第27話 私と悠人㉗
「大丈夫だよ、僕は必ず帰ってくるから待っててくれないか?」
それを聞いて、私は思わずドキッとしたわ。
だって、これってつまりそういうことだよね……。
そう思うと急に恥ずかしくなってきちゃって、つい顔を背けちゃったのよね。
そうしたら彼が慌てて謝ってきたから、私は慌てて弁解しようとしたんだけど、それよりも早く彼が話し始めたの。
その内容というのがね、なんでも、海外で働いている間に、現地の女性と出会ったらしくて、
その人と結婚を前提にお付き合いをしているらしいのよ。
それを聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になったような気がしたわ。
だって、それってつまり浮気ってことでしょ。
ショックだったわ、もちろんね。
「じゃあ悠人はまた浮気をしていたのね、今度こそ、離婚するね!」
「待ってくれ、それは誤解だよ、僕は決してやましい気持ちでやったわけじゃないんだ、信じてくれよ」
そう言って必死に弁明してくる彼に、私は冷たく言い放ったわ。
「いいえ、信じられません、あなたの言い分は聞きたくありません、さようなら、
もう二度と会いたくないわ、顔も見たくないです、さっさと消えてください、
そして二度と私の前に現れないでください、お願いします、もう帰ってください、
お願いだから、これ以上私を苦しめないで……」
そう言うと、彼は泣きながら帰っていったわ。
その後ろ姿を見つめながら、私の心は悲しみでいっぱいになっていたわ。
(ああ、これでよかったのよね、これであの人も目が覚めたはずだわ、
だって、私がどれだけ傷ついているのか、わかったはずなんだもの……)
そう思いながら、私は自分の部屋に戻ったの。
でも、涙が止まらなかったわ、嗚咽を噛み殺しながら、一晩中泣き続けたのよ。
そうして翌日、彼の家に行くことにしたわ、最後のお別れをするためにね。
そして家の中に入ると彼が出迎えてくれたのだけれど、私の顔を見るなりビックリしてたわ。
そりゃそうよね、だって目がパンパンに腫れていたんだもの。
きっと一晩中泣いていてこうなったんだわ。
我ながらみっともないとは思うけれど仕方がないわよね、だってそれくらい悲しい出来事だったんだもの。
ただもう泣きつくしたからそんなことはなかったかのように接することが出来たと思うわ。
そうして一通り話が終わると、最後に悠人はこう言ったの。
そろそろ出発の時間になったから、もう行かなきゃいけないんだって。
だから私は彼にこう尋ねたわ、すると彼は笑顔で答えてくれたの。
これからも支え合って生きていこうってね。
それに私自身も新しい生活をスタートさせたいと思っていたし、ちょうどよかったのかもしれないわね。
だってこれから一人になって寂しい思いをするよりも今の方が幸せだと思うから。
きっと幸せな家庭を築いていくことだってできるはずだものね!
そんなことを思い浮かべながら私は彼を送り出したのよ。
でも、その時なぜか涙が出てきたのよね、自分でもビックリしたんだけど、どうやら嬉し涙だったみたい。
やっぱり、ずっと離れ離れになるのは寂しいしね。
でも、いつまでもめそめそしていられないわ!
前を向いていかなきゃ、新しい人生が待っているんだから!
そんな想いを胸に抱きながら、私は悠人の帰りを待っているわ。
彼が帰ってくる日を待ちながら、ね。
そう心に誓ったのであった……。
そうして私は彼と別れた。
それからしばらく経ったある日、突然電話がかかってきて、彼が交通事故にあったと聞いたときは驚いたけれど、
それでもなんとか生きていると聞いて安心したのを覚えているわ。
でも、それも束の間のことだったのよね……事故の影響で記憶を失ったとかで彼との連絡が
取れなくなった挙句に入院先もわからずじまいで途方に暮れたわ。
だから退院したと知って真っ先に会いに行ったんだけど、そこで会ったのは私の知らない男性だったのよね。
そう、彼は私のことを忘れてしまっていたのよ、私のことを彼女だと認識できなくなってしまったらしいわ。
それは私にとっても辛い出来事だったんだけどね、やっぱり彼のことが好きだったからね。
そんな簡単に諦められなかったわけよ、だから思い切って告白することにしたの。
改めて自分の気持ちを伝えようとしたわけだけど断られちゃったのよね。
だって彼にはもう付き合ってる人がいるって言うんですもの、それを聞いてショックだったけど仕方がないことだとも思ったわ。
でも諦めきれなかったから何度もアタックしようと思ったんだけどね、あることがきっかけで気が変わったの。
それは何かというとね、私がその彼と何度かデートをしていた時に偶然にも彼が女友達と一緒に歩いているのを見たことがあったんだけど、
その時に見た彼の表情がとても優しそうだったのよね、普段はクールな感じなのにその時は微笑んでいたのよ。
だから私は思ったの、ああ、この人は本当にその人のことが好きなんだろうなってね。
そう思った瞬間、なんだか納得しちゃったのよね、きっと彼は心の底からその女性のことを信頼しているんだろうってわかったから、
もう私が入り込む余地なんてないだろうなって気づいたわけ。
そう考えたらなんかすっきりしちゃってさ、彼への想いも吹っ切れた気がしたのよ、
だって好きな気持ちはずっと持ち続けていたわけだし、その気持ちは変わらないからね。
それからしばらくして彼が結婚すると聞いて驚いたけど正直嬉しかったわね、
私を選んでくれたとしてもきっと不幸にしてしまうだけだし、だからこれでよかったんだと思うことにしたの。
それに好きな人が幸せになるなら私も嬉しいからね、そう思ったのよ。
