第29話 私と悠人㉙

その内容は、コーヒーメーカーとエスプレッソマシンについてのことだったんだけど、どちらも最新モデルのものらしいの。

それを購入した経緯については、どうやら仕事で必要になったからということらしかったわ。

ちなみに、どうして急にそんなものを買う気になったのか聞いてみたところ、思わぬ答えが返ってきたのよね。

実は、最近になって新しいプロジェクトに参加することになったらしいんだけど、その際に必要な機材や備品を用意する必要があったみたいなの。

それで、どうせならいいものを用意しようと思ったらしくて、色々探した結果、最終的に行き着いた先がこれらだったという訳らしいわ。

それを聞いて納得すると同時に、本当に仕事熱心な人なんだなと思ったわ。

ただ、一つだけ疑問に思ったことがあったので、

それについて聞いてみることにしたの。なぜかというと、これらの商品はそれなりに高価なものだから、

そう簡単に買えるようなものではないと思っていたからなのよ。

それなのに、彼は躊躇うことなく購入を決めてしまったわけだからね。

一体どうやって資金を調達したのか気になって仕方がなかったのよ。

まあ、聞いたところで教えてくれるとは思っていなかったけどね。

だけど、一応ダメ元で聞いてみようと思ったわけよ。

そしたら案の定断られたけど、それでも諦めずに食い下がってみた結果、渋々といった感じではあったけど教えてくれたの。

どうやら知り合いに頼んで融通してもらったということらしいわ。

そういうことなら納得だわ。

それにしても、いつの間にそんな人脈を作っていたのかしらね……?

やっぱり侮れない人だと思ったわ。

そして、夜が明けて行くのでした。

「あ、おはようございます。悠人さん」

そう言いながらベッドから這い出てきたのは、一糸纏わぬ姿の美咲だった。

その姿を見て、俺は昨夜の出来事を思い出すのだった。

彼女と初めて身体を重ねた夜、俺たちはそのまま眠りについたはずだったのだが、朝目覚めると隣には裸のまま眠る彼女がいた。

その姿を見た瞬間、昨日のことが夢ではなかったことを実感させられると同時に、何とも言えない気持ちになったものだ。

そんなことを考えているうちに、彼女も目を覚ましたようだ。

眠そうに目をこすりながら、

ゆっくりと起き上がると、俺の方を見て微笑んできた。

そんな彼女の姿にドキッとする俺だったが、すぐに目を逸らして平静を装った。

だが、それが気に入らなかったのか、

「むぅー、どうして目を逸らすんですかぁ?」

頬を膨らませて抗議してくる彼女に対して、俺は仕方なく答えた。

「いや、その、目のやり場に困るというか……」

俺がそう言うと、彼女は自分の身体を見下ろしてから、恥ずかしそうに俯いてしまった。

その様子を見た俺は、なんだか申し訳ない気持ちになってしまったので、とりあえず謝っておくことにした。

「すまない、無神経だったな」と言うと、彼女は慌てて否定した後、こう言ってきた。

「い、いえ、別に嫌というわけじゃないんです!ただ、恥ずかしいだけで……」

そう言いつつ、顔を赤らめる彼女に、俺は不覚にもときめいてしまった。

(か、可愛いすぎるだろ……!!)

「そ、そうか、それならいいんだが……」

動揺を隠しきれないまま答える俺に、彼女はさらに追い打ちをかけてくるのだった。

「あの、もしよかったらなんですが、悠人さんのお部屋で朝ごはんを作らせてもらえませんか?」

そう言われて断る理由もなく、むしろ大歓迎だったので快諾することにした。

その後、二人でキッチンへ向かい、一緒に朝食の準備をすることになったのだが、これが思いのほか楽しかったのである。

というのも、普段は一人で食べることが多いため、誰かと一緒に作るということが新鮮だったからだ。

そして何より、好きな人と一緒というのが嬉しいという気持ちもあったのかもしれない。

そんなことを考えつつ、出来上がった料理をテーブルに並べていくと、美味しそうな匂いが漂ってきた。

「わぁ、美味しそうですね! 早速いただきましょう!」

と彼女が言うので、俺も頷いて同意した後、食事を始めた。

食べ始めてしばらくは無言だったのだが、不意に彼女が話しかけてきた。

「悠人さんって、毎日自炊されてるんですか?」

突然の質問に驚きつつも、素直に答えることにした。

「ああ、そうだな、基本的に自炊してるよ」

と答えると、彼女は感心した様子で頷いていた。

それからしばらく世間話をしていたのだが、話題は俺の趣味についてのことへと移っていった。

「そういえば、悠人さんって普段どんな風に過ごしてるんですか?」

などと聞かれたので、素直に答えることにした。

と言っても、特別変わったことはしていないんだがな。

と思いつつも質問に答えていくことにする。

まずは朝起きてからシャワーを浴びることから始まるのだが、その後は出勤するまでに洗濯や掃除を済ませておくこと、

昼食は基本的に弁当を作って持っていくことなどを伝えた後で、最後に夕食についても簡単に説明しておくことにした。

基本的には自炊していることや、外食はほとんどしないことなどを話した後、締めくくりとして、

「まあ、こんな感じだな」

と答えたら、何故か微妙な顔をされてしまったので不思議に思っていると、彼女がこんなことを言い出したのだ。

「えっと、なんというか……、それって退屈じゃないですか?

だって、いつも同じことの繰り返しで飽きたりしないんですか?」

そんな質問をされたので、少し考えた後でこう答えることにした。

確かに単調な作業ではあるが、慣れてくるとそうでもないと感じるようになったし、それに料理するのも楽しいからな。だから全然平気だぞ」

そう言って笑ってみせると、安心したのかホッとした表情を見せる彼女だったが、まだ何か言いたげな様子だったので、黙って続きを促したところ、躊躇いがちに話し始めた。

その内容を聞いて、今度は俺の方が驚いてしまうことになったのだが、その理由は彼女の口から語られたものだった。

なんでも、家事全般を担当しているものの、最近ではマンネリ化してしまい、どこか味気ない感じがしてしまうのだという。

しかも、それに加えて最近ストレスを感じることが多くなり、余計にイライラするようになったため、精神的に不安定になりやすくなっているというのだ。

そのため、誰かに相談して解消したいと考えていたらしいのだが、なかなか相手が見つからず困っていたらしい。そこで、いっそのこと自分が結婚して

しまえば良いのではないかと思い至り、今回の行動に出たということのようだ。

それを聞いて納得した俺は、一つ提案してみることにした。

「じゃあ、俺と一緒に暮らしてみるか?」

それを聞いた瞬間、彼女は目を丸くして驚いていたが、すぐに笑顔になると嬉しそうに頷いた。

こうして、俺たち二人は同棲することになったわけだが、それからの生活は想像以上に楽しいものとなった。

お互いに助け合いながら生活していく中で、段々と相手のことを理解していき、惹かれあうようになっていったからだ。

今ではすっかり打ち解けて、恋人同士になった俺たちは、幸せな日々を送っている。

そんなある日、いつものように夕飯の準備をしていると、突然後ろから抱きつかれた。

何事かと思って振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべている彼女の姿があった。

どうやら上機嫌のようで、鼻歌を歌いながら身体を密着させてくる様子はまるで猫のようだった。

そんな彼女に対して苦笑しながら、俺は問いかけた。

「どうしたんだ、急に抱きついてきて?」

すると、彼女は嬉しそうな表情で答えてくれた。

それに対して苦笑しつつ返すと、今度はキスしてきたので驚いたが、すぐに受け入れることができた。

しばらくして唇が離れると、名残惜しそうに見つめ合った後で、再びキスをした。

その後も何度か繰り返すうちに、だんだん気分が高まってきたので、そのままベッドへと直行したのだった。

そんなことがあった翌日、目が覚めると隣には裸のまま眠る彼女の姿があり、昨夜のことを思い出してしまったことで朝からムラムラしてしまった俺は、

我慢できずに襲ってしまった。最初は抵抗していた彼女だったが、次第に大人しくなっていったので、調子に乗って最後までヤってしまった結果、

「もうっ、悠人さんのバカぁ!!」

と怒られてしまったが、それでも最後には許してくれたので、改めて謝罪してから一緒にシャワーを浴びることにした。

そして、浴室から出てきた後は、朝食を食べて出勤する準備をして家を出たところで、今日も一日頑張ろうと思うのだった。

その日、私は仕事でミスをしてしまい、上司から叱責されることになった。

その内容というのが、書類の誤字脱字が多かったというものだ。

幸い、他の人は気づかなかったようなのだが、よりにもよって私のミスだっただけに、余計にショックが大きくなってしまった。

(どうしよう、このままじゃクビになっちゃうかも……)

そんなことを考えているうちに、涙が溢れ出してきた。

それでも必死に堪えていると、突然声をかけられた。

振り向くと、

「大丈夫?」

と心配そうに声をかけてくれた人がいた。その人は、同じ部署で働く同僚の真鍋さんだった。

彼女は私が泣いているのを見て、何かあったのかと心配してくれているようだ。

私は慌てて涙を拭うと、平静を装って答えた。

「あ、いえ、何でもないです、すみません、ご心配をおかけしてしまって……」

しかし、彼女は納得しなかったようで、さらに詰め寄ってきた。

「なんでもないわけないでしょ、そんな顔してるくせに」

と言われてしまい、言葉に詰まってしまった。

気まずい沈黙が流れる中、彼女が口を開いた。

「話したくないなら無理にとは言わないけど、一人で抱え込むよりは吐き出した方が楽になることもあるんじゃない?」

その言葉にハッとした私は、意を決して話すことにした。

実は今日、上司からミスのことで叱られてしまって、それがとてもショックだったのだということを伝えると、彼女は黙って聞いてくれていた。

私が話し終えると、彼女は静かに頷いて言った。

「そっか、それは辛かったね」

そう言われた瞬間、また涙が出そうになったが、なんとか堪えることができた。

だが、それも束の間のことだった。次の瞬間、彼女に抱きしめられてしまったのだ。

突然のことに戸惑っていると、耳元で囁かれた。

「よく頑張ったね、偉いよ」

と褒められて頭を撫でられると、なんだか心地良くなってしまって、つい身を委ねてしまった。

しばらくすると、ようやく解放されたので、お礼を言うと、笑顔で返された。

その後、仕事に戻った後も、同僚たちから励ましの言葉をもらって、心が軽くなったような気がした。

「ありがとうございます、おかげで元気が出ました!」

そう答えると、みんな喜んでくれたようだった。

その様子を見て、私も嬉しくなったのだった。

その夜、家に帰ってからもずっと今日のことが頭から離れなかった。

明日からも頑張らなくてはと思い直し、気合を入れ直したところで眠りについたのだった。

翌朝、いつも通り出社すると、真っ先に上司の元へ向かった。

怒られるかもしれないと思ったが、覚悟を決めて頭を下げた。

ところが、返ってきた言葉は意外なものだった。

昨日の件については一切触れず、逆に謝られてしまったのだ。

驚いて固まっている私に、彼は続けてこう言った。

昨日は言いすぎた、申し訳なかった、これからは気をつけるように……等々。正直言って拍子抜けだったが、

「い、いえ、私の方こそすみませんでした!」

と言って頭を下げた。顔を上げると、彼が微笑んでいたのでホッとしたのだが、その時になって初めて気づいたことがあった。

それは、彼の顔色が明らかに悪くなっていたことだ。よく見ると目の下に隈もできているし、心なしかやつれているようにも見える。

(もしかして、私のことを心配して夜通し考えてくれていたのかな……?)

そう思うと申し訳ない気持ちが込み上げてきたので、もう一度頭を下げて謝った後、自分の席に戻っていった。

「はぁ……」

思わずため息が出るほど疲れ切っていたが、それと同時に嬉しさもあった。

なぜなら、これで彼と一緒に暮らすことができるからだ。

そう思うと自然と笑みが溢れてきて、周りの同僚たちに不思議そうな目で見られてしまった。

いけない、気を付けないとと思いながらもニヤけてしまう顔を抑えられないでいると、不意に肩を叩かれたので振り返ると、そこには先輩である間宮さんが立っていた。

慌てて表情を取り繕って挨拶すると、なぜか不思議そうな顔をされてしまったが、すぐに笑顔に戻ると、声をかけてきた。

「どうしたの?なんか嬉しそうだけど、いいことでもあった?」

そう言われてドキッとしたが、何とか平静を装って答えることができたと思う。

すると、彼女は興味津々といった様子で尋ねてきた。

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