第31話 私と悠人㉛

そこで私は目が覚めた。

随分とうなされていたようで、全身汗まみれになっていた。

おまけに呼吸も乱れているようで、息苦しさを感じるほどだった。

このままではいけないと思い、深呼吸をして気持ちを落ち着かせることにした。

しばらくすると、だいぶ落ち着いてきたようだった。時計を見ると、まだ朝の5時だった。

二度寝しようかと思ったが、目が冴えてしまって眠れそうにないため、起きることにした。

顔を洗い、朝食の準備をしていると、インターホンが鳴った。

ドアを開けると宅配が来ていたらしく見て見ると、悠人の荷物だったのでサインをして受け取ると、

中に入っていた箱を開けると、そこには色とりどりの花束が入っていた。

これは悠人からの手紙も一緒に入っていた。

内容は、誕生日おめでとうということと、プレゼントを送るという内容だった。

(もうっ……こんなことされたら余計に好きになっちゃうじゃない)

そう思いながらも、手紙を抱きしめるようにして胸に当てながら嬉しさに浸っていた。

ふと気づくと、目から涙が溢れ出していた。

それほどまでに嬉しかったのだろう。

その後もしばらく泣いていたが、落ち着きを取り戻すと、手紙を読み返してみたくなり、読んでみることにする事にした。

『美咲へ お誕生日おめでとう! これからもずっと一緒にいようね!』

短い文章だったが、それだけで十分すぎるくらい幸せを感じていた。

それと同時に、悠人に会いたくて堪らなくなった私は、悠人の帰りを待つことにした。

(早く帰ってきてほしいな……会いたいよ……)

そんなことを考えながら悶々としているうちに、時間が過ぎていった。

気づけば夜になっており、窓の外には綺麗な満月が出ていた。

その月明かりに照らされた部屋の中で、私は一人佇んでいた。

そうすると、玄関の方から物音が聞こえたような気がしたので行ってみると、

そこには会いたかった人の姿が見えたので、思わず抱きついてしまった。

「おかえりなさい!」

そう言うと、彼は優しく微笑んでくれた。

それが嬉しくて、つい頬が緩んでしまうのだった。

そんな私を愛おしそうに見つめてくれる彼にドキドキしながらも、彼の温もりを感じていたくてたまらなかった。

しばらくすると、彼が口を開いた。

「ただいま」

優しい声音で囁くように言うと、私の頭をそっと撫でてくれた。

たったそれだけのことなのに、とても幸せな気分になれた気がした。

そのまましばらく抱き合っていたが、やがて名残惜しそうに離れると、お互いに見つめ合ったまま動けなくなってしまった。

だが、それも束の間のことで、すぐに我に帰ると恥ずかしくなって顔を背けてしまった。

そんな私を見て、彼も同じように顔を赤くしていたようだが、あえて気づかないフリをした。

今はそれよりも大事なことがあるからだ。

私は意を決して口を開くと、彼に向かって話しかけた。

「……あのね、今日は何の日か知ってる?」

私が尋ねると、彼は不思議そうな顔をしていたが、しばらくしてハッとしたような表情になったかと思うと、

急に慌て始めた。

「ごめん、すっかり忘れてた……」

そう言って落ち込む彼を慰めるように、頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めていた。

その様子を見ていると、なんだか子犬みたいで可愛いと思ってしまった。

(ふふっ、やっぱり可愛いなぁ)

