第14話 私と悠人⑭
「君に、異動してもらうことになったよ」
突然のことに戸惑いつつも、詳しく話を聞いてみたところ、なんでも海外にある支社の方で、
新しく開設する部署の責任者になってほしいとのことだった。
しかも、単身赴任という形で行ってもらうことになるそうだ。
当然、家族も一緒にという話だったのだが、私は断った。
なぜなら、悠人と一緒にいたかったからという理由もあるが、何よりも彼を一人にするのが心配だったからだ。
もし、自分がいなくなったら、誰が悠人の面倒を見るのかという問題もあるからね。
なので、私は断ろうとしたんだけど、結局押し切られる形で引き受けることになってしまった。
「はぁ……」
思わず溜息が出てしまうほど憂鬱な気分になったが、今更どうしようもないことだと割り切って諦めることにした。
それから数日後、私は空港にいた。これから出発するところだ。
見送りには悠人だけが来てくれたようだ。
他のみんなは仕事が忙しいらしい。
寂しくないと言えば嘘になるけど、それよりもワクワクしている気持ちの方が大きかった。
何しろ初めての海外勤務だからね!
不安はあるけど、それ以上に期待感の方が大きいというのが正直なところだ。
飛行機に乗り込む直前、私は悠人にキスをした後で、笑顔で手を振った。
そして、そのまま飛び立ったのである。
あれから数ヶ月が経過した頃、私は日本を離れて生活していた。
「ふぅ……やっと着いたわね」
長時間の移動で疲れた身体をほぐすように伸びをしながら呟くと、荷物を下ろしてから周囲を見回してみた。
どうやらここが目的の場所のようだ。事前に聞いていた通りの場所だったので間違いなさそうだと思う。
(それにしても、本当に何もない所なのね)と思いながら辺りを見回していると、
背後から声をかけられたような気がしたので振り返ると、そこには一人の男性が立っていました。
年齢は二十代前半といったところでしょうか?
身長はそれほど高くはないけれど、顔立ちは非常に整っていて、まるで俳優さんのようなイケメンでした。
服装もオシャレで、髪型やアクセサリーなどもバッチリ決めているあたり、かなり気合が入っているように見えますね。
そんなことを考えているうちに、彼は近づいてきて話しかけてきました。
「初めまして、あなたが美咲さんですね?」
いきなり名前を呼ばれたことで驚いてしまいましたが、すぐに気を取り直して返事をすることにしました。
「はい、そうですけど……あなたは誰ですか?」
そう尋ねると、彼は微笑みながら答えました。
「失礼しました、僕はこういう者です」
と言って名刺を差し出してきたので、受け取って確認してみると、
そこに書かれていた名前は、やはり聞き覚えのないものでした。
いったい何の用だろうと思っていると、彼が再び口を開きました。
「実は、あなたに折り入ってお願いしたいことがありまして、
こうしてお伺いさせていただいた次第なんですが、少しよろしいでしょうか?」
そう言われてしまっては断るわけにもいかなかったので、
「わかりました、とりあえず話を聞きましょう」
と言われてしまったので、仕方なく話を聞くことにしたんだけど、その内容というのがとんでもないものだったのよ!
なんと、私をスカウトしに来たって言うのだから驚きよね!?
どういうことかと聞き返す間もなく畳み掛けるように話を続けるものだから、すっかり圧倒されてしまって何も言えなかったわ。
でも、最後に言われた一言だけははっきりと覚えているわよ。
それはね、こういうことだったの。
「あなたの才能を見込んで是非とも我が社に来ていただきたいのです!」
って言われてしまったらもう断れないわよね〜そんなわけで、私は彼の誘いを受けることにしたのよ。
それから先はトントン拍子で話が進んでいったわ。
翌日には手続きが完了していたし、翌々日には引っ越し作業をして、その翌日からは新しい職場で働くことになったのよね。
最初は慣れないことばかりだったけど、周りの人達のサポートもあって、少しずつ慣れてきたって感じかしら?
特に、上司の方達が親切に対応してくれたこともあって、なんとかやってこれたのよね。
そうそう、同僚達とも仲良くなれたから、今では楽しく働けているわ。
ただ、一つだけ問題があるとすれば、悠人と会えない日が続いていることくらいかな。
まあ、仕事だから仕方ないんだけどね。
それでも寂しいと思ってしまうのは事実だし、早く会いたいという気持ちもあるわけで、複雑な心境だわ。
とはいえ、いつまでも感傷に浸っているわけにもいかないので、気持ちを切り替えて仕事に集中することにしたわ。
幸いにも、今の仕事はやりがいもあるし、楽しいと思えることも多いしね。
そんな日々を過ごしていく中で、ついに待ち望んでいた瞬間が訪れたんだ。
ある日、上司に呼び出されて行ってみると、そこで告げられた言葉はまさに天啓とも言えるような素晴らしいものだったわ!
その内容というのは、私が以前から希望していたプロジェクトの責任者に任命するというもので、
これには感動のあまり涙が出るほど嬉しかったわ!
これでようやく悠人と一緒になれると思うと、嬉しくてたまらなかったわね。
早速準備に取り掛かることにしたんだけど、これがまた大変だったのよねー何せ、
世界中を飛び回ることになるわけだから、必要な荷物も多くなるわけだし、何より費用の方も馬鹿にならないからね。
ということで、まずは貯金を崩すことから始めたんだけど、これがまた大変でね。
なんせ、今まで節約生活を続けてきたせいで、ほとんどお金がない状態だったんだもの。
正直言って途方に暮れたわ。
だけど、ここで諦めるわけにはいかないと思って、必死になって働き続けた結果、なんとか目標金額まで貯めることができたのよ。
あとは、これを元手にして準備を進めるだけなんだけど、その前に色々と下調べをしたりする必要があると思ったので、
現地の観光も兼ねて旅行することにしたの。
行き先はもちろんアメリカよ!
初めて訪れる土地ということもあって、とても楽しみにしていたんだけど、実際に行ってみると想像以上に素晴らしいところだったわ!
街並みは綺麗で治安も良いし、食べ物も美味しいものばかりだったから、毎日幸せを感じていたわ。
中でも一番印象に残っているのは、ニューヨークに行った時のことだったわ。
その時のことは今でも鮮明に覚えているわ。
なにしろ、本物の自由の女神像を見ることができたんですもの!
しかも、それをバックにした写真まで撮れたんだから最高としか言いようがなかったわね。
その他にも色々と見て回ったんだけど、どれも素晴らしくて本当に楽しかったわ。
特に印象に残ったのは、ブロードウェイで観たミュージカルね。
あれには感動したわー思わず泣いてしまうほどだったもの。
それだけじゃなくて、他にも色々な場所を巡ったおかげで、たくさんの思い出を作ることができたわ。
その中でも一番の思い出といえば、やっぱりロサンゼルスでしょうね。
というのも、ハリウッドスターに会ったことがあるからなのよね。
といっても、プライベートではなく仕事で会ったんだけどね。
その時に撮った写真を飾ってあるんだけど、それがすごく素敵な出来栄えなのよねー!
さすがプロの仕事という感じだわ。
私も将来はああいう風になりたいなーなんて思ってたりするわけよ。
あ、もちろん悠人との夫婦資金を稼ぐことも忘れてはいないわよ?
ちゃんと稼いでいるからね!
その点については安心してくれて大丈夫よ。
さてと、そろそろ時間だし行かないとね。今日も一日頑張るぞ!
おー!
翌朝、目を覚ますと同時に大きく伸びをする。
まだ眠気が残っているせいか、頭がボーッとするなと思いつつベッドから降りると、洗面所へと向かうために部屋を出た。
廊下を歩いている途中で、ふと窓の外を見ると、雲一つない青空が広がっているのが見えた。
それを見て、今日は何か良いことがありそうだなと思いながら、顔を洗ってさっぱりしたところでリビングへと向かった。
キッチンの方から何やら音が聞こえてくるので覗いてみると、そこにはエプロン姿の悠人が立っていた。
どうやら朝食の準備をしてくれているようだ。
そのことに感謝しつつ、邪魔しないようにそっと通り過ぎようとしたところで、悠人に呼び止められた。
振り返ると、彼は笑顔を浮かべながら話しかけてきた。
「おはようございます、美咲」
その言葉に、私は笑顔で挨拶を返すと、そのままキッチンを後にした。
その後、身支度を整えてから出勤するために玄関へ向かうと、そこには既に悠人が待っていた。
彼は靴を履いている私に声をかけてきた。
「美咲、忘れ物はないですか?」
そう言われて、慌ててバッグの中を確認するが、必要なものは全て入っているようだ。
それを伝えると、彼は安心したように頷いた後で、私の手を取り、指を絡めてきた。
突然のことに驚いていると、彼は照れくさそうに笑いながら言った。
「えへへ、いってらっしゃいのキスですよ」
そう言われた瞬間、私の顔が熱くなるのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます