第22話 私と悠人㉒
あの光景は本当に現実に起こったことなのだろうか?
いや、そんなはずはないだろうと思いながらも、心のどこかではそれを認めてしまっている部分もあったりするわけで、
複雑な気分のままリビングへと向かった私は、ソファーに座ってテレビをつけることにした。
ニュースでも見れば少しは気が紛れるかもしれないと思ったのだが、画面に映し出された人物を見た瞬間、驚きのあまり固まってしまった。
何故ならそこに映っていたのは私自身だったからだ。
しかも場所はこの部屋だし、服装も同じだったから間違いないと思う。
だとすると、あれは予知夢のようなものだったというのだろうか?
それとも正夢になる可能性もあるということだろうか?
どちらにしてもあまり良い予感はしないよね……そんなことを思いながらチャンネルを変えようとしたところで、
背後から声をかけられたことで心臓が止まりそうになった。
振り返るとそこにはスーツ姿の男性が立っていた。
悠人だ。どうやら帰ってきたばかりらしく、鞄を手に持っているのが見えた。
「ただいま、遅くなってごめん、寂しかったかい?」
そう言いながら近づいてきた彼は、そのまま私を抱きしめると唇を重ねてきた。
突然のことに驚いたものの、すぐに受け入れてしまい、舌を絡め合う濃厚なキスを交わすことになる。
しばらくして唇が離れる頃にはすっかり蕩けてしまっていた。
そんな私に微笑みかけながら、悠人は言った。
「今日はお土産があるんだ、喜んでくれるといいんだけどな」
そう言って差し出されたのは、小さな箱だった。
何だろうと思って開けてみると、中から現れたのは綺麗な宝石がついたネックレスであった。
驚いて顔を上げると、悠人は照れ臭そうに笑いながら頭を掻いていた。
「誕生日おめでとう、これからもずっと一緒にいようね」
と言うと、再びキスをしてきた。
その瞬間、嬉しさのあまり涙が溢れてくるのを感じた私は、悠人に抱きつくとその胸に顔を埋めたのだった。
その後、私たちは夕食を食べ終えると、一緒にお風呂に入ることになった。
湯船に浸かりながらも、悠人が後ろから抱きしめてくるような体勢になっていてドキドキしてしまう。
しばらくそうしていると、不意に耳元で囁かれたのでビクッと反応してしまった。
「好きだよ、愛してる……」
と言われ、耳まで真っ赤になった顔を俯かせることしかできなかったが、同時に下腹部の奥の方がキュンとなるような感覚に襲われた私は、
無意識のうちに太ももを擦り合わせてしまっていた。
それを見た悠人がクスリと笑うと、さらに強く抱きしめてきたが、それだけでも十分な刺激になってしまい、甘い吐息を漏らしてしまう。
そして、そのまま次の日を迎えるのでした。
「んむぅ……ふわぁ〜」
カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びて目を覚ますと、大きく伸びをする。
時計を見るとまだ6時半過ぎだったので二度寝しようかとも思ったが、目が冴えてしまったので起きることにした。
ベッドから出て立ち上がると、まずは洗面所へ向かい顔を洗うことにする。
冷たい水でシャキッとすると、頭がスッキリしたような気がした。
それから着替えるためにクローゼットを開けると、中に並んでいる服を見て思わずため息が出てしまう。
というのも、そこにあるのは全て女性用の衣服ばかりだったからだ。
もちろん、全て悠人からプレゼントされたものである。
最初は抵抗があったものの、今ではすっかり慣れてしまい、むしろ自分から着るようになっていたくらいだ。
「よし、今日も頑張ろう!」
自分に気合いを入れるために大きな声で言うと、朝食の準備をするために台所へ向かうことにした。
冷蔵庫を開けて食材を取り出すと、慣れた手つきで調理を進めていく。
出来上がった料理をお皿に盛り付けてテーブルに並べると、ちょうどタイミング良く悠人が起きてきたところだった。
眠そうに目をこすりながら現れた彼に挨拶をすると、席に着くように促す。
すると、寝ぼけ眼のまま椅子に座った悠人は、ぼーっとしたまま動かないでいた。
「どうしたの? 食べないの?」
と尋ねると、ハッとした様子で我に返ると慌てて食べ始めた。その様子を見ながら私も食事を始めることにする。
今日のメニューはトーストに目玉焼き、サラダといったシンプルなものだったが、それでも美味しく感じられたので満足することができた。
食後のコーヒーを飲みながら一息ついていると、不意に悠人が話しかけてきた。
その内容というのが、出張先での出来事についてだったのだが、何故か妙に距離が近く感じられて戸惑ってしまう。
気のせいかもしれないが、やたらとボディタッチが多い気がするし、心なしか顔も赤くなっているような……?