心の中で呟きながら微笑むと、今度は私からキスをした。

最初は軽く触れるだけのつもりだったのだが、だんだん止まらなくなってしまい、最後には舌を絡めるような濃厚なキスになってしまった。

唇が離れる頃にはお互い息が上がっていたが、それでも構わず抱きしめ合っていた。

それからしばらく余韻に浸っていた後、ようやく落ち着いたところで本題に入ることにした。

実は今日、私の誕生日だったのだが、そのことをすっかり忘れていたようなの。

だから、せめてお祝いの言葉だけでも欲しかったので、

「ねえ、覚えてる? 今日は何月何日でしょうか?」

意地悪っぽく聞いてみると、彼は慌ててカレンダーを確認して、日付を確認すると、申し訳なさそうに謝ってきた。

その様子が可愛くて、ついつい許してしまいそうになるが、それでは意味がないので心を鬼にして叱ることにした。

すると、しょんぼりしてしまったので、さすがに可哀想になってきたので、仕方なく許してあげることにした。

その代わり、埋め合わせとしてデートしてもらうことになった。

というわけで、早速出かける準備をすることにする。

といっても、着替えるだけなのですぐに終わるのだが、その間に彼も身支度を整えていたようだ。

準備が整ったところで、早速出発することになった。

行き先は特に決めていないが、

「どこに行きたい?」

と聞かれたので、とりあえず映画を見に行くことにした。

上映中の作品はどれも面白そうだったが、その中でも特に興味を惹かれたのが、SFアクション映画だった。

さっそくチケットを買って中に入ると、既に満席に近い状態だったため、かなり待つことになりそうだと思ったが、

意外にもスムーズに進んでいき、あっという間に入場することができた。

席に座って待っている間、隣に座ったカップルの男性の方が彼女にちょっかいを出しているのが見えた。

それに対して彼女は恥ずかしそうにしているが、まんざらでもない様子だった。

その様子を微笑ましく見ているうちに、いよいよ本編が始まった。

物語はよくある宇宙を舞台にしたものであり、主人公は宇宙船の乗組員という設定のようだ。

主演は人気俳優のようで、演技力も中々のものだったと思う。

物語が進むにつれ、どんどん引き込まれていった私は、最後まで夢中になって見入ってしまった。

エンドロールが流れ始める頃には、感動のあまり涙が出てしまっていたほどだ。

それくらい素晴らしい作品だと思った。

映画館を出ると、外は既に暗くなっていたので、近くのレストランで夕食を食べることにした。

「ここのお店、一度来てみたかったんだ〜」

と言うと、彼も喜んでくれたようだ。

早速店内に入ると、店員に案内されて窓際の席に座ることができた。

メニュー表を見ながら何を頼もうか悩んでいると、不意に視線を感じたような気がして顔を上げると、彼と目が合ってしまった。

どうやらずっとこちらを見ていたらしい。恥ずかしくなった私は慌てて目を逸らしたが、顔が熱くなるのを感じた。

その後注文を済ませると、料理が来るまでの間、雑談を楽しんでいたのだが、その時にふと気になったことがあったので質問してみることにした。

それは、どうして今日の予定を空けておいてくれたのかということだ。

普通だったら仕事を優先するはずなのに、わざわざ休みを取ってくれているということは何か理由があるのではないかと思ったからである。

案の定、その答えは予想通りだった。

というのも、最近仕事が忙しくて疲れている様子だったからだそうだ。

それで気分転換も兼ねて一日一緒に過ごすことにしたのだという。

それを聞いて嬉しく思う反面、無理をさせてしまったのではないかと心配にもなったが、

本人が大丈夫と言っている以上、その言葉を信じるしかないだろう。

それに、こうしてデートできているのだから良しとしようじゃないか。

そう思い直して前向きに考えることにした。

そして、食事を終えて店を出た後は、再び街中を散策することにした。

歩きながら他愛もない話をしているだけでも楽しかったし、何より好きな人と一緒にいられることが何よりも嬉しかった。

できることならいつまでも一緒にいたいと思ってしまうほどに夢中になっていたのかもしれない。

そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか目的地に到着していたようだ。

そこは夜景が一望できる展望台だった。

そこから見える景色はとても綺麗で、まるで宝石箱をひっくり返したかのような光景が広がっているように見えた。

その光景に見入っていると、不意に後ろから抱きしめられた。

驚いて振り返ると、そこには悠人の顔があった。

どうしたのかと尋ねると、彼は照れくさそうに笑いながら言った。

それを聞いて私も笑顔になると同時に、胸が高鳴るのを感じた。

しばらく見つめ合っていると、自然と顔を近づけていき、そのまま唇を重ね合わせた。

初めは軽く触れるだけのつもりだったが、次第にエスカレートしていき、最終的には舌を入れる濃厚なものになっていった。

お互いの唾液を交換し合い、歯茎の裏まで舐め回すほどの激しいディープキスだった。

その間ずっと抱きしめ合ったままでいたのだが、それが余計に興奮を高めていく要因となっていたのだろうと思う。

やがて息が苦しくなってきた頃にようやく唇を離した時には、銀色の橋がかかるほどだった。

それを見て恥ずかしくなりながらも、どこか幸せな気持ちに包まれていた気がする。

それからしばらく余韻に浸っていた後、私達は手を繋いで歩き始めた。

家に帰る途中もずっと手を繋いだままだったのだが、不思議と恥ずかしさはなかったように思う。

むしろ、このまま時間が止まってしまえばいいのにと思ってしまうくらい幸せを感じていたくらいだ。

そうして家に着くと、そのまま寝室へと直行して愛し合ったのだった。

(はぁ……気持ちいい……)