そんなことがあってから私は一人で生きていくことに決めたわけね。
まあ私なりに楽しくやってるわよ、こうやって過去の自分と向き合って整理することができたわけだしね。
「うん、わかったわ、じゃあまたね」
そう言って電話を切ったあと、私は大きく伸びをした。
それからゆっくりと立ち上がると窓の外に目を向けたの。
外はもう暗くなっていたけれど、雲一つない夜空には星が瞬いていてとても美しかったわ。
それを見ているとなんだか心が落ち着くような気がしたのよね。
そして改めて思ったのよ、やっぱり私って悠人のことが好きだったんだなあってね。
だけどそれはもう過去の話だし、いつまでも引きずっていても仕方がないものね。
だからこれからは新しい人生を歩んでいこうと思うの。
だって私には新しい未来が待っているんだもの!
そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、不意にお腹が鳴ったので夕食を食べることにしたの。
今日は何を食べようかしら?
「ああ、美味しかったわ、ごちそうさまでした」
手を合わせてそう言うと、私は食器を片付けてお風呂に入った。
湯船に浸かりながら今日一日を振り返ることにしたんだけど、特にこれといって変わったことはなかったわね。
「まあ、こんな日もあるわよね」
そう言いながら、私はお風呂から上がって寝る準備を始めたわ。
明日はどんな一日になるのかしら?
そんなことを考えつつ、眠りについたのだった。
翌朝、目が覚めるといつものように朝食を食べて支度を整えてから出勤したわ。
今日もいつも通りの日常が始まるんだろうなと思いながら会社に向かって歩いていると、途中で見覚えのある顔を見つけたのよね。
それはなんと悠人本人だったのよ!
驚いて思わず声をかけようとしたんだけど、彼の隣には女性がいて楽しそうに話していたから邪魔しちゃ悪いと思って黙って見ていることにしたのね。
すると彼は私の方を見てニコッと微笑んでくれたのよ、その笑顔を見た瞬間胸がキュンとなったわ。
「やっぱり、悠人はかっこいいなぁ……」
思わず見惚れてしまったけど、すぐに我に返ってその場を後にしたわ。
それからというもの、私は彼のことが頭から離れなくなってしまったのよね。
どうしてあんなに素敵な男性を手放してしまったんだろうって後悔ばかりしていたんだけど、今となってはどうすることもできないものね。
それでも諦めきれない自分がいて複雑な心境だったけれど、今はただ見守ることしかできないのがもどかしいわね。
でもいつか必ず振り向かせてみせるんだから!
そんな決意を固めながら日々を過ごしていたある日のことだったわ。
突然彼から電話がかかってきて会いたいと言われたのよ。
だから私は急いで待ち合わせ場所に向かったんだけど、そこで待っていたのは見知らぬ女性だったのよね。
「えっと、どちら様でしょうか?」
と尋ねると、その女性はこう答えたわ。
「私は悠人の彼女です」
ってね。
それを聞いた瞬間、頭が真っ白になったわ。
だってまさか彼女がいたなんて思いもしなかったんだもの。
でも冷静に考えてみれば当然の話よね、あれだけ素敵な男性なんだから彼女の一人や二人くらいいてもおかしくないもの。
だけどやっぱりショックだったわ、まさか私がフラれちゃうなんて思わなかったからね。
それでも諦めるわけにはいかないと思って必死に説得しようとしたんだけど、結局ダメだったみたい。
その後は一人で家に帰ったんだけど、その間ずっと泣いてたわ。
なんで私じゃだめだったのかなって考えずにはいられなかったのよね。
「やっぱり、悠人にとって私は都合のいい女に過ぎなかったのかな……」
そんなことを考えていたらまた涙が出てきちゃったわ、でもいつまでも泣いていられないから気持ちを切り替えて新しい出会いを探すことにしたの。
それから数日後のことだったんだけど、偶然見かけた男性に一目惚れしちゃったのよね。
それが今の旦那ってわけなんだけど、最初は全然相手にされなかったのよ。
だけど諦めきれなかった私は何度もアタックしてやっと付き合うことができたの。
今は幸せな日々を送っているんだけどね、時々不安になることがあるんだよね、
もし彼と別れることになったらどうしようって考えてしまうことがあるのよね。
それでも私が選んだ道だから後悔はしていないけどね。
まあとにかく今は幸せだからそれで良しとしましょう。
そう自分に言い聞かせると、私は仕事に戻るために歩き出したのだった。
そうして私達は帰宅の途につくことになったんだけど、途中で私の親友である千夏に出会ったの。
久しぶりだったので立ち話でもしようということで近くのカフェに入ることにしたわ。
そこではお互いの近況報告をしたり、思い出話に花を咲かせたりしてとても楽しい時間を過ごしたわ。
あっという間に時間が過ぎていったので、そろそろ帰ろうかと思っていると、突然店員さんから声をかけられたのよ。
一体なんだろうと思ってそちらを振り向くと一人の男性が立っているのが見えたのよね。
その人は私に用があるみたいだったので話を聞いてみると、私がトイレに行った時に財布を忘れてしまっていたらしくて困っていたみたいなんだよね。
それでわざわざ届けてくれたみたいなんだけど、私は全然気づいてなかったからびっくりしちゃったわ。
でも、親切な人がいると本当に助かるわよね、心から感謝しているわ。
「あの、わざわざ届けてくださって本当にありがとうございました。
何とお礼を言えばいいのかわかりませんが、このご恩は決して忘れません」
私が深々と頭を下げると、その男性は微笑んでくれたんだけど、その笑顔を見た瞬間なんだか胸がドキッとしたような気がしたのよね。
もしかしてこれが恋ってやつなのかな?
まあ今はそんなことを考えている場合じゃないし、今度会ったら必ずお礼を言おうと心に誓ったのであった。
その夜、ふと思い立って昔のアルバムを引っ張り出してみたわ。
悠人との出会いや恋愛の思い出がたくさん詰まっていて懐かしくなった私は、それらをじっくりと眺めていました。
するとその中に一枚だけ写真に写っていないものがあることに気づいたのね。
それは結婚式の時に撮影したものだと思うんだけど、どういうわけか私の姿が写っていなかったのよね。
不思議に思ってよく見てみると、何故か花嫁の後ろ姿だけが写っていることに気づいたわ。
一体どういうことなんだろうと思いながらも、そのままその日は眠りについたんだけど、
翌朝目を覚ました私は驚きのあまり飛び起きてしまったわ。
何故なら、そこには昔の私がいたからよ!
どういう事なのかわからないまま呆然としていると、不意に後ろから声をかけられたの。
振り返るとそこにいたのは見知らぬ男性だったのよ。
その人は私を見るとにっこりと微笑んでくれたのだけど、どこか懐かしい雰囲気を感じたのよね。
そして彼はこう言ったわ。
「久しぶりですね、美咲さん」
ってね……。
その後、その男性は私に一冊のアルバムを渡してくれたのよ。
そこには一枚の写真が挟んであって、それは結婚式の時に撮影したものだったわ。
だけど、その写真には花嫁姿の私の姿は写っていなかったの。
驚いて呆然としていると、彼は微笑みながらこう言ったのよ。
「貴女は覚えていないだろうけど、昔一度だけお会いしたことがあるんですよ」
ってね……。
まさかそんなことがあったなんて夢にも思わなかったわ。
それにしても一体どういうことなのかしら?
そんな疑問を残しつつも、私はその場を後にしたのだった。
翌日の夕方頃、私は自宅でのんびりと過ごしていたんだけど、ふと昨日のことを思い出したのよね。
あの男性が言うように本当に会ったことがあるのかしら?
でも私には全く覚えがないのよね。
うーん、一体どういうことなんだろう? と悩みながら考え込んでいると、突然インターホンが鳴ったわ。
誰だろうと思ってモニターを見てみると、そこに映ったのは知らない男性の姿だったのよね。
しかもその人は私をジッと見つめているようで、何だか不気味に感じてしまったのよ。
もしかしたらまたセールスか何かかもしれないと思って無視することにしたんだけど、
その後も何度もチャイムが鳴るものだからイライラしちゃったわよ。
このままでは近所迷惑になってしまうと思った私は仕方なくドアを開けることにしたのだけど、
その瞬間を狙っていたかのようにいきなり中に入ってきたのよね。
危険を感じた私は咄嗟に男性を突き飛ばして、逃げ出すの。
何とか逃げることができた私は、その日の夜、会社近くのファミレスで悠人に相談することにしたの。
話を聞くと、どうやらその男性は詐欺師だったみたいで、お金を払ってくれる人を探しているみたいなのよ。
そこでたまたま見つけた私がターゲットになってしまったみたいね。
怖い思いをしたけれど、このことを報告しておかないとと思い、帰りに警察署に寄って被害届を出したわ。
これでもう安心だと思ったんだけど、翌日になってもまだ引っかかるのよね。
まさかとは思うけど犯人が見つからないなんてことにならないといいんだけどね……。
心配だわ。
そんなことを考えていたある日のこと、また例の男性が現れたのよ!
今回も同じように私をターゲットにしたみたい……だから必死で逃げたわよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます