第16話 私と悠人⑯

受付の女性に用件を伝えると、担当者を呼んでくれるとのことだったので待つことにする。

しばらくして現れたのは、30代前半くらいの男性だった。

名前は佐藤というらしい。

彼に名刺を渡して挨拶をすると、向こうも同じように返してくれた。

その後、商談に移ることになったのだが、これがなかなか難航してしまったのである。

というのも、こちらの要望に対して難色を示すことが多く、話がまとまらないまま時間だけが過ぎていってしまったからだ。

結局、その日は一旦保留ということにして、後日改めて話し合うことになったのだった。

次に訪れたのは、B社だ。

ここではスムーズに話が進んだように思う。

というのも、事前に資料を用意しておいたことが功を奏したようで、

こちらの要望を正確に伝えることができたからだ。

その結果、無事に契約を取り交わすことができて安堵していたところに、次の仕事が舞い込んできたというわけである。

B社の担当者に案内されて向かった先は、C社の事務所だった。

そこで打ち合わせを行った後、契約書の作成に移ったわけだが、ここでも問題が発生したのである。

それは、支払いに関するトラブルだったのだが、その原因というのがとんでもないものだったのだ。

なんと、支払えるだけのお金がないと言うのだ!

驚きのあまり呆然としていると、今度は別の問題が浮上してきた。

何と、その担当者が急病で倒れてしまい、代わりの人間がいないというのだ。

困り果てた末に、私は渋々ながら自ら申し出ることになったのである。

「わかりました、私が行きます」

といって引き受けると、早速現場へと向かうことにした。

しかし、到着した先にあったものは、どう見てもただの倉庫にしか見えなかった。

不審に思いつつも中に入ると、そこに広がっていたのは異様な光景だった。

中はかなり広い空間になっており、そこかしこに大きなコンテナが置かれていたのだ。

(ここは一体……?)