行為の最中、何度そう思ったことだろう。

それほどまでに気持ちよかったの。

翌朝、目が覚めると隣には下着姿のまま眠る悠人の姿があった。

昨夜の出来事を思い出し、思わず赤面してしまうが、同時に嬉しさが込み上げてきて、自然と笑みが溢れてしまうのだった。

結局その日は一日中ベッドで過ごす羽目になってしまったが、後悔は全くなかった。

それどころか、幸せな気持ちでいっぱいだったの。

その後も何度も体を重ねた結果、妊娠が発覚したのは数ヶ月後のこと。

最初は不安だったが、今はお腹の中に宿った新しい命を大切に育てていきたいと思っている。

それから数年の時が流れたある日、私は自宅で出産を迎えようとしていた。

陣痛が始まり、いよいよその時が来たかと思うと、助産師さんが駆けつけてくれた。

しかし、初めての経験ということもあり、なかなか上手くいかないこともあったが、それでも無事に赤ちゃんを産むことができたのだった。

元気な泣き声と共に現れたその子を見た時、涙が溢れそうになった。

この子が私の子供なんだと実感した瞬間、愛おしさが込み上げてきたのだ。

これから大変なことも多いだろうが、頑張って育てていこうと思うのだった。

それから数年後、私は母親になった。

名前は理恵と名付けた。

理由は特にないが、なんとなくそうしたくなったからだ。

この子はすくすくと成長していったが、それと同時に夫との関係にも変化が現れ始めた。

夫は私のことを女として見てくれるようになったようで、夜の誘いを受けることが多くなった。

最初は戸惑っていたが、徐々に慣れてきたこともあり、今では自分から求めるようにすらなっていた。

そんな日々が続いたある日、ついに一線を越えることになるのだが、その時の快感といったら言葉に表せないほどで、

今でも忘れられない思い出となっている。

それ以来、毎日のように求め合うようになり、夫婦仲はますます深まっていくのだった。

そんなある日、夫が突然、転勤することになったと言ってきた。

しかも海外への異動であり、しばらくは帰ってこられないという。

それを聞いた時はショックのあまり泣き崩れてしまったが、それでも彼が旅立つ前にどうしても伝えておきたいことがあったため、思い切って告白することに決めた。

実は、以前から好意を抱いていたこと、そしてこれからもずっと一緒にいたいと思っていることを伝えると、彼もそれに応えてくれることになった。

「俺も同じ気持ちだよ」

と言って抱きしめてくれた時の温もりは一生忘れることはないだろう。

こうして私達の関係は新たなステージを迎えることになったのである。

あれから半年が経過した頃、彼から手紙が届いた。

内容は近況報告や向こうでの生活の様子などが記されているようだったが、最後に気になる一文があった。

それは、近いうちに日本へ帰ってくるということだった。

これには驚きを隠せなかったが、それ以上に嬉しかった。

また会える日が来ると思うと、その日を待ち遠しく感じるようになった。

それから数日後、空港に迎えに行ったところ、そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。

その中にはもちろん、彼の姿もあった。

久しぶりの再会に喜びを感じつつも、まずは挨拶をすることにした。

すると、向こうから話しかけてきたので、こちらもそれに応じる形で会話を始めた。

最初のうちはお互いぎこちなかったものの、話していくうちに緊張も解けていったようで、自然な流れで話ができるようになった。

そんな様子を見て、周りの人達からは冷やかされたが、それも気にならないくらいに楽しい時間を過ごすことができたと思う。

その後は、みんなで食事に行くことになったのだが、そこでもまた会話が弾んだおかげで、あっという間に時間が過ぎ去っていった。

帰り際に連絡先を交換してから別れたのだが、その夜、彼から電話がかかってきたので、出てみると、いきなり謝られたので何事かと思った。

どうやら、急に出張が決まったため、連絡するのが遅くなってしまったということらしい。

それに対して怒るつもりもなかったし、むしろ仕方ないことだとも思ったので、気にしないでほしいと伝えた上で、

気をつけて帰ってきてね、という言葉をかけることにした。

電話を切った後で、ふと寂しさを感じたものの、すぐに気を取り直して明日の準備をすることにした。

明日は休日なので、朝から出かける予定なの。

そのため、早めに寝ることにして、ベッドに潜り込むと、目を閉じるのだった。

そして翌日、予定通りの時間に起きた後、朝食を食べてから支度を整えて家を出た。

天気は快晴だったので、気分良く駅まで歩いていくことができた。

電車に揺られること数時間、目的の駅に到着した後は、バスに乗って目的地へと向かうことにした。

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