そんなことを考えているうちに、いつの間にか押し倒されているような体勢になっていたことに気づくと、ますます混乱してしまう。
一体どういうことなのかと戸惑っている間にも、
「ねぇ、いいだろ? ちょっとだけだからさぁ……」
と言いながら迫ってくる彼に対して、私は必死になって抵抗するしかなかったが、結局押し切られる形で一線を越えてしまったのであった。
行為が終わった後、我に返った私は自己嫌悪に陥り、深いため息をつくことしかできなかった。
(どうしてあんなことを言ってしまったんだろう)
後悔の念に苛まれていると、突然頭を撫でられる感触があり、驚いて顔を上げると目が合った瞬間、
優しく微笑まれたことでドキッとした私は、恥ずかしさのあまり顔を背けてしまったのだった。
その後、シャワーを浴びた後で身支度を整えてから出勤する準備を済ませた私は、玄関に向かうと靴を履いてから振り返る。
そこには見送りに来てくれたらしい悠人の姿があって、
「いってらっしゃい、気をつけてね」
と言ってきたので、私は笑顔で頷くと扉を開けて外へ出たのだった。
(ふぅ、今日も一日頑張るぞ!)
心の中で気合を入れつつ、エレベーターに乗り込むと一階へと降りることにする。
エントランスを抜けて外に出ると、眩しい日差しが降り注いできて目を細めることになったのだが、
そんな中でもしっかりと背筋を伸ばして歩いていくことにした。
すると、道行く人々が皆んなして私の方を見ているような気がしてきたため、不思議に思って首を傾げることになる。
しかし、その原因はすぐに判明することになるのだった。
何故なら、その理由とは私が着ている服装にあったからである。
それは、どう見ても男性の格好だったからだ。
「えっ!?」
驚きのあまり声を上げてしまうが、すぐに冷静さを取り戻すことに成功する。
どうやら、これは夢のようだと判断した私は、試しに頬をつねってみることにする。
痛みは全く感じなかったが、これが現実ではないことだけは理解できた。
そこで、今度は自分の胸に手を伸ばすことにする。
恐る恐る揉んでみると、柔らかい感触が伝わってきたことで感動を覚えた私は、調子に乗って触り続けてしまったのだが、途中で我に返って手を止めることにした。
だが、その時には既に遅く、周囲には誰もいなかったのである。
そのことに寂しさを覚えつつも、気を取り直して歩き出すことにした。
しばらく歩いているうちに、ある疑問を抱くようになった。
何故、こんな場所にいるのかということについてだ。
「うーん、やっぱり夢なのかな?」
首を傾げながら呟くが、その答えが出ることはなかった。
それからしばらくの間、街を彷徨っていたのだが、やがて疲れを感じてきたこともあって、近くにあった公園に立ち寄ることにした。
ベンチに腰掛けると、空を見上げながらボーッと過ごすことにする。
しばらくすると、お腹が鳴り出したことに気づいた私は、鞄の中からお弁当箱を取り出した。中身はサンドイッチである。
それを頬張りながら、これからどうしようかと考えていると、不意に声をかけられたことで心臓が止まりそうになる。
「あれ、もしかして美咲じゃないか?」
驚いて振り向くと、そこには見覚えのある人物が立っていた。
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