と思いつつ進んでいくと、不意に声をかけられたような気がした。

驚いて振り返ると、そこには一人の男性が立っているのが見えた。

歳は20代後半くらいだろうか? 身長は180センチくらいでスラリとしており、髪は短く切り揃えられていた。

顔立ちは非常に整っており、俳優かモデルのように見えなくもない風貌だったが、どこか陰鬱な雰囲気を漂わせていたせいか、

どことなく不気味な印象を受けたのを覚えている。

服装は紺色のスーツ姿であり、ネクタイを締めていなかったため多少だらしなく見えたものの、不思議とそれが様になっているように感じられたのであった。

そんなことを考えているうちに自然と言葉が口をついて出てしまっていた。

慌てて取り繕うように咳払いをすると、平静を装って自己紹介をすることにする。

すると、相手もそれに合わせて名乗りを上げたので、それを受けてこちらも名前を告げることにした。

ちなみに、この時点ではまだ相手のことを警戒しているような素振りは一切見せていなかったと思う。

むしろ興味津々といった様子で聞き入っていた記憶があるくらいだ。

何故なら、目の前にいる相手があまりにも格好良い上に紳士的だったからに他ならないからである。

だがそれも無理はないことだろうと思う。

「はい、よろしくお願いいたします!」

と言って頭を下げた私を、彼はにこやかに微笑みながら見つめていたかと思うと、突然こんなことを言い出したのだ。

「……それにしても、こんなところまでわざわざ足を運んでくださるなんて、あなたはとても優しい方なんですね?」

そう言って微笑んだ彼の表情は優しげなものであったが、なぜか私には胡散臭く感じられてしまったのだった。

というのも、彼の目が笑っていないように見えたからだ。

まるで心の中を見透かされているような気がして、背筋がゾクリとした感覚に襲われたほどだったのだから

間違いないだろう。そんなことを考えていた時だった。

急に腕を掴まれる感触があったかと思うと、次の瞬間には強引に引き寄せられてしまったではないか。

突然のことに驚いた声を上げる間もなく、気づけば目の前に彼の顔があった。

鼻先同士が触れ合いそうなほどの距離まで近づいており、心臓が跳ね上がるのを感じたほどだった。

咄嗟に離れようとしたが、背中に回された腕によってがっちり固定されており、身動きが取れなかった。

しかも、それだけではなく、両足の間に膝を割り込ませてきていたせいで、余計に密着度が高くなってしまった結果、

互いの股間を擦り合わせるような形になってしまったことで強烈な刺激に襲われてしまったのだった。

あまりの快感に意識が飛びそうになったところでようやく解放されたことでホッと胸を撫で下ろす暇もなく、

今度は首筋を舐め上げられて思わず声を上げてしまう羽目になったのだが、その直後に耳元で囁かれた言葉を聞いた途端、頭の中が真っ白になった気がした。

「さあ、始めようか」

その言葉を耳にすると同時に、私の意識は闇の中へと沈んでいったのだった……。

それからどれくらいの時間が経過したのだろうか?ふと気がつくと、

そこはベッドの上だった。

どうやら気を失っていたようだ。

ゆっくりと身体を起こすと、ズキンと頭が痛んだが、それ以外は特に異常はなさそうだったので、ホッとした。

しかし、すぐに違和感に気づくことになる。

なぜ自分はこんなところにいるのだろうか?

そもそもここはどこなのか?

何も思い出せなかったのだ。

ただ一つ言えることは、自分が裸であることだけだった。

どうしていいかわからずに途方に暮れていると、部屋のドアが開き、誰かが入ってきた。

その人物を見た瞬間、驚愕のあまり言葉を失ってしまった。

なぜなら、そこにいたのは見知らぬ男性だったからだ。背が高く体格も良く、引き締まった体つきをしていたことから、

一見スポーツマンのように見えるかもしれないが、よく見ると顔つきはやや幼く、まだ少年と呼んでも差し支えないくらいに見える若い男性だったことに気づく。

おそらく大学生くらいではないだろうかと思われるのだが、少なくとも自分よりも年下であることは間違いなさそうだと思った。

だが、それだけで判断するわけにはいかないと思い直し、思い切って話しかけようとした瞬間、先に向こうから声をかけてきたため、

タイミングを逃してしまった挙句、そのまま黙り込んでしまう羽目になってしまったため、気まずい雰囲気のまま沈黙が続いた後で、

意を決してこちらから話しかけることにした。

ところが、こちらが口を開くよりも早く、彼から話しかけてきたため、

またもや先を越されてしまった形になり、ますます気まずくなってしまい、押し黙ってしまったところ、続けて彼が発した言葉に耳を疑った。

その言葉というのが、次のような内容だったのである。

おはよう、よく眠れたか? 

ああ、そうだ、俺は昨日からお前の彼氏になったんだ、だからこれからよろしく頼むぜ?

(何を言っているんだろうこの人は……?)

と思いながら呆然としていると、再び声をかけられたことで我に返った私は、慌てて返事をすることにした。

すると、彼は満足げに頷きながらこう続けたのである。

さて、そろそろ朝食にしようじゃないか!

実はもう準備してあるんだぜ?ほら、早く来いよ!

あ、それともシャワー浴びたいのか?

それなら浴室はあっちにあるからさ、好きに使ってくれて構わないぞ!

あと着替えなんだけどさ、これなんかどうだ?

お前に似合うと思って買ってきたんだけどよ、気に入ってくれると嬉しいな!

まあ気に入らなくても文句は言わせねえけどな!

何せお前は俺の女なんだからよ!

というわけで、早速着てみてくれよな!

じゃ、待ってるからな!

あ、そうそう忘れるところだったわ、一応言っとくと今日は休みだからな、ゆっくりしようや、なあ、いいだろ?

ってなわけで、早速始めるとするかね!

っとその前に、ちょっと失礼させてもらうかな。

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