃ……)

そう思うと怖くなって逃げ出したくなったのだが、逃げることはできなかった。

何故なら、彼女がそれを許してくれなかったからだ。

「ねぇ、貴女は悠人の妻なんだよね? 離婚してくれない? 私ね、悠人と結婚したいの」

そう言われた瞬間、目の前が真っ暗になったような気がした。

そして、同時に自分が追い詰められていることも理解していた。

何故なら、私は既に悠人の妻になっているのだから……。

それからというもの、私は毎日彼女に呼び出されては愚痴を聞かされるようになった。

その内容というのが、悠人さんが全然相手をしてくれないとか、私のことを邪魔者扱いしてくるといったものだったのだが、

どれもこれも身に覚えのないことばかりだったのだ。

(一体どうすればいいんだろう……?)

途方に暮れていると、突然背後から声をかけられたのである。

振り返るとそこには悠人さんの姿があったのだ。

彼は私の顔を見るなりこう言ったのだ。

「おい、お前何してんだよ?」

(どうしよう……)

動揺していると、彼は不機嫌そうに舌打ちをして立ち去ってしまったのだった。

それからというもの、私は悠人さんを避けるようになったのだが、ある日のこと、また彼に遭遇してしまったのだ。

しかも今度は会社の中だったので、周りには同僚たちがいたこともあって、とても気まずい状況になってしまった。

そんな中、彼が突然話しかけてきたのである。

「おい、お前何してんだよ?」

その口調は明らかに威圧的で、怒っているように感じられた。

(どうしよう……)

困っていると、そこへ助け舟を出してくれた人物がいたのだ。

それは同僚の女性だった。

彼女は私に耳打ちするとこう言ったのだ。

「ここは私に任せて逃げて」

その言葉を聞いた瞬間、私はすぐに行動に移した。

私はその場から逃げ出すと、そのままトイレへと向かった。

そこで、深呼吸を繰り返して心を落ち着かせることにしたのだ。

(大丈夫、きっとなんとかなるはず……)

自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、ゆっくりと立ち上がったのだった。

それからというもの、私は悠人さんを避けるようになったのだが、ある日のこと、また彼に遭遇してしまったのだ。

しかも今度は会社の外だったので、周りには誰もいなかったこともあり、気まずい雰囲気になってしまったのである。

(どうしよう……)

困っていると、彼が話しかけてきたのだ。

「おい、お前何してんだよ?」

(どうしよう……)

戸惑っていると、突然腕を掴まれてしまったのである。

驚いて顔を上げるとそこには彼の姿が……。

その瞬間、心臓が止まりそうになった。

彼は私を睨みつけると、こう言ったのだ。

彼の目は怒りに満ち溢れており、その視線に射抜かれているだけで身体が震え上がってしまうほどだった。

(怖い……)

恐怖のあまり声も出せずにいると、彼が口を開いたのである。

「なあ、何で俺を避けるんだ? 俺が何かしたのか?」

その言葉を聞いて、私はハッとした。

彼は本気で言っているのだと理解したからだ。

だからこそ、余計に罪悪感を感じずにはいられなかった。

(やっぱりちゃんと話さなきゃダメだよね……)

そう思った私は、意を決して彼に全てを打ち明けることにしたのだ。

すると、彼はホッとした表情を浮かべ、安堵のため息をついた後でこう言ってくれたのである。

「そうか、よかったよ。てっきり嫌われたのかと思ったからさ」

それを聞いて、私は胸が締め付けられるような思いに駆られた。

(ああ、何てことをしてしまったんだろう!)

後悔の念に苛まれながらも、私は謝罪の言葉を口にしたのだった。

「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんです……!」

泣きながら謝る私に、彼は優しく微笑みかけてくれた。

そして、私の頭を撫でながら慰めてくれたのである。

その温もりに包まれているうちに少しずつ落ち着きを取り戻していったのだが、ふとあることに気づいてしまったのだ。

それは、彼の手が私のお尻を撫で回していることである。

最初は偶然かと思ったが、明らかに意図的なものを感じることができたため、慌てて振り払おうとしたのだが遅かったようだ。

いつの間にか背後に回り込まれてしまい、身動きが取れなくなってしまったのだ。

「ちょ、ちょっと何するんですか!?」

必死に抵抗するものの、全く歯が立たないようでビクともしなかった。

それどころかますます強く抱きしめられてしまう始末だ。

このままではまずいと思い、必死になって抵抗を続けるも虚しく終わるだけだった。

「キスするんだよ」

「えっ!?」

突然のことに驚きを隠せない私だったが、そんなことはお構いなしとばかりに唇を奪われてしまった。

しかもそれだけではなく、舌まで入れられてしまったのである。

戸惑いつつも、次第に頭がボーッとしてきて何も考えられなくなるほど蕩けさせられてしまった。

ようやく解放された時にはすっかり力が抜けてしまっていたほどだ。

そんな私を見て満足げな笑みを浮かべると、悠人さんは耳元で囁いたのだ。

「じゃあ、続きは帰ってからにしようぜ……」

その言葉に、私は黙って頷くことしかできなかった。

家に帰る途中、私たちは一言も喋らなかった。

というのも、先程の行為のせいでお互い恥ずかしくて顔を合わせられなかったからである。

しかし、それも仕方ないことだろうと思う。

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