第17話 私と悠人⑰

私は良く分からない上に彼とは彼氏になってしまい、悠人には申し訳なくなるととりあえず、帰路し、この事を悠人に話すの。

「ごめん、悠人、浮気してた」

悠人の顔を見ることが出来ず、俯いて、泣きそうになりながらそう告げると、悠人はしばらく無言だった。

そして、私が謝ろうと口を開きかけた時、悠人がぽつりと呟いた。

「……そっか、そうなんだね、やっぱり」

悠人の声は、心なしか震えているような気がした。

悠人は、顔を上げると、無理やり笑顔を作ってみせた。

しかし、その目は真っ赤に充血しており、頬には涙の跡が残っていた。

それでも、精一杯笑おうとしているのが伝わってくるようだった。

その痛々しい姿に、胸が締め付けられるような思いになる。

「ごめんね、ごめんなさい、私が全部悪いんだよ」

「違うよ、美咲のせいじゃないよ、大丈夫、大丈夫だから……」

そう言うと、そっと抱きしめてくれたが、その手は少し震えていたように思う。

そんな様子を見てもなお、罪悪感が込み上げてきて涙が止まらなくなってしまったのである。

しばらくすると落ち着いたようで、私から体を離すとこう言った。

「御免なさい、浮気しないので離婚しないで!」

「分かってる、俺も悪かったから、お互い様だよ、気にしないで」

悠人は優しく微笑んで、私の頭を撫でてくれた。

なんだか恥ずかしくなって俯くと、不意にキスをされた。

びっくりして固まっていると、唇を舐められたので、おずおずと口を開けると、舌が侵入してきた。

そのまま舌を絡め取られ、口内を蹂躙される感覚に酔い痴れる。

しばらくして、唇が離れる頃にはすっかり蕩けてしまっていた。

その後もしばらくの間抱き合ったままでいたのだが、不意に悠人がこんなことを言い出した。

「あのさ、さっき言ってたことだけど、あれは本当のこと?」

悠人は真剣な眼差しを向けてくる。

その瞳からは、強い意志のようなものを感じ取ることができた。

だからこそ、私も正直に答えるべきだろうと判断したの。

そうして覚悟を決めた私は、はっきりと頷いて見せた。

すると彼はほっとしたように胸を撫で下ろしていた。

そんな様子を見ていると、こちらまで嬉しくなってくると同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。

そこで、改めて謝罪の言葉を口にすることにした。

「本当に、すみませんでした。謝って許されることではないかもしれないけど、

それでも、どうしても謝りたかったの。許してもらえるとは思ってないけど、

それでも、せめて誠意だけは見せないといけないって思ったから」

それで、恐る恐る顔を上げてみると、そこには優しい笑みを浮かべた彼の顔があった。

それを見て、不覚にもドキッとしてしまったのだが、次の瞬間には抱きしめられていたのだった。

突然のことに驚いて固まってしまっているうちに、耳元で囁かれる声がした。

それは、とても優しい声色だった。

「美咲、キスしような」

「えっ!? あ、はい、どうぞ……?」

思わず返事をしてしまった私に、クスッと笑うと、唇を重ねてきたのだった。

最初は軽く触れるだけのつもりだったようだが、次第にエスカレートしていき、最終的にはディープなものになっていた。

(ああ、またこの人に流されちゃったなぁ……でも、気持ちいいしまあいいか……どうせ逃げられないし……

いやむしろ自分から望んでるくらいだし……別にいっか……幸せだし……)

そんなことをぼんやり考えている間に、いつの間にかベッドの上に押し倒されていることに気づいた時には既に遅かったようだ。

こうして、今日も一日が始まるの。

そう思うと憂鬱ではあるが、それと同時に期待している自分もいることに気づいて苦笑したところで目が覚めた。

「うーん、変な夢見ちゃったなぁ」

独り言を呟きながら、ベッドから起き上がると、大きく伸びをする。

そして、いつものように朝の支度を始めた。

身支度を整えた後、部屋を出る前に姿見の前に立つと、自分の姿をまじまじと見つめた。

そして、今日の服装を決めるために、クローゼットを開けて服を取り出すと、順番に試着していくことにする。

まずはトップスだ。

Tシャツの上にカーディガンを着て、スカートを穿く。

最後にストッキングを履けば完成である。

次にボトムスはどうしようかと考えていると、スマホが鳴ったので確認してみると、悠人からメッセージが届いたようだ。

その内容を読んで、思わず顔がニヤけてしまったが、すぐに我に帰ると咳払いをして誤魔化した。

気を取り直して続きを読むことにしたのだが、書かれていた内容は意外なものだったの。

というのも、今日会えないかというお誘いだったのだが、どうやら話したいことがあるらしいとのことだったので、

何かあったのかと心配になったものの、特に断る理由もなかったので了承することにしたのだった。

その後すぐに返信を送ると、待ち合わせ場所を決めて電話を切ったのだった。

2時間後、指定された駅前に到着した私は辺りを見回すと、見慣れた人影を見つけたのでそちらへと駆け寄ったのだが、

そこにいたのはやはり私の夫でもある悠人だった。

声をかけるよりも先に向こうの方が先に気づいたらしく、手を振ってきたのでこちらも振り返すと、小走りに駆け寄っていったのだが、

ふと違和感を感じたのである。

その正体はすぐに分かったの。

なんと彼の身長が高くなっていたからだ。

以前会った時は私とあまり変わらないくらいだったのに、今では頭一つ分くらい違うように思えるの。

それに声も少し低くなっているような気がするし、顔つきも大人っぽくなったように見える。

何よりも驚いたのはそのスタイルの良さだった。

細身の体に長い手足が伸びており、まるでモデルのような体型をしているだけでなく、

顔もかなり整っているように見えるため、すれ違う女性たちの多くが振り返っていたほどだった。

そんな彼の姿を見ているとドキドキしてしまい、まともに顔を見ることすらできなかったほどだ。

そんなことを考えているうちに目的の場所に着いたようで、車に乗せられたのだが、車内では終始無言のままで居心地の悪い時間を過ごしていると、

やがて目的地に到着したようで車を降りたところから始まったお話です!

車が停車したのは森の中にある小さなログハウスの前であった。

悠人に手を引かれながら中に入ると、そこにはリビングルームがあり、テーブルの上には既に料理が並んでいるのが見えた。

美味しそうな匂いにお腹が鳴ってしまったことに赤面していると、悠人に笑われてしまい恥ずかしくなる羽目になったが、

それすらも愛おしく思えてしまうのだから不思議だと思う反面、これが恋というものなのだろうかと思うようになったのである。

それからしばらく待っていると食事の準備ができたようで、席に着くことになったのだが、目の前に広がる光景を見て愕然としたのだった。

なぜなら、そこには豪華な食材を使った豪勢なメニューばかり並んでおり、明らかに普段食べているものよりもランクが高いことが窺えたからである。

しかし、ここで遠慮していても仕方がないと思い、思い切って食べ始めることにしたの。

一口食べるごとに口の中に旨味が広がり、幸せな気分に浸ることができた。

だが、それも長くは続かず、半分も食べられないうちに限界を迎えてしまったのだった。

そんな私の様子を見かねたのか、悠人が声を掛けてきた。

その言葉に甘えて休ませてもらうことにした私は、ソファにもたれかかって休んでいると、その間に片付けを済ませてくれたようだった。

その後は、食後のお茶を飲みつつ雑談していたのだが、話題は次第にお互いの過去の話へと移っていった。

「そういえば、悠人って昔はどんな子供だったの?」

そう尋ねると、彼は懐かしそうな表情を浮かべてから話し始めた。

その話によると、子供の頃から運動が得意だったらしいのだが、それに加えて勉強もよくできたらしく、

学校の成績は常にトップクラスだったという。

更に容姿端麗であったことから、周りからも注目されていたのだとか。

当時の写真を見せてもらったのだが、今とほとんど変わっていないように見えた。

ただ、一つだけ気になることがあったため、それについて質問してみることにした。

「ねぇ、悠人ってさ、昔、女の子と付き合ってたことない? ほら、初恋の子みたいなやつ」

すると、なぜか一瞬動揺したような素振りを見せたが、

「あー、うん、あったよ、小学生の頃に一度だけね。名前は覚えてないけど、確かに好きだった子がいた気がする」

と答えてくれたので、ますます気になった私は詳しく聞いてみることにした。

すると、悠人は恥ずかしそうにしながらも教えてくれたのだった。

それを聞いているうちに、なんだか私の方まで恥ずかしくなってきてしまった。

というのも、その女の子が自分だったからなのだが、まさかこんな形で出会うことになるとは思っていなかったからだ。

しかも、当時から両想いであったことに驚きを隠せなかった。

だが、同時に納得もしていた。

だからなのだろう、彼と出会ってからは毎日が楽しくて仕方がなかったの。

それこそ、このまま時間が止まってしまえばいいのにと思ってしまうほどに。

「そっかぁ、そんなことがあったんだ……」

感慨深げに呟く私に、照れ臭そうにしながら頷くと、続けてこう言ったの。

「……ああ、そうだよ、その子のことが好きだったんだ」

その言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴るのを感じたが、それと同時に疑問が浮かんだため、思い切って尋ねてみることにしてみたのです。

それは、どうして今までそのことを話してくれなかったのかということだったのですが、

それに対して返ってきた答えは予想外のものでした。

「それは美咲だったし、話す必要性はないと思ったよ。それよりキスしよう、キスしたい」

「ちょっ、ちょっと待って、まだ心の準備が……んぅっ!?」

反論しようとしたところで唇を塞がれてしまいました。

最初は抵抗しようとしましたが、結局受け入れることになったようです。

(まあ、いいか、別に減るもんじゃないし……)

と思いながら身を委ねることにしたのでした。

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